なんで棒を持ってるの? 帰らぬ飼い主を待つネコのけなげでシュールな日常を描いた漫画が人気!

マンガ

公開日:2022/6/20

貴重な棒を持つネコ
貴重な棒を持つネコ』(室木おすし/KADOKAWA)

 今、ネコを主人公にしたある漫画がTwitterを中心に静かな人気を集めている。“ネコが主人公”と言えば、未来からやってきたネコ型ロボットがさえない少年を影に日向に助ける某国民的漫画を思い浮かべる方が多いかもしれないが、本稿でご紹介するネコは、棒を持つネコ……それも”貴重な棒を持つネコ”だ。設定そのままにタイトル付けされた漫画『貴重な棒を持つネコ』(室木おすし/KADOKAWA)の主人公はネコのフーちゃん。「すぐ戻ってくるからね。とっても貴重な棒だから大事に持っていてね」と飼い主に言い付けられたまま早2年。

貴重な棒を持つネコ
©Muroki Osushi/bouneko

 帰らぬ飼い主を待ちながらけなげに、ユーモアたっぷりに生きるフ―ちゃんの姿は2020年9月の連載開始早々Twitterユーザーたちのハートをわしづかみにし、昨年4月には書籍も出版された。

 このシュールで可愛い『貴重な棒を持つネコ』はいったいどのようなアイデアのもと生まれたのだろうか? 作者の室木おすしさんにお話を聞いた。

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――フーちゃんはどのようにして生まれたキャラクターなのでしょうか?

室木おすし(以下、おすし):キャラクター自体は10年くらい前に出来ていました。飼い主に「これは貴重な棒だから」と言われ、それを信じ、ただひたむきに棒を持ち続けている猫がいたら健気で面白いなと思って、初めは本当にそれだけのキャラクターだったんですが、四コマ漫画として連載するにあたり設定を肉付けしていきました。

――これまでイラストレーターのお仕事を中心にされていたおすしさんですが、長編漫画を描こうと思われたきっかけは?

おすし:棒ネコというキャラクターを世に広めるためには、漫画という形が一番わかりやすいかなと思ったのでそうしました。と言っても初めはここまで長編になるとは思っておらず、描き進めているうちに知らず知らずにここまで来たという感じです。

――反響の手ごたえを感じられたのはいつ頃でしょうか?

おすし:初めは「500いいねくらいいけばいいかな…」と思って投稿したんですが、1話をTwitterに投稿した直後に1万いいねくらいの大反響があり、一瞬にして焦りました。その後1カ月たたないくらいでKADOKAWAさんから書籍化の声がかかり、その頃に手ごたえを感じました。ただ、ちゃんとしなくては!という焦りの方がずっと強かった気がします。

――書籍がヒットし、各地で開催された作品展も大盛況だったそうですね。やはり生活に変化はありましたか?

おすし:渋谷、横浜での作品展は僕も行きました。いろいろな人に「○○のイラスト描いてください!」みたいにサインを求められるような経験があまりなかったので、緊張しましたがめちゃくちゃ嬉しかったです。

貴重な棒を持つネコ
展示会で好評だったぬいぐるみ。表情にこだわり4回もデザインを書き直したという

貴重な棒を持つネコ
こちらも大人気だった「UFOと棒ネコ」ラバーキーホルダー

 仕事の打ち合わせ先でも「作品知ってます」と言われる機会が格段に増えました。あといろいろとグッズができたのでそういうものをプレゼントすると喜んでもらえて、営業として都合がいいぞ!と思っています。

――ご家族の反応はいかがですか?

おすし:娘たちが「棒のネコちゃん」と呼んで気に入ってくれています。みんなまだ小さいので作品として理解できているかどうかはわかりませんが、父親としては気に入ってくれるだけで嬉しいですよ。

――フーちゃんが飼い主を探すというストーリーは今年3月に完結しました。それまでに大冒険がありましたが、このストーリーは初めの段階から決まっていたのでしょうか?

貴重な棒を持つネコ
©Muroki Osushi/bouneko

おすし:飼い主を探すためにフーちゃんが冒険するという大筋だけ決まっていて、詳細なストーリーは描きながら考えました。個人的にはストーリー部分よりも一話完結の四コマを描こうと思っていたのですが、自分が思う以上に飼い主のことなどのストーリー部分を知りたがる方が多かったので、それにこたえて必死でストーリーを展開させていったという感じです。

――ストーリー完結後も連載は続いていますが、今後はどんな方針で描かれる予定ですか?

おすし:ストーリーが完結したので終わりではなく、これからはもともとやりたかった日常編みたいな一話完結のネタを中心に描いていきたいと思っています。2冊目以降を出したい気持ちも100%なので、大人たちを動かすために読者のみなさんのさらなる応援を賜りたいと思っています(笑)。

 自身の”代表作”に巡り会い、これまで以上に仕事の幅を広げつつあるおすしさん。5月からはYouTubeチャンネル『貴重な棒を持つネコ』を開設し、アニメ動画の制作もスタートしている。ストーリー完結後もファンに愛され続ける『貴重な棒を持つネコ』だが、果たして2冊目は実現するのか? 実現するとしたら果たしてどんな内容になるのか……今後も作品の展開から目が離せない。

取材・文=中将タカノリ

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