深町秋生さん最新作! クールなシングルマザー探偵を生み出した舞台裏とは?【「ダ・ヴィンチはなにやってんだ、この野郎」というので取材してみた】

文芸・カルチャー

2017/1/18

 昨年11月、作家の深町秋生さんがツイッターで

「高級紙&教養溢れる雑誌に取り上げられて嬉しいことこの上ない。『文芸誌やダ・ヴィンチはなにやってんだ、この野郎』とはツユほども思ってないわけです」

 とつぶやいていた。これは9月に刊行された『卑怯者の流儀』(徳間書店)の書評についてだったが、ならばダ・ヴィンチニュースとしては、深町さんのインタビューをしないわけにはいかない!

 ということで最新作『探偵は女手ひとつ』(深町秋生/光文社)について、お話を伺った。

仕事場はフードコートの4人掛け?!

 主人公の椎名留美は小学生の娘がいるシングルマザーで、現在は山形で探偵をしている。気付けばさくらんぼの収穫や農作業、雪下ろしなど便利屋に近い仕事ばかり。だが一見のどかなこの地方都市でも、ストカーや女性監禁、窃盗や女子高生殺害などの事件が起こり、彼女はその度に解決にあたる。

 留美はアラフォーで前職は警察官だったが、同じく警察官だった夫を勤務中の事故で亡くしている。『果てしなき渇き』の加奈子はボーイフレンド、『組織犯罪対策課 八神瑛子』シリーズの八神瑛子は家族、『ダウン・バイ・ロー』の響子は友達と、深町さんの作品には大事な人を失った女性が高確率で登場する。そこには何か、特別な理由があるのだろうか?

深町秋生さん(以下、深町)「……本当だ、死別してる人ばっかりだ。それは今まで意識してなかった(苦笑)。私の作品の登場人物は何かが欠落していて、欠落を埋めるために行動を起こしていくのが特徴なのでしょう。でもそれは女性に限った話ではなくて、『バッドカンパニー』のように男性が主人公の場合もそうです。自分は両親も健在だけど、自分の中にも常に満たされないものがあるのはずっと一貫していて。まだ独身で家庭を持っていないからかもしれないので、もしかしたら恋が実ったら、今後作風が変わってくるかもしれない(笑)」

 山形は深町さんにとっても地元だが、全編を通して雪深い過疎の風景と、人々の間に流れる貧困の空気が描かれている。

深町「実際景気がいいわけではないので、好景気な描写は書けないんですよ。だから舞台が山形になると、急にノンフィクション色が濃くなるって言われています(笑)。自分の目が過疎と貧困に向いているからそれを描いているけど、全ての地方に言えることだと思うので、連載の時にはあった震災の描写は単行本では削っています」

 作中に登場するファミリーレストランやスーパー、パチンコ店などが集中するロードサイドは、確かに全国どこでも見られるようになった。深町さんはその、ロードサイドこそが故郷の景色だと思っていると語った。

深町「親が転勤族だったので、物心ついた時は宇都宮に住んでいたんです。北関東はロードサイド発祥の地と言われているんだけど、子どもの頃にコジマでカセットテープが10円とかで売られているのを見て、世の中にこんなすごい場所があるのかと感動してしまって。やっぱり自分は、ロードサイドの人間なんでしょうね。今もメガスーパーのフードコートで原稿を書いてます」

周りの声が気になって、集中できないのでは?

深町「当然うるさいんですけど、音楽を聴いているので問題ない(笑)。4人掛けシートを占領できて、パソコンを広げてもゆったり座れて足が組めるので集中できるんです。オシャレカフェのソファ席じゃとても書けない。10月に熊本でサイン会をした時も、観光名所ではなくショッピングモールのフードコートに案内してもらいました(笑)」

人は主人公とその他大勢や、善と悪には分かれない

 深町さんは「寒いところが苦手」ながらも、山形に住んでいてもとくに作家生活に支障はないと語る。この先も山形で、作家活動を続けようと思っているのだろうか?

深町「自分はずっと根無し草だと思っていたし、大学は東京で就職してから埼玉と福岡にも行きましたけど、山形を愛憎織り交ぜて描くうちにだんだん人とのつながりも生まれてきたので、今は『出たい』と『住み続けたい』は半々ぐらいかな。福岡にいた頃はいい街だからこのままいたいと思ったし、山形にこだわっているわけでもない。宇都宮とか仙台とか、雪があまり降らないところにも住みたいし。友人も東京の方が多いけれど、最近では山形のいろんな文化が見えてきたので、『日本酒もおいしいし、いいところだ』と思うようになってきて。今回の作品は山形弁で話していますが、『読みづらい』という意見は今のところなくて、『むしろ効果的』だと言われました。でも古老が使うような方言を再現するとさすがに読みにくくなるので、わかりやすい若者言葉で描くようにしました」

 片腕の逸平は凶悪な元ヤンキーで、何かと絡んでくる石上は元暴力団幹部と、留美の周りはアウトローだらけ。またレイプにも暴力にも慣れきったデリヘル嬢の深雪など、苦しみながら生きるキャラクターも登場する。この世界の片隅にいるのは、まじめで健気な人だけではない。善も悪も持ち合わせた様々な属性の人物が、同じ世界に息づいていると言わんばかりに留美の前に現れる。

深町「どんな人でも平等に描きたいっていうのがあるんですよ。それに昔から時代劇とかに登場する、勧善懲悪の世界に強い違和感があって。正義の主人公と悪のその他大勢って人間を分けるのがすごく嫌いなんですね。だって、その他大勢の雑魚って人は本当はいないじゃないですか。枚数は毎回限られてはいるけど、隅っこにいるどんな奴の人生にも厚みを持たせたい。映画の中では『仁義なき戦い』が一番好きなんですけど、深作欣二監督が川谷拓三や室田日出男など、大部屋俳優集団の“ピラニア軍団”をクローズアップして描いたように、大部屋の人達に光を当てたい。それに人間は完全な善と悪に分かれるものではないと思っています」

 今作はシングルマザーやアラフォーに限らず女性全般に読んでもらいたいし、主人公を含めて明日が見えない生活をしている人達ばかりで、そういう人達に一筋の光が差し込めばいいと思っていると、深町さんは胸を張る。

 ところで、留美が風俗嬢の送迎を手伝うデリヘルには「チェリースタイル」と「ペロペロ芋煮っ娘」があるが、「チェリースタイル」のほうが高級店なのだろうか?

深町「(笑)そこまで考えてなかったけど、山形の一番人気デリヘルが名前にさくらんぼがつくので。風俗店のネーミングって面白いなって、いつも思ってるんですよね」

取材・文=今井順梨