「羞恥心を捨てて、ぶっ飛んだ妄想を!」ギャグマンガ『素敵な妄想デイズ』皿洗いの時間が嫌すぎて妄想を始めた作者インタビュー

マンガ

更新日:2023/9/10

素敵な妄想デイズ
素敵な妄想デイズ』(きゅうた/KADOKAWA)

 ごく平凡な会社員女性・遠山明日香は、薄毛に悩んでいた。それを防ぐためには、日常生活の中に強制的にトキメキを生み出し、女性ホルモンを活性化させればいいかもしれない。そのためにはどうするか。……そうか、トキメク妄想をすればいいんだ!

 と、思わず「な、なにそれ……!」とこぼしてしまいそうな思考回路から、「妄想生産者」となった明日香を主人公に、ありとあらゆる妄想を描いたギャグコミックエッセイ『素敵な妄想デイズ』(KADOKAWA)が発売された。本作は作者であるきゅうたさんにとってのデビュー作。きゅうたさんはピクシブでも活躍するマンガ家で、過去には第2回ピクシブエッセイとある日常マンガ賞に入賞した、期待の新人だ。

 そんなきゅうたさんにインタビューを敢行。『素敵な妄想デイズ』が生まれたきっかけや、大嫌いな皿洗いのこと(?)、妄想の楽しさなど、縦横無尽に語っていただいた。

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■幼い頃から人を笑わせるネタを妄想してきた

――このたびは『素敵な妄想デイズ』での作家デビュー、おめでとうございます。過去には第2回ピクシブエッセイとある日常マンガ賞に入賞されていますが、これまでを振り返ってみて、いまどんなお気持ちですか?

きゅうたさん(以下、きゅうた):これまで「マンガ家になりたい!」という熱い思いで努力してきたというよりは、「ネタを描きたい! 楽しい! 恥ずかしがっていたらあっという間に人間は死んじゃうから、どんなものでもとりあえず手を出しておけ!」という精神でやってきました。そのため画力も低いのですが、そうやってコロコロ転がっているうちにこんなところまで来てしまい、大事になっちゃったな……というのが素直な気持ちです。

宅配ドライバーと逃避行⁉

――本作の遠山明日香は想像の斜め上をいく妄想を繰り広げますが、その一つひとつに笑わせてもらいました。本作はどのように着想されたのでしょうか?

きゅうた:よく間違われるのですが、私は遠山さんと同一人物ではないので、彼女みたいに街中で出会った人を使ってアクロバティックな妄想をすることはないんです。なんなら電車を使った通勤すらしたことがないので……。それでも本作を描けたのは、遠山さんのように「見た目は地味だけど、頭の中は猛烈に楽しい人」がいたらいいな、と考えたことがきっかけです。

「アクロバティックな妄想はしない」と言いましたけど、でも遠山さんの頭の中身を考えているのは作者の私なので、つまりは私自身が日々、ちょっとおかしな妄想を繰り広げていることに変わりはないんですけどね(笑)。

――そういった人を笑わせる妄想は、社会人になってからも続いていましたか?

きゅうた:社会に出てからはしばらく妄想する時間がなくなってしまいました。でも近年、皿洗いの時間が嫌すぎて、そこで現実逃避的に妄想を再開したんです。それくらい本当に皿洗いが嫌いで。でも妄想のおかげで、虚無でしかない皿を洗う時間が有意義なものになりました。もはや妄想なしで皿を洗うなんて苦痛でしかないですし、妄想なしに皿を洗っている人たちを気の毒に感じるほどです。

――皿洗いを心の底から嫌っていることが伝わってきました。

きゅうた:ええ。妄想が捗るのは皿洗いのときですが、それ以外では隙間時間に妄想しています。隙間時間ってついついスマホをいじりがちなんですが、妄想のおかげでスマホを開く時間も減り、ブルーライトから解放され、目にやさしい健康的な生活を送れるようになりました。それに加え、妄想は頭の体操にもなりますし、認知症予防にも効果が期待できるのではないかとさえ感じています。

――良いことだらけじゃないですか……!

