読書の入りぐちにたつ小学1、2年生に手渡したい本

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/16

保育園・幼稚園までは絵本の読み聞かせに熱心だったご家庭も、小学生になったら自分で本を選んで読むもの、自分で読んでほしい……とつい手離してしまうことはありませんか。

本を選ぶこと、本を読むことの両面において、小学生にはまだまだ大人のサポートが必要です。
なぜなら本との出会いを子ども任せにしていると、本という文化そのものとの出会いが少なくなってしまうばかりか、大人がそのうちたどり着くだろうと思っている名作にも、良いきっかけがない限り、なかなか出会えないということが起こってしまうからです。

では、小学生の読書を豊かにしていくために大人ができるサポートにはどのようなものがあるのでしょう。小学1、2年生の読書に必要な大人のサポートと、豊かな読書への入りぐちとなるおすすめ本をご紹介します。

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小学1年生は、みんな本が好き!

まず、小学校に入ると、小学1年生は学校図書室との出会いがあります。一番はじめに使い方のオリエンテーションがあり、その後、貸し出しが始まります。

学校図書室の良いところは、

 全員に等しく、本と、本がたくさん並んでいる場所=図書室 との出会いがあるということ
 自分で好きな本を選んで、借りられるということ

私が学校図書室に勤務していた経験から言うと、小学1年生で、図書室にずらっと並んでいる本にワクワクしていない子はひとりもいません。ここにある本をなんでも自由に借りていいんだよ、と伝えると、たちまち歓声が上がるのです。

では、この最初のワクワクした気持ちをこの先もできるだけ長く持続させていくために、大人ができることはどんなことなのでしょう。

大人ができる小学生への読書サポートとは?

まず、大きいのは担任の先生の働きかけです。

小学校の先生へ

すでに実践されている先生も多くいらっしゃることと思いますが、小学1年生から6年生まで、すきま時間でできるだけ本を読んであげてほしいと思います。1、2年生には、絵本や昔話の絵本を中心に、3、4年生以上になったら、絵本だけでなく、読み物を少しずつ読んであげるのも良いでしょう。5、6年生には、ひとつのテーマにしたがって複数の本を紹介するブックトークもおすすめです。
先生が読んでくれたり、紹介してくれた本は子どもたちの心に深く残ります。いかに担任の先生が紹介する本の影響が大きいかということは、先生がクラスで読んでくれた本を借りたいと言って図書室に駆け込んでくる子どもたちの姿からいつも実感していました。担任の先生が習慣的にクラスで本を読むと、クラス全体で読書を楽しむ雰囲気ができあがり、本が好きな子どもたちが増えていきます。
どうかこの記事を読んで下さる方の中で小学校の先生がいらしたら、ぜひ日常的にクラスで本を読んであげてください。

お母さん、お父さんへ

次は、ご家庭での子どもたちへの効果的な働きかけについてお伝えします。

ステップ1

子どもが図書室で本を借りてきたら、その本に関心を持って、話題にしてみましょう。その時に、どんな本を選んできていても、その本を選んだことを褒めてあげることが大切です。そうすることで、子どもたちは自分の本選びに自信を持ち、また次も本を借りてくるようになります。借りてきた本を読んであげられそうであれば、ぜひ読んであげてください。

この繰り返しだけでも、子どもたちが本に親しむ大きな第一歩となります。

ステップ2

家の中で子どもたちの手の届くところに、常に本を置いておきましょう。本の置き場所を決めておいても良いですし、部屋のあちこちに少しずつ置いておくのも良いかもしれません。いつも身近に本があり、ふとした時にすぐに手に取れる環境を作ることをおすすめします。

さらに、

なかなか時間が取れないということもあるかと思いますが、お母さん、お父さん自身が本を読み、本を楽しんでいる姿を見せるということは、子どもが本を好きになる大きなきっかけとなります。それは、大人が楽しんでいるものはきっと面白いものに違いない、と自然に子どもは思うからです。大人が自分のための読書を楽しむのはもちろんですが、児童書や児童文学には大人が読んでも面白い作品がたくさんあります。お子さんと一緒に同じ本を読んで、その本について会話してみるという方法も効果的です。

