映画『シン・仮面ライダー』からSHOCKERサイドの完全オリジナルストーリーが誕生! 「SHOCKERは、人類の幸福の追求が暴走してしまった」《対談》

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PR公開日:2023/3/23

『ダ・ヴィンチ』2023年4月号 裏表紙
ダ・ヴィンチ』2023年4月号 裏表紙

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年4月号からの転載になります。

『シン・仮面ライダー』から生まれた完全オリジナルストーリー『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダーSHOCKER SIDE-』(集英社)。早くも1巻が3月10日に発売された。SHOCKERの絶望の物語が、社会に、私たちに問いかけるものとは? 今もなお、広がり続ける「仮面ライダー」の世界。そこに携わるお二人に話を伺った。

取材・文=松井美緒

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――『真の安らぎはこの世になく』のSHOCKERサイド、緑川博士とその息子イチローに焦点を当てた物語にとても惹きつけられました。

山田胡瓜さん(漫画脚本/以下、山田) 映画『シン・仮面ライダー』のコミカライズであるのはもちろんのこと単体作品として、一つの作品として、このマンガを面白いものにしたいと強く思いました。ですからストーリーも映画をなぞるものではなく、スピンオフというか、完全オリジナルになっています。

――藤村さんは作画の依頼があったとき、どう感じましたか?

藤村緋二さん(作画/以下、藤村) 僕はテレビ番組の「仮面ライダー」シリーズ、特に世代的に「平成仮面ライダー」シリーズが大好きなので、「ぜひやりたいです!」と二つ返事で引き受けたんです。でも時間が経つにつれて、50年を超える歴史とか「仮面ライダー」の持つさまざまな重みに思い至り、これはえらいことになったぞと(笑)。軽々しく引き受けちゃったけど、本当に自分にできるのかと。ちょっと体調を崩した時期がありました(笑)。

山田 そうだったんですね!

藤村 でも、もうやるしかない。このマンガから絶対に逃げないと心に決めました。連載開始時から、体力の続く限り、生きている限り描き続けています。

山田 すごいですよね。同じマンガ家としてちょっと引くくらい(笑)、藤村さんの作画のパワーには圧倒されます。

藤村 この作品での僕の役割は“よく働く”だと思っていて。山田さんが頭脳なら、僕は体。体は単純によく動いたほうがいい。でもそれができるくらい、山田さんの脚本が素晴らしいし、映画の公開を待っている方たちのエネルギーも尋常じゃない。僕の体の辛さなんか関係ない、限界を超えるくらい頑張り続けようと思えます。

『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』(1巻)

現代のSHOCKERはビッグ・テック創設者!?

――このマンガでも映画でも、人類の幸福の追求を目的とするというSHOCKERの新しい解釈は、非常に印象的でした。

山田 僕は脚本協力という形で映画にも参加していまして、制作段階で僕自身の考えていたことが、『真の安らぎはこの世になく』ではわりとベースになっています。例えば、現代では絶対悪の存在が難しいと考えたときに、世界を変えられる秘密結社ってどんなものがあり得るだろうと。僕の頭には、IT億万長者が浮かんだんですね。世界規模のビッグ・テック創設者みたいな。圧倒的な資金力と権力があって、常識を超えたSF的なこともできてしまう。

――なるほど。

山田 それから、製作陣とのやりとりの中で、人類の幸福の追求というお話があって。SHOCKERは、幸福の追求が暴走してしまう。では、各々の幸福の追求の原動力とはなんだろう、クモオーグやコウモリオーグなどの上級構成員は何を考えていたんだろうと、僕なりに考えを深めていきました。

藤村 絶対悪ではないSHOCKERを描かせていただけるのは、すごく楽しいです。個人的な考えなのですが、悪と正義という対立は存在しないと考えています。あるのは正義と正義。目線の違いだけが立場を分けている。SHOCKERにも彼らなりの、なすべきことがあるんだと思います。そこに共感する方もいるだろうし、僕自身、結構SHOCKERに共感するタイプです。

山田 わかります。SHOCKER、応援したくなりますよね。

藤村 属する場所が違っただけというか、境遇や抱えているものが違うだけで、本当はわかり合えたんじゃないかと。そういう悲しさも含めて、SHOCKERいいなと思います。

