巨大アンコウにのみ込まれた先には怪魚がうじゃうじゃ…。頑張る人を深海魚がもてなす優しい作品『スパあんこうの胃袋』が生まれた理由とは【漫画家インタビュー】

マンガ

公開日:2023/12/1

ガッツあふれる働き方は少年漫画スピリット!?膝で赤ちゃんを寝かせながらペン入れ作業!

『スパあんこうの胃袋』は第1話を2021年4月にアップ、書籍は2022年7月に刊行している。あきばさんは第2子の長女・とりちゃんを2021年9月に出産しているため、妊娠・出産・産後の期間にまたがって、『スパあんこうの胃袋』の創作に取り組んでいた。

「第1子の長男・おっくんを妊娠・出産したとき、クライアントの方々に『私、出産します、育休とります!』って触れ回っていたんですね。そしたらみなさん気を遣ってくださって、産後仕事に復帰したときに、お仕事が一気に減ってしまって。これはまずいと第2子のときは特に言わずに生もうって決めました。この決断は自分の首を自分でぎゅうううっと締めるものでしたが…。定期的にきている仕事だけ2カ月休ませてもらって、随時で受けている仕事は量を減らしつつ受けていましたね。出産したら頭を使った作業ができないだろうと思って、『スパあんこうの胃袋』は産前にネームを全部終わらせて、ペン入れ作業だけを残した状態にしていました」

スパあんこうの胃袋

 ペン入れだけ、とはいえども乳児を抱えながらの作業は大変であろうことは想像に難くない。「仕事のデスクで授乳しながら寝かしつけて、寝ている隙に膝で抱っこしたままペン入れ作業をしていました」という。それでも、ペン入れ作業はあきばさんにとって楽しいひとときだったとか。

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「おっくんのときは、子どもと2人きりだけの環境になってしまって、1人で悶々と考え込む時間だけあるような感じでした。生まれたばかりの子どもがいると何ができるというわけでもなく、Twitterを眺めるばかりで苦しかったんです。でも、とりちゃんのときは『スパあんこうの胃袋』のペン入れ作業が息抜きになって、楽しくて楽しくて仕方がなかったです。特に、スパの内部を描いた俯瞰図は楽しんでいました。パースとか取れていないので、専門家の方からすればツッコミどころが多いとは思いますが(笑)」

 とりちゃんの妊娠出産時は体調が安定したというのも大きかったという。

「私には子宮筋腫が3つあるんですが、妊娠すると筋腫への血流が妨げられることから、性質が変性してしまうことがあるんです。おっくん妊娠時には変性してしまって、そこから激痛が出るようになり、入院する事態になってしまいました。それがまた別の本の発売3日前とかで、発売記念のトークイベントも控えていました。イベントにはなんとか行きたいと、病院にも相談して、その日だけ点滴を抜いてイベントに参加したりしましたね。これは、子どもに何かあるものではなくて、私がただ痛いだけなので決断できたことではあります」

 カラッと話すあきばさんだが、エピソードの数々がガッツにあふれている。このマインドはどこから来ているのだろうか?

「少年漫画のせいかな(笑)。血反吐を吐くまで頑張らないと強くなれない!みたいな精神になっていて。とにかくマインドが少年漫画モードになっていて、広告代理店に勤めているときも残業上等、プレゼン前は徹夜!みたいな働き方をしていました」

「こういう無理な働き方はよくない」とし、働き方そのものは見直しつつも、2児の母になった今も仕事に対しての熱い思いは変わらない。「子どものことは大事ですが、仕事の時間も自分にとって大切な時間で、なので仕事って楽しいよというのを子どもに見せたいと思いながら働いています」と話す。

 ブログ、X(旧Twitter)、Instagramと運用しているあきばさんだが、ホームとしているのはブログだという。

「本を出すということを目標にスタートしたブログですが、今はもうライフワークという位置付けです。ブログの文章から人となりが見えるのが好きです。今は子どもたちのことを描いていますが、彼らが小学生になるころには、子どものことを描いてもいいか本人たちに確認が必要だと思っています。もし子どものことを描かなくなっても、80歳くらいになるまでブログを描けたらいいなぁと思っています」

 あきばさんのブログは日々のほっこりするエピソードや、気付き、笑える失敗談とポジティブな内容が印象的だ。

「私はブログに来てもらったら、ちょっとでもポジティブな気持ちを持ち帰ってもらいたいと思っていて、なので、私個人が失敗したとか、やらかした話は描いたとしても誰かが嫌な気持ちになるようなものはなるべく描かないようにしています」

「創作漫画は無理」という思い込みを打破し、『スパあんこうの胃袋』を1冊描き切ったことは、あきばさんの中で大きな自信につながった。

「今後は、長く続けていけるような話、もっと皆さんに知っていただけるような作品を描いていけたらと思っていて、いろいろなテイストの話を描くことに挑戦しています。なので、今までやってきたお仕事の比重を軽くして、創作漫画への比重を多くしているところです」とのこと。ガッツあふれる漫画家・あきばさやかから、今後のどのようなストーリーが生まれるのか、期待が膨らむ。

取材・文=西連寺くらら

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