呂布カルマ「この本は自分にとって“黒歴史”にならないといけない」待望の初書籍『ブレん人』(ぶれんひと)インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/8

呂布カルマさん

 ACジャパンのCMやディベート番組、地上波バラエティへの出演、そして今年の4月にはドラマで初主演を務めるなど、破竹の勢いで活躍の場を広げている大人気ラッパー・呂布カルマさん。そんな彼のこれまでの歩み、頭の中を惜しみなくさらけ出した待望の初書籍『ブレん人』(コスミック出版)が6月12日に発売された。そこで発売を記念して呂布カルマさんにインタビューを実施。初の書籍出版で感じた難しさ、そして後半では現代人ならではの悩みを斬っていただいた。

取材・文=ちゃんめい

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「どこかで線引きしないと」自分の考えを言葉にすることの難しさ

――初書籍『ブレん人』発売おめでとうございます。まずは今のお気持ちを教えてください。

呂布カルマ(以下、呂布) 発売までに間に合ってよかったなという気持ちが一番大きいです。ライブイベントの時にも原稿を持っていって、合間に修正作業をするくらいギリギリのスケジュールで進行していたので。

――制作期間はどのくらいだったのでしょうか。

呂布 『ブレん人』はインタビュー形式で僕の話を引き出してもらい、それをもとに作った本なのですが、取材が行われたのが2月で校了が5月だったので、制作期間としてはトータルで3ヶ月間くらい。特にラスト1ヶ月での原稿の修正や編集さんとのやり取りは怒涛のようでした。

――特に難航された作業はありますか?

呂布 口頭で話したことが文章になると、やっぱり細かい言葉遣いとか、ニュアンスが意図したものと微妙に違っていることがあるんです。雑誌のインタビューだったら許容できるところも、書籍で残るとなるとかなり気になってしまう。そういった細かいところが全部目に留まってしまって、その修正に時間がかかりました。

――著書では、自身の考えと共に過去の歩みを振り返り、それが人生にどう影響を及ぼしたのかをつまびらかにされています。自分の頭の中にあることを言語化するという作業は昔からやられていたのでしょうか。

呂布 昔「mixi」をやっていた頃に日記を書いていましたが、やめてからは文章で自分の考えを残すという作業はしていません。ですが、最近ではインタビューを受けることが多いので、今自分が考えていることを言葉にする機会は定期的にあるかなと。

 でも、自分の考えを言葉にするって本当に難しいことですよね。例えばもっと適した言い方があったなとか、どこかで線引きをしないと延々と直したくなってしまう。

――先ほども、『ブレん人』の制作過程で細かい言葉遣いやニュアンスの修正に時間がかかったと仰っていましたね。どのような線引きをされたのでしょうか。

呂布 原稿をいただいた時は、全ページに細かく直しを入れるレベルで修正をしていたのですが、次第に「自分の頭の中を完璧に伝えることに意味があるのか?」と思い始めたんです。

 結局『ブレん人』は、今年インタビューを受けた時に僕が考えていた内容に過ぎなくて、もし今日明日で全く同じテーマで質問されたら、またニュアンスが違ったりするかもしれない。だから「インタビュー時に話していた内容が正しく伝わるレベル」のラインを目指して原稿と向き合いました。

「人によって刺さり方が全然違う」発売後の今思うこと

――『ブレん人』巻末には撮り下ろしのグラビアが8Pにわたって掲載されています。撮影時の印象的なエピソードがありましたら教えてください。

呂布 早朝の名古屋駅周辺で撮影したのですが、やっぱり途中から徐々に人が街に出てくるんですよね。明るい時間に、しかも人が行き交う場所で“呂布カルマ”丸出しで街を歩くことってあんまりないので小っ恥ずかしさがありました。プライベートの時はシャツのような呂布カルマに繋がるアイテムは身につけないんですよ。

――特にお気に入りのショットはありますか?