小学1、2年生向け、名作への読書に繋がる本をご紹介

先ほど、ご家庭での子どもたちへの効果的な働きかけのところで、子どもが図書室で本を借りてきたら、その本に関心を持つこと、そして褒めることをお伝えしましたが、おそらく子どもが自分で借りてくる本と、大人が読んでほしい本には大きなギャップがあることでしょう。子どもが借りてきた本を褒める、尊重する、ということを大前提にしながらも、本選びをずっと子ども任せにしておくと、小学生の時に出会ってほしい心に残る本や名作に、なかなかたどり着かないという可能性もあります。

小学生が本に本当の意味で出会うためには、子どもが自分で選ぶ本と、大人が選んで手渡す本の両方があることが必要だと考えます。

ということで、大人が選んで手渡す本はどのようなものが良いのか、絵本から読み物への橋渡しになり、かつ心に深く残る本や、名作への読書に繋がるような本を紹介したいと思います。ここで紹介する本は、はじめは子どもがひとりでは読み始めないかもしれません。しかし最初に大人が読んであげれば、だんだんひとりでも読み始めるようになるでしょう。その時が来るのをじっと待ちながら、お母さん、お父さんが読んであげてください。

それでは、シリーズ作品を5冊ずつ、1冊読み切り型の作品を5冊ずつ、ご紹介します。

小学1、2年生に手渡したいおすすめシリーズ5選(好きなお話を続けて読むのが好きな子へ)

うみべの おはなし3にんぐみ

作:ジェイムズ・マーシャル訳:小宮 由

みどころ

ある日、砂浜でピクニックをしていたローリー、スパイダー、サムの3人。おなかいっぱい食べたひと休みの時間、食べてすぐ泳ぐのは良くないし、かといって昼寝もつまらない。

「じゃあ、おはなし、きかない?」
提案したのは、つばの広い麦わら帽子に緑色のサングラスをかけたおしゃまな雰囲気の女の子、ローリー。
「あたし、じぶんで おはなし かいてるの。」

ローリーが話したのは、ねずみとねこと犬が登場するおはなし。
あれ、もう終わっちゃうの? サムとスパイダーは物足りない様子。

それならば、と、個性的な帽子にカラフルな服装の男の子、サムがおはなしを始めます。
ローリーから「ねずみとねこのおはなし」というお題を与えられて作ったのは、ねずみがペットショップでねこを買うおはなし。サムは即興で作ったと思えないような、なかなかのストーリーテラーぶりを発揮します。

最後は、3人の中で一番活動的な雰囲気の男の子、スパイダーの番。スパイダーが作って話すのはこわいおはなし! おなかをすかせたかいじゅうが海から現れ、なにか食べるものはないかと砂浜を歩きまわっています。ローリーとサムのおはなしに出てきたねずみやねこもちゃんと登場しますが、かいじゅうの好物はなんといっても、にんげんの子!
「うほっ! いたいた!」
男の子がふたりに、女の子がひとり。
砂浜にいたにんげんの子!? それってもしかして‥‥‥。

仲良しのともだちとうみべで過ごすのんびりとした時間。リラックスした雰囲気の中、語られていく3人の自由な想像で生まれるおはなしには、さりげなくそれぞれの個性も反映されているようで、なんて面白いのでしょう。

ユーモア溢れる楽しいおはなしを書かれたのはアメリカの絵本・児童文学作家のジェイムズ・マーシャルさん。絵にもまたユーモアがたっぷり感じられて、見れば見るほど味わい深くなってきます。個人的なお気に入りは、表紙を開いたところにある3人の後ろ姿。読み終えた後にこの絵を見ると、3人の仲良しな姿がとっても幸せな気持ちにさせてくれるのです。
そのジェイムズ・マーシャルさんのユーモアをしっかりと心地良い日本語で伝えてくれるのは、小宮由さん。自らを「1930年から70年の、アメリカの絵本黄金期の作品を掘り起こす考古学者」と語られる小宮由さんが、ジェイムズ・マーシャルさんのこちらの作品を発掘し、日本の子どもたちが読めるような形で届けてくださいました。訳の中でとくに注目したいのは、サム、スパイダー、ローリーのセリフの部分。それぞれの個性が伝わってきて、3人それぞれに親近感が湧くところもこの本を好きになるきっかけとなりそうです。

おはなしを聞く楽しさ、作る楽しさ、想像する楽しさ……と、おはなしの魅力がたっぷり詰まった一冊。読んだ後は、自分でもおはなしを作って人に話してみたくなってしまうかもしれません! 挿絵がたっぷりで文章も易しいので、はじめてのひとり読みに挑戦する作品としてもおすすめです。

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ぼくはめいたんてい(1) きえた犬のえ(新装版)

