きっとこれから何度でも思い出す。『夏』【NEXTプラチナブック】

文芸・カルチャー

公開日:2023/10/7

絵本ナビがおすすめする「NEXTプラチナブック」(2023年8月選定)から、ご紹介する一冊はこちら!

夏休みが明日で終わる。ぼくにはやり残したことがひとつある。それは……。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、『夏』。絵本作家あべ弘士さんが、少年時代に体験した出来事から生まれたというこの絵本、どんな内容なのでしょう。

NEXTプラチナブックとは…?

絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。

そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。

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きっとこれから何度でも思い出す。『夏』

作:あべ弘士

みどころ

夏休みが明日で終わる。ぼくにはやり残したことがひとつある。神社の森で見たオオヒカゲチョウだ。羽に何かがかいてあった。もう一度見て、たしかめたい。

「カンッ カンッ カンッ カンッ」

あの日ぼくは、自転車に乗り、ふみきりがあくのを待っていた。晴れ渡る空のもと、畑の中の一本道をのぼりきり、目指す森が見えてくる。ひっそりとたたずむ神社に着くと、影が飛び込んでくる。オオヒカゲだ。ぼくを待っていてくれたんだ。その時!

オオヒカゲチョウに会いたい一心で自転車をこぐ「ぼく」のまわりを通り過ぎていくのは、一面に咲く花、操車場の音、セミの声、土ぼこりをあげて走るバス。

息をつめる「ぼく」の目の前で、オオヒカゲチョウは羽を広げる。そこにあったのは、地図だ。羽に地図がかいてある。その地図の中には、ぼくがいて……。

この瞬間に見たものを、体験した不思議な出来事を、ぼくはずっと忘れない。きっとこれから何度でも思い出す。絵本作家あべ弘士さんが故郷の旭川で体験した少年時代の出来事をもとに、夏の景色を色鮮やかに描き出したこの絵本。

「ぼくの夏を、かけぬける。」

広い景色、一本道、空にはチョウやキツツキが飛び、目指す場所に行きつく頃、遠くで雷が鳴りはじめる。どれもが記憶の中で生き続ける、大切な風景。読者もまた、その忘れられない一日を追体験できるのです。

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編集長のおすすめポイントは……

夢中になっていた夏は

少年が見たものは、なんだったのか。現実だったのか、幻だったのか。それは本当に見たかったものなのか、それとも思ってもみなかった景色だったのか。私たち読者には確かめるすべもありません。けれど伝わってくるのは、少年に見えているものが少しだけ変化しているということ。夢中になっていた夏が終わったのです。少し寂しくも、心地よい疲労感。私たちはみんな、こうした瞬間を何度も通りすぎていくのかもしれません。

磯崎 園子(いそざき そのこ)

絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。

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