「一寸先は犬?」おなじみのことわざを「犬」に変えてみた本の著者・石黒謙吾さんインタビュー

文芸・カルチャー

2016/6/21

犬声人語
(文・石黒謙吾、絵・雲がうまれる/ワニ・プラス)

ことわざの一語を「犬」にしてみたら……。そんな、遊び心と犬への愛がたっぷりの文章に、ほんわかあったかなイラストがマッチングした書籍がある。『犬声人語』(文・石黒謙吾、絵・雲がうまれる/ワニ・プラス)がそれだ。この本の「はじめに」に書かれている「毅然としていたり、おもしろかったり、力強かったり、賢かったり、やさしかったり、ほろりとさせたり」という創作ことわざって、どんなものなのでしょう?

著者の石黒さんは、著述家・編集者・分類王として、数々の多彩な著作を執筆すると共に、プロデュース・編集したも幅広いジャンルで200冊以上を送り出してきた。著書では、映画化、ドラマ化もされた『盲導犬クイールの一生』が有名。秋元良平さんの写真によって1頭の盲導犬の一生を追いながら、関わっていく家族、トレーナー、使用者たちとのふれあいを描いたノンフィクションである。

そんな犬と関わり深い石黒さんに、『犬声人語』のアイデアが形となるまでの過程や本書に込めた思いなどについて、お話を伺った。

――石黒さんの作品を拝見すると、犬をテーマにしたものもそこそこあるようなイメージがありますが、そのような構想はあったのでしょうか?

石黒「いえいえ。著者としてだけではなく、プロデュース&編集の立場からも本に関わってきましたが、「犬をテーマに」というスタートラインだったことはありません。ある事実に、自分の心の針が振れて作り始めたのが『盲導犬クイールの一生』であり、それを出したあと、盲導犬、聴導犬のユーザーやボランティアの方々と縁が少しずつ広がって、残したいと強く感じる話しを本にしたという経緯です。あとは、うちの犬と猫についての、オクサンの本を手がけたりもしました。著書としては、犬関連は今回の『犬声人語』が久しぶりとなります」

――奥様の本というと『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』(石黒由紀子/幻冬社)などですね。実際、今も一緒に生活されているそうですね。

石黒「はい。豆柴のセンパイとはちょうど10年。捨て猫だったコウハイとはもう5年になります」

――幼い頃からも動物に囲まれていたというお話を読んだことがありますが、どういった環境だったんですか?

石黒「もともと、親が大の動物好きだったんですよ。だから、高校生までは実家で、犬だけではなくいつも動物たちと暮らしていました。ある日突然、親がもらってきた猿を飼いはじめたり、市営住宅の庭にむりやり池を作って鯉を飼っていた時期もありました。僕は、小学校2年から4年まで叔父の家に預けられていたんですが、その時も犬と過ごしていました。ちなみに、別の叔父ふたりは獣医だったのも縁を感じます」

――まるで“ムツゴロウさん”のような環境で暮らしていたんですね。動物たちとのふれあいが幼少期からあった中で、今回は「ことわざの一語を犬にする」というユニークな試みの1冊となってますが、アイデアの原点はいつ頃から生まれたのですか?

石黒「7~8年ほど前に何となく思い浮かんだんですよ。元から『何か目にしたものを全然違うジャンルのものに置き換える』、つまり『見立て発想』をクリエイションの肝としています。そこともうっすら関連していて、語句を入れ替えることによっての、妄想の広がりを自分で楽しんでいる感じです」

――本書の導入にもありますが、イラストレーターの雲がうまれるさんとのマッチングもうまくいったみたいですね。

石黒「一昨年、ツイッターで雲がうまれるさんの絵を見つけてすぐにアポを取って、昨年『犬しぐさ 犬ことば』(雲がうまれる/ワニ・プラス)をプロデュース・編集しました。そのとき「お題をもらって絵を描くのが好きなんです」と聞いていたので、では、僕のあたためていた企画をどうかと思い、同じ版元の担当者に話したら『いいですね』となってとトントンと」

――本の中にある「犬客万来」では京都に実際あるドッグカフェのお話が出てきたり、かと思えば「犬も歩けば犬に当たる」では突然2083年に人類ならぬ“犬類”が暮らす地球の話になったりと、妄想と事実が入り乱れているのが面白いですが、執筆中に意識したポイントはあったんですか?

石黒「事実を交えつつ、どこまでが本当でどこまでが創作がわからないという手法が好きなんです。たとえば、過去に『すべらない偉人伝』(石黒謙吾、絵・五月女ケイ子/アーススターエンターテイメント)という本を書いたときは、ミケランジェロの史実と『ミケ猫にランジェリーを着せていた下着デザイナー』というデタラメ(笑)をミックスさせていくというやり方で、30人の偉人の紹介をしたり。今回の本でも、そのエッセンスも盛り込まれています」

――石黒さんによる、創作ことわざの解説はもちろん、イラストも随所にリアリティがありますね。「少年よ犬を抱け」の絵で、犬を抱いたクラーク博士が描かれているところでは思わず「あれ、本当にこうだったっけ?」と検索してしまいました(笑)。ちなみに、ご自身でお気に入りの創作ことわざはどれでしょうか?

石黒「『犬眼鏡で見る』はそのひとつですね。犬の目線になると『他人を見下すことはなくなる』と解説したのですが、犬のウラオモテのない腹を割った接し方はまさにそれです。僕は犬といっしょに遊ぶときには、腹ばい近くまで低くなって犬目線でふれ合うのですが、そうするとまずまず心を開いてくれるなあと感じますね。別の創作ことわざでは、『生みの親より育ての犬』でしょうか。これは僕の子供の頃の実話で、本に収めた50の創作ことわざの最初に具体的なイメージが浮かびました。

――「生みの親より育ての犬」は、特別に伝えたいという思いがあるのかなという印象を受けました。最後に、さまざまな表現手法を用い、エピソードも交えた『犬声人語』ですが、どういった方に読んでもらいたいですか?

石黒「犬好きな方はもちろん、これまであまり動物に思いを寄せていなかった方々にも読んで頂ければ嬉しいですね。ふれあいについて語っている『犬眼鏡で見る』や『一宿一犬の恩義』は、人間同士の関わりについても同じことが言えるのです。また、“命”についてもいくつか取り上げているのですが、たとえば、捨てられた犬や猫、保護動物問題に関わっている中で、動物にやさしくできない人には人にも同じことをすると確信しています。だから、動物も人間もひとつの“命”は、あるいは生きる中でも“尊厳”は、まったく同じだと思うのです。僕の隠れメッセージ的なその気持ちが、少しでも多くの人に伝わっていけば著者として幸せですね」

クスッと笑えるエピソードもありつつ、しんみりと考えさせられる創作ことわざもたくさん詰まった本。犬好きでなくとも、せわしない日常で忘れかけていた“普通に暮らせる幸せ”をきっと呼び覚ましてくれる。

取材・文=カネコシュウヘイ

 

【石黒謙吾さん、その他の近著】
石黒謙吾さんブログ

●『分類脳で地アタマが良くなる』石黒謙吾(KADOKAWA)
●『シベリア抑留・絵画が記録した命と尊厳』勇崎作衛・絵 石黒謙吾・構成(彩流社)7/25

【この先、プロデュース&編集の刊行予定】
●『餃子の創り方』パラダイス山元(光文社)7/20
●『作る! 超リアルなジオラマ』情景師アラーキー (誠文堂新光社) 8/3
●『世界を旅するネコ』平松謙三/写真・文 (宝島社) 9/7
●『浮気を巡る冒険』すずきB(ワニ・プラス)9/20