文:マージョリー・W・シャーマット絵:マーク・シーモント訳:光吉 夏弥

みどころ

9歳のネートは探偵です。
今日もネートの元に1本の電話が入りました。
仲良しの女の子アニーから、なくなった絵を探してほしいとの依頼です。

すぐにアニーのところへ駆けつけるネート。
まず、アニーの話をじっくり聞き、部屋の中をくまなく調べます。
次に、その絵を見た他の人たちー仲良しのロザモンド、弟のハリー、犬のファングについて丁寧に調査していきます。
はたしてネートは、アニーのなくなった絵を発見することができたのでしょうか。

一見、すぐに解けそうと思わせておきながら、意外になかなか解けないナゾの面白さと、ネートのツボを押さえた探偵ぶりに子どもも(大人も!)たちまち心を掴まれてしまいます。
また9歳という年齢でありながら、どんなナゾが来ても常に落ち着き、周りから頼りにされているネート。子どもたちは、自分と同じぐらいの年齢の子の活躍とカッコよさにたちまち憧れてしまうのではないでしょうか。一方でパンケーキが大好物で、気が付けばいつもパンケーキを食べているところには親しみを感じてしまいますね。

こちらは、1982年の発売以来、たくさんの子どもたちに愛され、読み継がれてきた「ぼくはめいたんてい」シリーズの第1巻目。マージョリー・W・シャーマットさんによる全17巻となるこちらのシリーズは、5歳ぐらいから小学校低学年の子どもたちにちょうど良いハラハラさで、子どもたちがはじめて物語の楽しさに出会えるシリーズでもあります。つぎつぎにネートに降りかかるナゾ解きの面白さはもちろんのこと、巻ごとに増えていく個性的な登場人物、ネートからママへの置き手紙の内容など、読めば読むほど多くの楽しみをも発見できるでしょう。

すべての漢字にふりがながついているので、はじめての読み物としてもぴったり。ひとり読みに移る前に、まずは読んであげながら親子で一緒にナゾ解きを楽しんでみるのもいいですね。シーモントさんの温かくユーモアたっぷりの挿絵と、訳者の小宮由さんの柔らかな語り口も、子どもたちの読書をやさしく応援してくれます。お話の最後には「めいたんていのこころえ」もついていて、もし周りでなにかナゾが起きた時の役に立つかも!? さあ、ネートとどんどんナゾを解いて、一緒に名探偵になろう!

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キダマッチ先生!(1) 先生 かんじゃに のまれる

文:今井 恭子絵:岡本 順

みどころ

仏さまがアグラをかいた形のアグラ山。
そのふもとの、小さな池のほとりにすむのは…カエルのキダマッチ先生です。
キダマッチ先生は、どんな病気やけがでもあっという間になおしてくれるという、評判の名医です。
きょうはどんな患者がやってくるでしょうか。

足をひきずるアリンコじいさん、息がくるしいトカゲのおくさん、そして牧場で倒れた子ウシ…!?
小さな患者から大きな患者まで、キダマッチ先生は引き受けます。

カエルの姿に、名医らしい風格がにじむキダマッチ先生。
白衣は着ないけれど(なぜかというと背中のせっかくの水玉もようがかくれてしまうから)、患者のいうことを鵜呑みにしないし、良心的な値段で診てくれるし、サブタイトルにあるとおり“かんじゃにのまれる”ほど我が身が危なくてもちゃんと治療をしてくれるし…。
本当にいいお医者さんです!
そんなキダマッチ先生にも気になることがひとつ。それは、出て行ってしまった派手好きの奥さんのことですが…?

児童文学作家、今井恭子さんの初めての絵本シリーズ、第1作目。
岡本順さんの挿絵は繊細で生き生きしたタッチがすばらしく、生き物たちの姿や、診察室の中など、いつまでもながめていたくなります。
個人的には、先生が黒い医者かばんを頭にのせてすいすいと泳ぐ絵に、すっかり心を奪われてしまいました。なんてのびやかに、気持ちよさそうに描かれているのでしょう!