呂布 翼を怪我して動けなくなっているカラスを助けている写真があると思うのですが、それが一番気に入っています…いや、嘘です。そんな写真ありません! このままインタビューが進んだらどうしようかと焦りました。

――そんな写真あったかなと思いつつ真に受けてしまいました、失礼しました(笑)。『ブレん人』が発売されて2週間経ちますが、SNSなどで嬉しい反響や印象的な感想などはありましたか?(*取材は6月下旬に敢行)

呂布 書籍のタイトルですることはありませんが、自分の名前でのエゴサは日常的にしているので、そうすると『ブレん人』の感想も自然と目に入ってくるんです。もちろん否定的な意見もありますが、おおむね評判が良いので安心しています。

 印象的だったのは、同じ書籍であっても人によって刺さり方が全然違うという点。ラップバトルの内容に興味がある人、僕の考えに関心を持ってくれる人……あと「ここ面白いから読んで!」とおすすめしてくださっている方もいたのですが、それも読み手によって全然違うんですよね。だから、同じ書籍でも色々な人に多様な刺さり方をしているんだなと実感できたのは興味深くもあり、嬉しかったです。

 あと、妻からの感想ですね。妻は僕が原稿作業で苦戦していた様子をずっと見ていたので。だからこそ、完成した『ブレん人』を読んだ後に「別に変なところなかったよ」と言ってくれた時はすごく安心しました。

呂布カルマさん

マンガ家からラッパーへ、夢を大きく方向転換した過去

――「どこまでもポジティブに生きろ」(第2章 俺の頭の中 P38)という節では、マンガ家からラッパーへと夢を大きく方向転換された過去についてお話しされていましたが、マンガ家を目指していた頃はどんな作品を描いていたのでしょうか。

呂布 基本的にはバトルもので、特に筋肉を描くことに特化していましたね。女性キャラが上手に描けなかったからというのもありますが、幼少期から読んでいた『グラップラー刃牙』(板垣恵介)に影響されて、男性キャラが出てきて戦って……というマンガばかり描いていました。

 僕が絵を描くことに目覚めたのは小学生の頃。だいたいその頃って、今の時代なら『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)や『SPY×FAMILY』(遠藤達哉)の絵を真似するように、当時はやっているマンガの絵を模写するところからスタートすると思うんです。僕が小学生の頃は『北斗の拳』(武論尊・原哲夫)や『ジャングルの王者ターちゃん♡』(徳弘正也)、『キン肉マン』(ゆでたまご)が『週刊少年ジャンプ』で連載していて、まさに“筋肉時代”だった。つまり、主人公は筋肉ムキムキが当たり前! みたいな時代だったので、幼少期の頃から自然と筋肉を描くようになって……筋肉描写に関してはそういった時代背景もあります。

――夢を方向転換されたことに対して、決して挫折ではなく「漫画より面白い、ラップという表現を見つけて選んだだけ」(第2章 俺の頭の中 P39)と述べられていた一節がとても印象的でした。新たな“面白い”と出会うために意識的に行っていたことがありましたら教えてください。

呂布 意識的に行っていたことはないですね。若い頃って音楽を聴くじゃないですか? その延長線でラップと出会いました。それこそ、最初はずっとバンドを聴いていたんですよ。周囲の同級生よりも熱心に聴いていた方でしたが、なぜか自分でバンドをやろうという意識にはならなかったんです。

 だけど、ヒップホップだけはハマり始めた途端に、自然とリリック(歌詞)を書き始めていましたね。こっちから面白い何かを探しにいったのではなく、ちょうどはやっていたものが自分にフィットした…だから、本当に相性というか、ラッキーだったなと思います。

