夏帆さんが選んだ1冊は?「うまく言葉にしづらいことの中にこそ、大切なものがたくさん詰まってる」

あの人と本の話 and more

公開日:2023/8/11

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年9月号からの転載になります。

夏帆さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、夏帆さん。

(取材・文=斎藤春子 写真=TOWA)

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〈「言葉が壊れてきた」と思う〉。そんな一文で始まる本作は〈言葉の壊れ〉に抗い、〈短い言葉では説明しにくい言葉の力〉を考える本だ。

「決して堅苦しい内容ではなく、とても読みやすいですし、心に残る言葉がたくさんあります。いろいろな人の言葉を、いろいろな角度から引用したエッセイの形なので、言葉に対する向き合い方をあらためて考えさせられました」

 日頃からセリフと向き合っている仕事上、言葉に対して考える機会は多いと思う、と夏帆さんは続ける。

「いまはSNSやネットが普及して、世の中にいろんな言葉があふれていますが、わかりやすくキャッチーなフレーズで何かを伝えることを作者の荒井さんは危惧していて。私自身、言葉を簡潔にまとめることが苦手です。でもそうやって上手くまとまらなかったり、言葉にできないことを積み上げることでしか伝わらない、大切なものがあるのは、私も常日頃から感じていることですね」

 じつは夏帆さん、言葉の大切さを考察する今作と二度出会っている。

「最初は本屋さんでタイトルが気になって購入したんです。でもその時は他にも読まなきゃいけない本があって、家に置いていたんです。しばらくして、友達3人で本屋に行ったら、なぜかお互いに本を1冊ずつプレゼントすることになって。その時にこの本をいただき、“いまが読むタイミング”だと縁を感じました」

 本との出会いに縁を感じる瞬間があるのと同様、仕事との出会いに縁を感じることがある。出演舞台『いつぞやは』もそんな作品のひとつ。

「作・演出の加藤拓也さんとは5年前に一度、ミュージックビデオでご一緒させていただいていて。すごくクレバーな方で、自分と世代が近くてこんなにも才能に溢れた方がいるのかと、すごく刺激を受けました。今回はキャストの皆さんもみんな同世代の方々なので、良い刺激を与えあえる出会いになればと思います」

 夏帆さんの考える加藤脚本の魅力は、計算し尽くされた会話劇だ。

「加藤さんの舞台は何作か拝見していますが、加藤さんの書くセリフは自然な砕けた口調だけど、すべてが計算されている。そして今回もテーマはしっかりあるけれど、説明がしづらいお話です。でも私、それこそ本と同じで、説明がしづらい物語がすごく好きなんです(笑)。舞台を見慣れている方も、普段あまり見ない方も楽しめると思うので、ぜひ見ていただきたいです」

ヘアメイク:秋鹿裕子 スタイリング:李 靖華 衣装協力:トップス3万1900円(Rhodolirion/NEPENTHES WOMAN TOKYO TEL03-5962-7721)、スカート4万1800円(Lautashi/BRAND NEWS TEL03-3797-3673)、ピアス1万120円(graey)、その他スタイリスト私物(全て税込)

かほ●1991年、東京都生まれ。2007年『天然コケッコー』で初主演し数々の新人賞を受賞。以降、映画やドラマを中心に活躍。近年の出演作は映画『さかなのこ』、ドラマ『Silent』『First Love 初恋』『ブラッシュアップライフ』『ノンレムの窓 2023 夏 推してもいいデスか?』など。

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『いつぞやは』

『いつぞやは』

作・演出:加藤拓也 出演:窪田正孝、橋本 淳、夏帆、今井隆文、豊田エリー、鈴木 杏 東京公演 2023年8月26日(土)~10月1日(日)シアタートラム/大阪公演 2023年10月4日(水)~10月9日(月・祝) 森ノ宮ピロティホール お問い合わせ:シス・カンパニー TEL03(5423)5906
●第67回岸田國士戯曲賞を受賞した新世代の劇作家&演出家の加藤拓也が書き下ろした緻密な会話劇。