さて、気になる奥さんのその後は本書ではわかりません。シリーズははじまったばかりですから、きっと徐々にいろんな出来事が描かれていくのでしょうね。
はじめての1人読みにもぴったりのシリーズです。小さな名医、キダマッチ先生にご注目くださいね。

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ナナカラやまものがたり(1) くまおばあちゃんのジャム

作:どい かや

みどころ

どこまでも続く青い海と空にかこまれた「ナナカラやま」は、美しく豊かな世界。ナナカラやまには、動物や花や木や魚、虫や石や風‥‥‥など数えきれないほどのいろいろな生きものー「ナナカラたち」が暮らしています。

人間が昔から物語を語り継いできたように、ナナカラたちもたくさんの語り継ぐ物語を持っています。うれしいこと、かなしいこと、ずっと昔からあったことからつい昨日の出来事まで、おはなしやうたにして楽しみながら大切に伝えるのです。

1巻目の『くまおばあちゃんのジャム』では、くまおばあちゃんが孫のこぐまと過ごす日常の中に、自然にお話が溶け込んでいます。
ミツバチたちにハチミツを分けてもらうかわりに語る「はなひつじやま」の話。
夜寝る前に聞く「たぬきのむすめさん」の話。このお話はとくにこぐまのお気に入りです。

どちらのお話にもナナカラやまの自然の豊かさや恵みがたっぷりと感じられて、かつユーモラスで楽しさがいっぱい。そんなおばあちゃんが語ってくれる物語が作品の大きなみどころですが、さらに美味しいものが出てくるところもとっても魅力的! おばあちゃんが作るやわらかくて白いおだんごに、のいちごとはちみつで作ったできたてのジャムをかけて食べる様子がたまりません。また、自然から何かをいただく時には、必ずかわりに何かを差し出すおばあちゃんの姿勢は、自然を大切にする気持ちをさりげなく教えてくれているようです。

こちらの「ナナカラやまものがたり」シリーズは、2014年に童心社さんより刊行された『ナナカラやまものがたり』に新たな物語が加わり、全3巻となってあらたに誕生したシリーズです。判型がちょっと小さめで子どもの手のひらにすっぽり入りそうな大きさと、ほんのりとした和の色彩の表紙は、子どもだけでなく大人の心も掴んでしまいそうな可愛らしさ。本のすみずみまで丁寧に描かれる自然の美しさと楽しさからは、作者のどいかやさんの自然を敬い、愛する視点がたっぷり伝わってきます。

子どもから大人まで楽しみたい「ナナカラやま」の美しい世界。この先長く読み継がれるシリーズとなっていくことでしょう。子どもたちには、とくに絵本から読み物への移行期におすすめです。

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チュウチュウ通りのゆかいななかまたち 1番地 ゴインキョとチーズどろぼう

作:エミリー・ロッダ絵:たしろ ちさと訳:さくま ゆみこ

みどころ

絵本の次の段階に何を読んだら良いか迷ったら、まずこちらの「チュウチュウ通りのなかまたち」シリーズ(全10巻)をおすすめします。

舞台は、ネコイラン町のチュウチュウ通り。1番地から10番地まで、それぞれ個性的なハツカネズミが住んでいます。1巻目は1番地に住むおじいさんネズミ:ゴインキョのお話、2巻目は2番地に住む古道具屋さん:クツカタッポのお話……10巻目は10番地に住む郵便屋さん:スタンプのお話と、10匹のハツカネズミを主人公にした楽しい事件のお話が10続きます。

1巻目のゴインキョは、お宝をどっさり持っているおじいさんネズミ。ネズミのお宝といったら……?!そう、それは金色にかがやくチーズ!ゴインキョは、そのチーズを眺めたり、においをかいだりするのが大好きで、でもひとりじめせずに友だちにごちそうすることも好きで、ゴインキョ家のチーズ・パーティは、チュウチュウ通りで有名でした。
しかしある日、ゴインキョの元に「きんきゅう」と書かれた、どろぼうへの警告の手紙が舞い込みます。宝物のチーズがあぶない?そしてゴインキョの身にも危険が!?ハラハラドキドキの展開に最後まで目が離せません。お話の中には他の巻に出てくるハツカネズミたちも登場しますのでこちらにも注目して下さいね。

作者は、オーストラリアで最優秀児童図書賞をたびたび受賞されているエミリー・ロッダさん。日本でも子どもたちに大人気の「デルトラ・クエスト」シリーズや、「フェアリー・レルム」シリーズ、「リンの谷のローワン」シリーズなどを手がけられている人気作家さんです。その楽しいお話に丁寧で温かみのある絵を描かれているのは、かわいらしい動物たちの絵に定評のあるたしろちさとさん。絵がたっぷり入っているので、文字の多い読み物にまだ慣れていない子どもたちでも無理なく読むことができますよ。

