誰かの命は誰かの糧になり。『どんぐり』【NEXTプラチナブック】

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/28

絵本ナビがおすすめする「NEXTプラチナブック」(2023年11月選定)から、ご紹介する一冊はこちら!

どんぐりが梢から落ちてくる。どんぐりは生きようとしている。けれど、ほとんどは死んでいく。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介する絵本は、『どんぐり』。命を見つめ、向き合い続ける作者・舘野鴻さんだからこそ生まれた一冊。どんな内容なのでしょう?

NEXTプラチナブックとは…?

絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。

そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。

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誰かの命は誰かの糧になり。『どんぐり』

どんぐり

作・絵:たてのひろし

みどころ

見上げる木々の梢から、無数のどんぐりが降ってくる。
こんな光景から、この絵本は始まります。
地面に落ちた美しいどんぐりたち。しかし、ページをめくるたび、それらは森の生物たちに食べられていきます。野ネズミが食べ、鳥が咥え去り、穴が空いたどんぐりの表面からは中を虫が喰ったことがわかります。そこから生き残って根を出し芽吹いたどんぐりも、若芽が動物や虫に食べられ、ほとんどが死んでいきます。けれども……。

絵だけで進んでいくこの絵本。モノクロで描かれた木々の間から落ちてくるのは、無数のどんぐり。そのどんぐりには色彩が施され、言葉はなくとも、永遠に続く物語のはじまりを感じさせてくれる光景です。

そして、どんぐりが落ちた地点を定点観測するように、めぐる季節を越えて、植物、生物たちの営みが描かれます。精緻に描かれた画面に見入っていると、葉擦れの音や土の匂いまでしてきそう。

生きようとする命が、他の命の糧になっていく。落ちたどんぐりのほとんどが食べられ色を失い、生き残って芽吹いた僅かのどんぐりも、また容赦なく食べられていく。この鮮やかな色彩の対比にも、ハッと目を惹きつけられます。

ここに描かれる森の生命のやりとりに、誰もが圧倒されることでしょう。命を見つめ、向き合い続ける作者・舘野鴻さんだからこそ生まれた一冊。幅広い年齢の読者に手に取ってほしい絵本です。

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編集長のおすすめポイントは……

生と死の真っただ中に立たされて

そこに言葉がなくても、風が吹き、森がざわざわと大きくうごめく音がする。耳をすませば、小さな生き物たちのかさこそと動く音が聞こえてくる。緻密に描かれた自然の絵の美しさと迫力に魅入られていると、いつの間にか読者は繰り返される生と死の真っただ中に立たされていることに気付くのです。舘野鴻さんが絵本の中で徹底的に描くのは、死んでいく命と生きていく命。読んだ後には途方に暮れる気持ちになりながら、でも、生きていることの奇跡をより実感することもできるのです。

磯崎 園子(いそざき そのこ)

絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。

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