きゅうた:でも、ひとつだけ妄想しすぎることのデメリットがあります。私には大好きなホラーマンガがあるんですが、そのホラーシーンを使ってギャグやネタを妄想し楽しんでいたところ、あるときから、あんなに怖かったホラーシーンがまったく怖くなくなってしまったんです。しかも私だけではなく、そのギャグやネタを楽しんでくれていた仲間にも同じ症状が出てしまって……。これはその作品への冒涜ですし、もしかしたら他のファンを不快にさせる可能性もあります。なので、そのマンガで妄想することは一切やめました。本当に好きなことでは妄想しないほうがいい、ということを学んだ瞬間ですね。

■読者からの感想はすべて天国へ持っていく

――本作の中でお気入りの妄想はありますか?

きゅうた:やはり「朝起きたら、職場が爆破されて消し飛んでいないかな」という長年の夢を描いた、遠山さんと消防士さんとの妄想ですね。同じく、「職場から逃げ出して、どこか遠くへ行きたい」という願いを叶えた、宅配ドライバーとの妄想も好きです。……私、働くことに後ろ向きですみません。

――いえいえ、妄想するのは自由ですし、それで踏ん張れるならいいことですもんね。そのようにさまざまな妄想が詰め込まれた本作を、どんな人たちに楽しんでもらいたいですか?

きゅうた:老若男女問わず、日常生活にお疲れ気味の人たちに、一時でもくすっと笑っていただきたいです。そして悩んでいたことから少しの時間でも解放されて、ちょっぴり元気を出してもらえたらうれしい。そうやって笑って、ガンガン寿命を延ばしてしいと思っています。

――きゅうたさんは本作で作家デビューしたわけですが、今後はどんな作品を描いていきたいですか?

きゅうた:えっと……私って作家になっていたんですか……? これが最初で最後のハッピーミラクルだと思いながら単行本の作業をしていたので、そんな風に言われてびっくりしています! でももしも今後どこかで描くことを許されるならば、基本的には読む人が元気になるような、表面はどんなにおバカでも根本はハンサムなマンガを描いていきたいですね。

着物を召したマダムも妄想のターゲットに⁉

――最初で最後って……、ファンの方たちは今後の作品も楽しみにされていると思いますよ。

きゅうた:私はこれまで、自分の欲望のままに楽しいことを追求して踊り狂っていただけなんですが、それでもいつも温かいまなざしで見守ってくださる読者の方々へは本当に感謝の念に堪えません。いままでいただいたメッセージは、たとえ「笑った」の一言でも飛び上がるくらいうれしかったですし、すべて印刷した上で、私が死んだら棺桶に入れて天国まで持っていく予定です。その一言一句で私の創作生命が一分一秒と伸びました。〈きゅうた〉を生かしてくださって、心の底から最大の声量で言いたい。「誠に! ありがとうございます! みなさまにもハッピーミラクルがたくさん起きますように!!」と。

――ありがとうございます。きっとみなさんも喜ばれますね。では最後に、本作をきっかけに妄想の面白さを知った“妄想ビギナー”に対して、快適な妄想をするためのアドバイスをいただけますか?

きゅうた:第一に、妄想は自分の頭の中だけの出来事、誰に見られるわけでもないので羞恥心を捨てて思い切り楽しく、どうせならぶっ飛んだ内容にしましょう。第二に、とはいえ、現実と妄想との区別はしっかりつけておきましょう。第三に、これが一番重要なことですが、良い妄想をすればするほど顔がニヤけ、傍から見ると不審者だと疑われる表情になることがあります。なので野外で妄想する際にはあらかじめ俯いておく、手で口元を隠すなどのカモフラージュが重要であることを理解しましょう。社会的に死なないように気を付けながら、快適な妄想を楽しんでくださいね。

取材・文=イガラシダイ

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