実際に子どもたちにすすめる時のおすすめの方法は、まず見開きのネコイラン町チュウチュウ通りの地図を見せて町の様子を伝えた後に、全巻の目次の後についている登場ネズミ紹介のページで、1~10番地の個性的なハツカネズミを紹介します。
そして「1巻から読んでも、好きなネズミさんのお話から読んでもいいんだよ、どれから読みたい?」と聞くと、たちまち子どもたちはお気に入りのネズミさんを見つけて読む気満々に……。

ぜひ、ご家庭や学校で、10匹のネズミたちのさまざまな奮闘やドラマや感動が詰まったチュウチュウ通りの物語を、子どもたちにどんどんすすめてみて下さいね!

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小学1、2年生に手渡したいおすすめ本10選(1冊読み切り型)

さかさまがっこう

著:苅田 澄子絵:つちだ のぶこ

出版社からの内容紹介

がっこうでつかうおはじきを わすれてしまっただいくん。先生におこられるかなぁと心配しただいくんはさかさまのおまじないをとなえてみました…。
すると、ふしぎなことに、わすれものをしても、テストのてんすうがわるくても、先生はニコニコしています!

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おてがみほしいぞ

著:こうまるみづほ絵:丸山 誠司

みどころ

ヤギの郵便屋さんがせっせとお仕事、お手紙もらったリスやウサギは、みんなうれしくておおよろこび!そんな様子をうかがうオオカミのギロン、うらやましくってしかたない。

おれだって、おてがみほしいぞ!

でもギロンには、ともだちがいない。オオカミのギロンを見るだけで、ウサギもヤギもガクガク、ブルブル。だからギロンはいままで一度も、手紙をもらったことがない……。

機嫌が悪いとキバをむきだし、おおきな声でどなったかと思えば、手紙をもらえないさみしさに、シュンと弱々しくうなだれる。みんなから怖がられているけど、とてもすなおで、ちょっぴりさみしがりなギロンの、愛らしいキャラクターがみどころです。

そんなギロンが、生まれてはじめての手紙をもらうために奮闘!

自分から手紙を書けば返事がもらえると知ったギロンは、さっそくペンを手に取ります。ところが、ともだちも、家族も、親戚もいないギロンには、手紙を書く相手がだれもいません。そこでギロンは、すごいアイデアを思いつきます!

そうだ! 自分に宛てて、手紙を書こう!

自分で自分に手紙を書くのは、なんともおかしな気分。なかなかうまくいきませんが、なんとか書きあげた一通を、ワクワクしながらポストに入れます。

ところが、待てども待てども手紙は届きません。自分から自分へと届くはずの手紙が、いったいどこへいったというのでしょう? 消えた手紙を待つうちに、思いもよらない出会いがあって──?

言葉や名前を通じて、人とわかりあう。そんなあたたかさとワクワクに、あらためて気づかせてくれます。

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かがみのなかのボクとぼく

作:あんずゆき絵:くすはら 順子

みどころ

「あーあ、学校に行きたくないなぁ。だってぼく、友だちいないもん。」
小学一年生の男の子、リクには友だちがいません。
それは、友だちにいじわるをしてしまうから。

中でも、性格がゆっくりなコウくんの頭を後ろからカポンとぶったり、キリちゃんが話しかけてきたら、ぷいと席を立ったり。目が合ったらそらしたり。

キリちゃんなんかきらいだ。
コウくんだってきらいだ。
だけど、ほんとうは‥‥‥。

本当のことがうまく言えなくて、胸の中に灰色のもやもやがいっぱいになってしまったリク。
友だちとうまくいかない時、家族に怒られてむしゃくしゃした時、いつもリクはかがみにうつる自分に話しかけます。するとある時、かがみの中から声がして、あっという間にかがみの中に吸い込まれていき‥‥‥。
はたしてかがみの中の世界はどんな風になっているのでしょうか。
そしてリクは、元の世界へ戻ってこれるのでしょうか。

このおはなしの面白いところは、主人公のリクがいじわるなこと。
おはなしの主人公って、いい子や大人しい子の方が多かったりしませんか。
でも、いじわるする方の子だって、いろいろな気持ちを抱えていて、本当はいじわるしたくないのに、どうしてこんな行動をしてしまうのだろうともやもやしたり、むしゃくしゃしたり。素直になれないリクの心の声がたくさん聞こえてくるようです。そんなリクの様子に共感する子もたくさんいるのではないでしょうか。

作者は、『大坂城のシロ』や、『夏に降る雪』など読み応えがあり、心に残る小学校中高学年向けの作品を多く書かれているあんずゆきさん。本作品は小学校低学年向けのおはなしですが、主人公のリクの気づきは、そのまま読む子どもたちの気づきとなって、心に残っていくことでしょう。

リクの気持ちを知り、想像することを通して、なかなか掴みきれない自分の気持ちを考えるきっかけにもなりそうな一冊です。

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そんなのうそだ!

