山田真歩「まるで白昼夢を観ているような気持ちになる、3人の男女の愛の形を描いた物語です」

あの人と本の話 and more

2015/10/7

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、11月より公開される映画『アレノ』に出演している山田真歩さん。エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』を日本に置き換えて作られたというこの作品は、静かながらも激しく、叙情的な映画となっている。はたして山田さんが本作を通して感じたものとは――?

 事故を装って夫を湖に沈め、その溺死体が見つかるまでの間、妻は幼なじみの不倫相手とラブホテルで過ごす――。映画『アレノ』に登場する2人の男女は何度も激しく抱き合い、愛を確かめ合うが、その心はなぜか冷めているようにも見える。

「とても静かで、淡々と物語が進んでいく。そこには愛なのかどうかも分からない感情だけが描かれていて。台本を読んだ時、この不思議な世界を形として残してみたいと思ったんです」と山田さん。
「役名がないというのも、面白かったですね。最初のプロットの段階ではちゃんとあったんですが、どうもしっくりこなくて。台本になった時に『妻』『夫』『愛人』という表記に変わりました。誰ひとり、名前を呼び合わない。そのことが特定性をなくし、また非現実的な空気感を作り出し、まるで白昼夢を観ているような気持ちにさせてくれるんですよね」

 共演者には不倫相手役に渋川清彦、夫役に川口覚と、映画界・演劇界で活躍する実力派俳優たちが顔を揃えた。個性が強く、画面に登場するたびに強烈なインパクトを残す面々だ。しかし……。

「お2人ともすごくやりやすかったです! 渋川さんは、私がどんな芝居をしても受け入れてくれる懐の深さがあるというか……(笑)。渋川さんの演技をしっかり見ていれば、私のなかに自然とその状況に合った感情が生まれていく感覚がありました。ですから、今思えば、体や感情の動きは任せっきりだったような気がします。
川口さんは不思議な方でしたね。亡霊のような役なのに、『あぁ、いるかもしれない……』って思えてしまう存在感があって(笑)。普通ならその佇まいについ笑ってしまうようなシーンでも、なぜか説得力を感じさせてくれるんです。本当に独特の魅力を持った方だなと感じました」

 そんな魅惑的な2人に囲まれながら、山田さんもまた、夫への愛と不倫相手への思いで揺れ動く女性の姿を、文字通り体当たりで挑んでいる。

「ちょっとした表情や体の動きで感情を表現していくことが多い作品でした。越川(道夫)監督のプロデュース作品には何度か出演させてもらったことがあるんですが、いつもセリフが少ないんです。それに、今回は笑顔もラストに少し見せるぐらいで。でも、そのほうが私にとっては嬉しかったですね。長ゼリフがあまり得意ではないので(笑)」

 そうは言いながらも、作品の中で山田さんは心の機微を深遠に表現し、セリフで語られること以上の情報量を観る者に与えている。

「現場では場面ごとにキャストやスタッフさんたちと話しあって、あとは自由に演技をしていきました。そうすることで、自然に、しっかりと物語のテーマ性も映像に残せたような気がします。私のなかにも大きな意味のある、大切な作品になりましたので、ぜひ劇場で観ていただけたら嬉しいです」

(取材・文=倉田モトキ 撮影=山口宏之)

山田真歩

やまだ・まほ●1981年東京都生まれ。2010年『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』では主演を務め、注目を浴びる。近作に、連続テレビ小説『花子とアン』など。12月より舞台『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』に出演。2016年、映画『ヒメアノール』が公開予定。
スタイリング=kentaro higaki(little friends) ヘアメイク=藤垣結圭(アンフルラージュ) 衣装協力=ニット3万円、スカート3万8000円(ワイズ/ワイズプレスルーム TEL03-5463-1540)、ピアス1万2000円(Jens/オーバーリバー TEL03-6434-9494)(すべて税別)

 

『ドミトリーともきんす』書影

紙『ドミトリーともきんす』

高野文子 中央公論新社 1200円(税別)

昨年発売された高野文子の12年ぶりの新作は、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹ら4人の科学者の言葉と著書を紹介した新感覚コミック。学生寮を営む母娘と若き科学者たちの会話は読者を優しく理系の世界へと誘い、心地よく好奇心を刺激する。難しい専門用語は一切なく文系の方にもおすすめの一冊。

※山田真歩さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ11月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『アレノ』

原案/エミール・ゾラ『テレーズ・ラカン』 監督・脚本/越川道夫 脚本/佐藤有記 
出演/山田真歩、渋川清彦、川口 覚ほか 配給/スローラーナー 11月21日(土)より全国ロードショー
●“夫”との味気のない結婚生活を送っていた“妻”は、2人の幼なじみである男との“愛人”関係に陥る。やがて、偶然の事故を装い夫を湖で溺死させた2人は、遺体が見つかるまで近くのラブホテルで愛欲に溺れていくのだが……。
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