――面白い! と感じてもそこに飛び込むのにはまた勇気や覚悟が必要になってくる気がします。新たな一歩を踏みだすために躊躇することはなかったのでしょうか。

呂布 いきなり学校を中退してラップ一本でいくぞ! という始め方ではなかったので…つまり、最初は並列で始めればいいじゃんって思うんです。例えば「やりたいけどお金にならないこと、お金にはなるけど本来はやりたくないこと。どっちを選ぶべきですか?」みたいな相談を受けることがよくあるのですが、両方やってみれば良いんですよ。

 それで身になった方だけ残して、途中でどちらかを切り捨てる…このやり方でいいと思うんです。僕だって、他の仕事とラップを両立していた時代がありましたし。つまり、だいたいのことは両立できるので、無理にどちらかに振り切るギャンブル的なことはせずに、可能性のある方に徐々に本腰を入れていけばいいのかなと。

――ちなみに、マンガ家を目指していた頃の経験がラッパーで活きた瞬間はありますか?

呂布 ラップではありません。ですが、無名だった頃に自分でデモCDを作成してクラブで配っていたことがあって、そのデモCDのジャケットを自分で描いていましたね。もちろん、筋肉を描いていました。そうすると「これ自分で描いたんだ!?」って引きになったりするんですよ。あと、ヒップホップにはグラフィティという文化があるので“自分で絵が描ける”というのはリスペクトを得るポイントの一つでもあるんです。

――今後、ヒップホップとマンガを掛け合わせて挑戦してみたいことがありましたら教えてください。

呂布 挑戦とは違うかもしれませんが、ヒップホップをやっている立場からすると、二次元においてのラップの取り扱い方に違和感というか…作品によっては納得のいかないような扱われ方をしていることがあるんですよ。もちろんそういった作品があっても良いとは思いますが、逆にしっかりとヒップホップを扱った二次元の作品が少ないという点が問題だなと。

 強いて言うなら、『少年イン・ザ・フッド』(扶桑社)くらい。この作品はラップグループ「SD JUNKSTA」のメンバーでもあり、グラフィティライターとしても活動されているGhetto Hollywood (SITE)さんという方が手掛けていらっしゃるので、そういう意味で“本物”ですよね。

呂布カルマに人生問答!その1「得意はどうやって見つける?」

――「0点三昧、クビ?気にすんな」(第1章 数々の前代未聞 P26)という節では、学生時代は劣等生だったけれど、これだけは誰にも負けない得意があったから気にしなかったと過去を振り返っていらっしゃいました。読者の中には得意なことがないと悩んでいる方も多いかと思いますが、得意を見つけるためにはどんなことをすべきだと考えていますか?

呂布 僕の場合は昔から絵を描くのが得意だった。だけど、元々絵がめちゃくちゃ好きだから得意になったのか、それとも周りから褒められるからそれが嬉しくってどんどん描くようになって得意になったのか…正直、得意のスタートがよくわからないんです。

 でも学生時代を過ごしていると、普通の勉強はもちろん、体育や音楽など一通りいろんなものに触れるじゃないですか? 僕の場合は悪いものが徹底的に悪かったので、得意のグラデーションがつきやすいというか、見つけやすかったのかもしれません。逆に全部が無難にこなせてしまったり、凡庸だったりする人は“得意”が見つからないのかな…。

 一方で、最近「やりたいことがない」って言っている学生をよく見かけるんですけど、僕はその意味がよくわからないんですよ。やりたいことがないわけないじゃん! って。これだけ、色々なものが溢れている世の中で、日々たくさんの情報に触れて、一つもやりたいことがないわけがないと。もしかしたら、勝手にこれはできないって線引きしているだけなんじゃないかなって思いますけどね。

――得意もそうですが、やりたいことに対して色々と深刻に考えすぎてしまっているのかもしれませんね。

呂布 これでプロになれるか、飯を食っていけるか、お金持ちになれるか……そういったことを考えすぎてしまっているんだろうなと。僕だって、プロのラッパーになりたいと思ってラップを始めたわけじゃなく、“ラップがやりたい”という一心でスタートして、それがだんだん上達していっただけなので。