作:ジーン・メリル訳:小宮 由絵:坂口 友佳子

みどころ

まさしくあなたのいうとおり! 人の話を最後まで、疑わなかった者の勝ち! ウソとホントの奇妙なゲームを制するのは……?

旅人にホラ話を披露しては、そのお礼にと食べ物をおごらせている、サル、ブタ、キツネ。なまけ者の3人が、今日も今日とてのんびりだらけていると、そこへ見るからに裕福なイヌがあらわれます。
イヌが着ている服の、なんてステキで、豪華なことでしょう! それを見た3人は、よからぬたくらみを思いつきます。

「やつをだまして、あのごうかな服を、うばいとってやろうじゃないか」

そうして3人は、イヌにゲームを持ちかけます。ルールは単純明快。信じられないような話をして、「そんなのうそだ」と言わせたら勝ち!

「負けたものは、勝ったもののけらいになって、なんでもいうことをきく、というのは、どうでしょう?」

ふだんからホラ話を披露している3人は、自信満々で思わずニヤリ。そうして、ホラが得意ななまけ者 VS 金持ちイヌの、おかしな知恵くらべがはじまります。

文字数が少なめで読みやすく、全ページイラスト付きなので、読み聞かせにはもちろん、絵本から読みものへの移行にもぴったりの一冊です。
にぎやかで表情豊かなキャラクターたちが、笑って、困って、おどろいて! 動きのあるコミカルなイラストに、ありもしないホラ話はさらにおおげさに盛りあがっていきます。

巨大なトラと戦う赤ちゃんの武勇伝から、『自分が生まれる前に起きた自分のトラブルを自分が助けてやる』という頭のこんがらがる物語まで、なんでもアリの、デタラメまみれ!
でも、ウソだと言わなきゃ勝てるなら、とにかく〝うのみ〟あるのみだ! どんなデタラメにもトンデモにも、「そうだそうだ、あんたのいうとおり」で押し通せば、ぜったいに負けないぞ。……なーんて思った人から、負けていく。

だれも人の話を疑おうとしないときに、ぜったいウソだと言わせるためには? みんななっとく、思わずひざ打つトンチ技をお楽しみに!

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もじゃもじゃドライブ!

著・絵:おくやま ゆか

出版社からの内容紹介

こうたのお父さんが買ってきた中古の自動車。安かったのに、とってもかっこいい! さっそくドライブにいくと、車は勝手に走りだします。しかも、車体には、茶色い太い毛がもじゃもじゃ生えて、ぐんぐんのびているではありませんか! とうとう車は、山のなかで急停止。クラクションをならします。それを聞いて、走りでてきたのは、5匹のかわいいいのししの子どもたちでした。ちょっと不思議で、せつなくて、心あたたまる物語。

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おわりに

先日、子どもの本についての講座で、子どもは知っているからほしいと思う、知らなければほしいと思わない、という言葉と出会いました。
もし、大人が、本は素晴らしいものであるという思いを持って、子どもたちにも本が好きになってほしいと願うのならば、まず世の中に本という文化が存在していること、さらには、その本がいかに面白く、ワクワクさせてくれて、時には自分を励ましたり勇気づけてくれるものであるかということをしっかり伝えていくことが、さまざまなメディアが台頭していく中で、どんどん重要になっているのではないでしょうか。

一生のうちでも特別な記憶に残る、小学生時代の読書、そこをどう大人がサポートできるのか、これからもさまざまな方法を考え、お伝えしていけたらと思います。

秋山朋恵(あきやま ともえ)

絵本ナビ 副編集長・児童書主担当。書店の児童書仕入れ担当、小学校の図書室司書(8年)を経て、2013年より絵本情報サイト「絵本ナビ」に勤務。子どもたちが本に苦手意識を持たずに、本って楽しい!と感じられるように、子どもたち目線で本を選び、さまざまな切り口で紹介している。編著書に「つぎ、なにをよむ?」シリーズ(全3冊)(偕成社)がある。

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