HKT48・指原の性格、長渕剛の本気ぶり。吉田豪が自身のインタビュー経験を振り返る

文芸・カルチャー

公開日:2015/3/11

●アイドルから政治家まで、50のエピソードを公開

 プロインタビュアー・吉田豪。誰もが一度はその名前を目にしたり、耳にしたことがあるのではないだろうか。テレビやラジオ、雑誌などのメディアではインタビューを業務の一つに据える仕事がたくさんある。アナウンサーや編集者、ライターなど、多くの職業ではあくまでも作業の一つにインタビューが位置づけられるが、おそらく吉田をのぞいて、インタビューそのものが「本職」と認められた人間はいないはずである。

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 独特な「ダハハハハ」という笑い声が特徴な吉田のインタビューには、支持する声も多く聞かれる。相手の素性や来歴、趣味嗜好などから個々人の本質へ迫るその手法はもはや、一つの流派となりつつあるが、『週刊 漫画ゴラク』の連載をまとめた書籍『聞き出す力』(日本文芸社)には、数々の著名人達のエピソードと共に、インタビュー下にある彼の意識がまとめられている。

●指原莉乃が干されない理由を分析

 さて、インタビューとはそもそも相手と向き合い、何かしらの話を引き出すというのが作業の根本にある。そして、そのやり取りを重ねる中では個々人の性格や意思を感じられる瞬間もあるのだが、吉田が向き合った一人、HKT48・指原莉乃がみせたのは「人と接する上で自身のハードルを下げる」ということの重要性だった。

 アイドル戦国時代という言葉すら、もはや遠い過去に思えるほどの今。様々なコンセプトを持ったユニットが入り乱れる中で、「私たちってすごい変わってるんですよ!」「私たち普通のアイドルと違って、むしろ芸人に近いんですよ!」とアピールしてくるユニットやそのメンバーが少なくないという。

 ただ、吉田は「自分からハードルを上げるのは損でしかない」と語る。一方、賛否両論は色々とあるものの、バラエティでも時には自分の不祥事すらネタにするほどの指原は「私なんてホント普通ですよ!」と謙遜していたようだ。さらに、「よく『芸人になれば?』とか言われるんですけど、とんでもない! 本物のプロを見ていると、私なんかそういう人たちに面白くいじってもらってるだけですから」と、つねに腰の低い態度をみせていたという。

 平身低頭。ひたすら相手よりへりくだるという意味の言葉だ。「ハードルを下げたほうが笑いは取りやすい」とも語る吉田だが、その姿勢があるからこそ選抜総選挙で一位をとっても恨まれず、どういじられても構わないという態度をみせているからこそ、共演者や取材相手にも好かれると指原を評価している。

●「殺すぞ!」を連発? 長渕剛インタビューは予想外の展開に…

 また、実際の現場では異例の事態に出くわす機会も多いが、長渕剛のインタビューを振り返る吉田は「ボクの仕事なのに、なんか不自然でつまらないインタビューだと思ったら、とりあえずクレジット(制作に関わった人間の名前を記載したもの)を確認して欲しい」と伝えている。

 長渕へのインタビュー依頼には二つ返事で「やります!」と飛びついた吉田。直前に届いたアルバムやシングル、DVDといった膨大な資料を寝ずに確認しようと思った矢先に、一通のメールが担当者から届いたという。

「明日は飼っているワンちゃんと一緒に写りたいという要望があったので、長渕さんより大きい犬が来ます。奥様の志穂美悦子さんが連れて来るとのこと。それと、撮影アドバイザーとしてモデルの冨永愛さんがいらっしゃるそうです」

 そして一夜明けて取材当日、長渕の奥さんである志穂美と娘がそれぞれ大型犬と小型犬を、冨永ももちろん現場へ同行しており、挙句の果てには撮影用のスタジオへ様々なマシーンが持ち込まれ、トレーニングジムに様変わりしていたという…。

 写真撮影では、筋肉の陰影がよく見えるよう照明の当て方などに何度も何度もダメ出しを重ねる長渕の姿があった。プロレスラーや格闘家が撮影前に軽くトレーニングに励む姿はあるようだが、「それとは明らかにレベルが違うよ!」と当時の光景を吉田は振り返っている。

 その後、いよいよインタビューがはじまった。「相手の技をあまり受けずに自分の試合をするタイプ」と長渕の印象を語る吉田だが、担当者からは「実はお酒よりコーヒーが好き」「ソフトクリームが好き」という意外な一面を引き出してほしいとお願いされていたという。

 しかし、いざはじまってみると「殺すぞ!」「死ぬ気」という物騒な言葉を連発。原稿チェックでは大幅な直しが求められたようで、担当者からも「クレジットはどうします? 『文』じゃなく『聞き手』にするとか?」という連絡が入ったそうだ。ただ、それは長渕が「原稿チェックも本気でやっている」ということのあらわれだと吉田は語っている。

●エンタメから「対人関係・人間力」を磨く

 この他にも、樹木希林や古舘伊知郎、明石家さんまや森喜朗元首相など、業界やジャンルにとらわれない様々な著名人たちのエピソードと共に、吉田が手がけてきたインタビューの歴史が凝縮されている。ただ、一見タレントの裏話にまつわる本かと思いきや、読み進めるうちに人とのコミュニケーションについても自然と考えさせられるのが不思議だ。同じく聞き手のプロとして活躍している阿川佐和子との対談も収録されており、いわゆるタレント本としても、コミュニケーションを学べる本としても楽しめるのではないだろうか。

文=カネコシュウヘイ

『聞き出す力』(吉田豪/日本文芸社)