かけがえのない穏やかな日々の記憶。『おばあちゃんのにわ』 【NEXTプラチナブック】

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/20

絵本ナビがおすすめする「NEXTプラチナブック」(2023年8月選定)から、ご紹介する一冊はこちら!

朝ごはんを一緒に食べ、雨の日はミミズをつかまえ、庭にはなつ。ぼくたちは、いつもそうしていた。おばあちゃんがあの家を出るまでは…‥。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、『おばあちゃんのにわ』。数々の賞を受賞し、世界的に注目を集めた名作『ぼくは川のように話す』のコンビによる最新作、いったいどんな内容なのでしょう。

NEXTプラチナブックとは…?

絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。

そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。

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かけがえのない穏やかな日々の記憶。『おばあちゃんのにわ』

おばあちゃんのにわ

作:ジョーダン・スコット 絵:シドニー・スミス 訳:原田勝

みどころ

ぼくのおばあちゃんは、もとはニワトリ小屋だった家に住んでいる。毎朝お父さんが、ぼくを車でおばあちゃんの家に送ってくれると、おばあちゃんは庭でとれた野菜がたっぷり入った朝食を用意してくれる。ぼくらはあまり喋らない。でも、ぼくがオートミールをこぼすと、そっとひろいあげ、それにキスをして、ぼくのおわんにもどす。おばあちゃんは、長いあいだ、食べるものがなくて困ったことがあったのだ。

それから二人は学校に向かう。雨がふると、おばあちゃんはゆっくり歩き、ミミズを探す。土をつめた小さなガラス瓶に入れ、学校が終わると、野菜を育てているおばあちゃんの庭に放つ。ふたりはいつもそうしてた……おばあちゃんがニワトリ小屋を出て、ぼくの家に来るまでは。

数々の賞を受賞した前作『ぼくは川のように話す』のコンビによって、再び生まれた心温まるこの絵本。著者であるジョーダン・スコットの祖母との思い出がもとになっているのだそう。

台所の窓から差しこまれる光の美しさ、畑の中で寄りそうように立つふたり、おばあちゃんを見つめるぼくの眼差し。シドニー・スミスによる、情感あふれるいくつもの印象的な絵を眺めながら感じ取れるのは、多くは語らなくとも通じ合うふたりの空気感。

ポーランドからの移民であまり英語がうまくしゃべれなかった祖母と、言葉を発することに苦しんでいたであろう彼。ふたりにとって、この時間がどれだけ心地良いものだったのだろうか。

翻訳は、前作『ぼくは川のように話す』と同じく原田勝、タイトル文字も前作同様、絵本作家、荒井良二が手がけられています。

大切な記憶がそのまま閉じ込められているようなこの絵本。自分の中の懐かしい感情と結びつきながら、最後の場面に胸を打たれてしまうのです。

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編集長のおすすめポイントは……

言葉にたよらずとも

巻末におさめられている著者のあとがきからも推測されるように、おばあちゃんの人生は大変な苦労の連続だったにちがいありません。けれど、絵本の中では多くを語りません。伝わってくるのは、身ぶりや手ぶり、スキンシップや表情など、言葉にたよらずとも気持ちを通い合わせるふたりの姿。だからこそ、「ぼく」は、おばあちゃんの一番大切にしているものに気づくのでしょう。祖母と孫、高齢者と子どもの特別な関係を味わいながら、この記憶を次の世代へとしっかりと伝えなければと思うのです。

磯崎 園子(いそざき そのこ)

絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。

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