山田 その悲しみは、このマンガでも重要なテーマですね。第1話でも描きましたが、イチローも悲しみ、絶望を抱えている。でも、彼は自分のせいで絶望したわけじゃない。社会が彼に絶望を与えたんです。じゃあ、そういう社会に対して、僕たちはどうするのか? 今、現実の世界でも戦争が終わらず、SHOCKERの世界観と少し重なる状況になってしまっています。世界レベルのマクロな問題だけでなく、ミクロを見ても、追い詰められた個人が悲惨な事件を起こす、ということが少なからずあります。仮面ライダーはそういう社会の現状と戦っているかもしれないけど、僕たち一人一人だってそれについて考えるべきじゃないのか? 行動を起こすべきじゃないのか? そういった問いを、少しでも深められるマンガになればいいなと思います。

“原典”への敬意を込めて緑川家を描く

『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』(1巻)

――イチローのお話が出ましたが、彼と緑川博士をマンガの主人公に据えたのはなぜですか?

山田 イチローは、『シン・仮面ライダー』に非常にミステリアスなキャラクターとして登場します。一方、緑川博士は、石ノ森章太郎さんのマンガでは、本郷猛を改造人間に推薦した人物です。緑川家は仮面ライダーが誕生するうえで極めて重要な役割を果たすわけで、その父子をマンガで掘り下げてみたいと思いました。

――石ノ森さんのマンガでは緑川家についてあまり描かれていないので、『真の安らぎはこの世になく』はすごく興味深く感じました。

山田 ありがとうございます。僕の中では“原典”のペーソスを踏襲したいと思っています。一つは先ほどもお話しした、悲しみ、絶望ということ。石ノ森さんのマンガは、やはり悲しみが物語の中で広がり続けている。同時に僕が感銘を受けたのは、科学という問題について。ショッカーは科学を世界征服の手段にします。でも科学は、上手く使えば社会に貢献できるはず。そういう問いかけがあるように僕は感じましたし、それは僕自身の思いにも重なるものでした。だから、石ノ森さんのマンガへの敬意をこの作品にも込めています。

藤村 僕は山田さんの漫画脚本をいただいて、いつも「邪魔したくない」と思いながら作画しているんです。下手な絵は当然ストーリーの邪魔です。でも、上手い絵も実は邪魔なんです。僕はずっと絵が上手いと思われたかったけれど、この『真の安らぎはこの世になく』についてはそれは違うなと。例えば役者の演技が上手いと思いながら観てる映画って、本当は映画に入り込めていないじゃないですか。僕は庵野監督の作品って、何度も観てしまうんです。その世界に入って、キャラクターに会いたいと思う。それって究極の面白さでしょう。このマンガもそれと同じで、読者が物語に没入できるように、作画のいやらしさ、わざとらしさをすべて排したい。完全にできているとは思いませんが、可能な限り山田さんの漫画脚本に忠実に、リアルに描けるように心がけています。特に登場人物の表情。彼らがクサい演技をしていると思われないよう、本当に生きているように描きたいと思っています。

――3月10日に、『真の安らぎはこの世になく』の1巻が発売されました。最後に、この見どころについて教えてください。

藤村 一切の妥協なく、僕のすべてをこの作品には出し尽くしています。単行本にはおまけマンガも描き下ろしましたので、連載を追いかけてくださっている方も、また違った楽しみを見つけていただけるのではと思います。

山田 最初にもお話ししましたが、このマンガは、完全オリジナルの一つの作品として面白いと思っていただけるよう作っています。ですので、これまでの「仮面ライダー」シリーズを全然知らなくても、きっと楽しんでもらえると思います。ぜひ多くの方に手に取っていただけると嬉しいです。

山田胡瓜
やまだ・きゅうり●IT記者として働く傍ら、2012年、アフタヌーン四季大賞受賞。18年、『AIの遺電子』で第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。現在『AIの遺電子 Blue Age』を連載中。

藤村緋二
ふじむら・あけじ●2011年、『神さまの言うとおり』(金城宗幸:原作)で連載デビュー。現在『もしも徳川家康が総理大臣になったら―絶東のアルゴナウタイ―』(眞邊明人:原作)連載中。他の作品に『グラシュロス』(金城宗幸:原作)などがある。

(c)山田胡瓜・藤村緋二/集英社 (c)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

■映画『シン・仮面ライダー』
原作:石ノ森章太郎
脚本・監督:庵野秀明
出演:池松壮亮、浜辺美波、柄本佑 ほか
公式サイト:https://www.shin-kamen-rider.jp/index.html