単なるファンタジーで収まらない独特の余韻が残る『茨海小学校』は親子で一緒に読むのもおすすめ<ブランニュープラチナブック>

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/31

宮沢賢治の文に人気の西村繁男さんが絵を描いた作品は、ひとり読みまたは親子で一緒に読むのもおすすめ

茨海小学校

作:宮沢 賢治絵:西村 繁男

みどころ

ある日、茨海(ばらうみ)という野原に出かけた「私」は、お昼どきに喉が乾いて水を探しはじめます。すると……小川のようなものは見つからない代わりに、遠くの方から学校のベルの音や、子どもらのがやがや言う声が聞こえてきたのです。

面白そうに思えて、そちらの方角へ走って行ったところ、草を結んだ罠のようなものに足を引っ掛けてどたっと倒れてしまいます。立ち上がって走りはじめたら、また、ばったり。するとどっという笑い声と囃し立てる声がして、見ると、チョッキや半ズボンを着たたくさんの狐の子らがこっちを見ながら笑っているのでした……。

宮沢賢治の文に、現代絵本作家が絵を描く「ミキハウスの宮沢賢治の絵本」シリーズ。本書は『おふろやさん』(福音館書店)や『がたごとがたごと』(文・内田麟太郎、童心社)などで人気の西村繁男さんが絵を描いた作品です。

迷い込んでしまった狐小学校の校内や、狩猟術・食品科学などの授業風景に、どことなくユーモラスな空気が漂います。「私」は校長室でミルクティーをいただき、罠をしかけた狐の子が呼ばれるのですが……。そのうつむく表情を見つめていると、本当に秘密の小学校をこっそりのぞいているような気持ちになります。

“狐小学校があるといってもそれはみんな私の頭の中にあったと云うので決して嘘ではないのです。嘘ではない証拠にはちゃんと私がそれを云っているのです。もしみなさんがこれを聞いてその通り考えれば狐小学校はまたあなたにもあるのです”

授業中、空に白い雲が湧き、風は吹いてきて、葉の壁がところどころ揺れる……。そんな狐小学校のことを、読んだ子はきっとリアルに心に思い描くことでしょう。
文字数が多いですが、西村繁男さんの絵は優しく愉快で、しみじみと味わい深い絵本です。小学校中学年以上のひとり読み、または親子で一緒に読むのもおすすめです。

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レビューのご紹介

狐の世界

宮沢賢治さんの作品に、西村繁男さんが軽快な絵を添えています。
作者本人と思われる「私」が迷い込んだのは、狐の小学校。
一風変わったオープンスペースの小学校の授業の様子が、
現実とファンタジーのはざまで愉快に立ち昇ります。
そもそも、「茨海」という地名が、その入り口。
作者らしい導入です。
地質にも詳しかった作者の世界観が伺えます。
生徒たちのやんちゃぶりも、教育者だった作者の温かい目線がで昇華されています。
授業内容も意外に高度で、道徳にも通じる内容にドキッとさせられます。
単なるファンタジーで収まらない、独特の余韻が残ります。
意外に奥が深い作品です。

(レイラさん)

また良い作品に出会えた

少し影のある作品が多い印象の宮沢賢治氏と、明るい作品を手がけている印象の西村繁男さんの組み合わせが、最初は意外に思えましたが、読んでみるととても合っていて思わず唸ってしまいました。ミキハウスの宮沢賢治絵本シリーズは、名著が多いですね。

(miki222さん)

茨海小学校

作:宮沢 賢治絵:西村 繁男

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