日常を奪い社会を一変させる犯罪…「相棒」シリーズの脚本で知られる太田愛さん最新作は?

新刊著者インタビュー

更新日:2017/3/8

“老いと記憶”は通奏低音のモチーフ

“老いと記憶”。これは太田さんにとって「通奏低音としてずっと自分のなかにあるモチーフ」なのだという。

「記憶は過去の時間に蓄積されたものから出てくるわけですが、時間は等速には進みませんよね。場合によってものすごく伸び縮みするし、あるときは静止したり吹き飛んでいったりもする。特に死を間近に感じるようになったときは、前に進む時間と後ろに引き戻される時間は、潮が満ちて引いていくように大きな振り幅がある。その潮が引いたあとに転がっている石ころのようなものが記憶なんですよね。さきほど話した100歳の方も、学生時代に食べた定食の中身と値段をはっきり覚えていて、話を伺うとそのお店の前の道路や匂いの情景が見えているんです。なぜそれを覚えているのかわからないけれど、それこそが記憶の不思議さ、不確かさであり、人間の不思議さ、不確かさだと思うのです」

 調べたことも、情景描写も、人物像も、小説では自分が書きたいことを思う存分書ける。そこが、さまざまな制約があるチームプレイのなかでベストを尽くす脚本の仕事にはない醍醐味だと語る。

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「私はディティールをとても大切にしているのと、緻密なものを書くのが好きなので、小説を書くときはワクワクします。もちろん脚本には脚本の楽しみがあるので、二つ書くことでバランスが取れているのでしょうね」

 今作は、タイトルも表紙カバーの絵も太田さん自身で決めた。作品全体を自分好みにできるのも小説の楽しみなのだ。

「物語を読み終えたあと表紙を見て、想像して、何か感じ取っていただけると嬉しいです」

取材・文=樺山美夏

 

紙『天上の葦』(上・下)

太田 愛 KADOKAWA 各1600円(税別)

テレビの生放送中に公衆の面前で絶命した老人の不審死と、同じ日に失踪した公安警察官。2つの事件の真相には平穏な日常を崩壊させ社会を震撼させる恐るべき犯罪が仕組まれていた。鑓水、修司、相馬の3人が最大最強の敵に挑むクライム・サスペンスシリーズ第3弾。