 だから、こんなことやってもお金にならないとか、自分よりも上手い人がいるから…ではなくて、とにかく「やりたい!」という欲求。目的をデカくしないで、自分の欲求に素直になることが大事なんじゃないかなと思います。

呂布カルマに人生問答!その2「最新技術とどう向き合う?」

――後半では、どんどん優れているものを自分に取り込みたいという理由で「将来の夢は全身サイボーグ」(第2章 俺の頭の中 P94)と書かれていました。最近ではAIが優れた新技術として注目される一方で脅威と捉えている人も少なくありません。呂布さんはAIをどう捉え、どう使っていくべきなのかと考えられていますか?

呂布 AIはもうとっくに人間を超えていると思っています。それこそ、最近とあるバーチャルシンガーのライブ映像を見てはっとしたんですよ。広い会場のモニターに3Dになったシンガーが映し出されていて、それを生身の人間がライブとして鑑賞して大盛り上がりしている…一瞬世も末だなと思ってしまったんですが、実はこの状態ってすごく理に適っているんじゃないかなと。

 例えば、アイドルって本当は僕らと同じ人間なのに、恋愛はしない、イメージダウンさせるような悪いことはしないって仮面をつけさせられて、ある種の“偶像”であることを強いられてきたわけじゃないですか。たとえるなら人間が人間を信仰する……不健全な構図だったと思うのですが、先ほど話したバーチャルシンガーのライブ映像のように、AIが人間のアイドルに取って代わるようなことがあれば、絶対に間違いを起こさないアイドルが誕生する。これは理に適っているし、正しい進化なんじゃないかなと思いました。

 人間が生み出した、人間を超える知的なものに支配されて生きていく。これから色々な仕事がさらにAIに取って代わり、もしかしたら自らもAIに置き換わっていくのかもしれない。でも、AIに取って代わられる仕事って、要はそれまでの仕事だったんですよ。別にAIがいなくとも、自分よりも好条件で仕事ができる人がいたらその人に任せる…今までも繰り返されてきた流れだと思うんです。だからAIに関しては、今までもそうだったしこれまでもずっとそうでしょ? って。個人的には手放しで歓迎しています。

呂布カルマさん

『ブレん人』は自分にとって“黒歴史”にならないといけない

――最後に、これから『ブレん人』を読まれる方に向けてメッセージをお願いします。

呂布 こういう時によく言うような「これを読んで感動してください!」も「参考にしてください!」も違う。やっぱり最初はちょっと恥ずかしさみたいなものがあって、実は『ブレん人』の帯も最初は「恥ずかしいから見なくていいよ」と書いていたくらいです。発売後、嬉しいことにたくさんの方に読んでいただいて、その評判や感想を見ることで、さすがに“恥ずかしさ”は超えましたがなんだろうな……。

――では、ご自身の本が読者さんにとってどんな存在になったら良いと思いますか? 例えば、迷った時の人生の教科書とか…。

呂布 変な話ですが、僕にとってこの本は“黒歴史”になった方がいいんです。例えば、5~10年後に僕が読み直した時に「正しいこと言ってるな」と思うより、「めちゃくちゃ青いこと言ってる!恥ず!」と思った方が、僕は成長しているってことじゃないですか。だから、僕にとって『ブレん人』は黒歴史にならないといけないんです。

――今後、『ブレん人』第二弾が発売される可能性もあるってことですね。

呂布 あると思います。数年後に読み返した時に、僕が成長していれば「訂正したい!」と思うところがたくさん出てくると思うんです。その時に気力があったら、改めて最新の自分の考えを言いたくなるんじゃないかなと。だから、後々読者から「『ブレん人』めっちゃブレてるやん」って言われる可能性もありますね。

「本書に関する情報は公式Twitterから」
【公式】ブレん人(呂布カルマ著)@book_entame_s

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