石原さとみ4年ぶりの舞台は、小川洋子原作『密やかな結晶』―― 自ら選んだ原作で「小説家」を演じる、その境地は?

エンタメ

2017/12/7


 さきごろ地上波放送された話題の映画『シン・ゴジラ』では、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。今年出演した映画『忍びの国』では報知映画賞で助演女優賞を受賞し、読者投票1位を獲得。話題作への出演とともに、女優としての評価を高めている石原さとみさん。『逃げ恥』の脚本家・野木亜紀子が手掛ける2018年1月期ドラマ『アンナチュラル』への出演も決まり注目が集まるなか、2月からは舞台『密やかな結晶』に出演する。舞台に立つのは『ピグマリオン』以来、4年ぶり。作品にかけた想いと、30歳になった心境を訊いた。

失われゆくものを通じて、
命とはなにかを考えさせられる作品

――『密やかな結晶』は、原作を読んだ石原さんがみずから舞台化したいと熱望したものだとか。

石原さとみ(以下、石原) 『ピグマリオン』以来ずっと、また舞台をやりたいと話していたんですが、今やるのであれば、どの世代の方にも自分に近い物語として感じられるわかりやすいもので演劇らしいものがいいなと思っていたんです。そのなかでいくつかいただいた小説を読んで、この作品にいちばん強く惹かれました。

――モノに関する記憶を人々がひとつずつ失っていくという島が舞台の本作は、やや概念的で複雑な設定のような気がするのですが……。

石原 もちろんお話そのものは単純ではないですが、難しい言葉はひとつも使われていないですし、自分だったら何を失いたくないだろう、島の人々のように大事なものを失い続けていったらどうなってしまうだろうと、身近なおそれとして想像することができる。たとえば、昔は当たり前のようにあったポケベルやカセットが、いつのまにか日常から消えて、他のもので代用されているように、人はどんなものでも何か代わりのものを見つけて柔軟に生きていくことはできると思うんです。それがたとえ仕事でも、たとえば主人公の“わたし”が小説家という仕事を失っても、他にきっと生きていくすべは見つけられる。島の人たちは失ったモノにまつわる思い出さえも失っていくから、喪失の悲しみさえいつしか思い出さなくなる。だったら失うことなんて何てことないような気がするけれど、それでも虚しさや、忘れちゃいけないものがあるような感覚が、“わたし”の中には残っていて。彼女をはじめとする島の人々の姿に感じるものは、人によって違うと思うんですが、お客様が持ち帰るものが多いほど心に残る作品になると思うし、この作品はそんな深さを持っていると読んだときに感じました。

――主人公の“わたし”は小説家。担当編集者・R氏が記憶をひとつも失っていないと知り、秘密警察の“記憶狩り”から守るため、隠れ処に匿うことになります。喪失を重ねていく主人公を演じるのはなかなか難しそうに感じますが。

石原 どうでしょうね……。物語を動かすのはR氏のほうで、“わたし”はどちらかというと受け身の存在ですから。彼女がどう感じ、どう変わっていくかは、周囲の人たちの行動と起こる出来事次第というところがあるので。でも、受け身でいるためには、どれだけピュアな存在でいられるかが大事かなと思います。彼女がまっすぐ物事を受け止めれば受け止めるほど、進行する事態の怖さは増していくと思いますし。なんでも代用できる柔軟性ではなくて、失うものによって浮き彫りになる記憶の大切さみたいなものが、私自身も得られたらいいなと思います。

――ちなみに石原さんにとって、何を失うのが怖いですか。

石原 怖いもの。失いたくないもの、じゃなくて。だとしたら……単純だけど、命しか思い浮かばないかも。

――まだ生きていたい?

石原 というより、まだ死ねない(笑)。女優の私が消えてなくなったとしても、生きていけると思うんですよ。それって、“私”という個体に付随している一部分だし、関わってくれたみんなでつくりあげたものだから。石原さとみという存在がなくなって、みんなの記憶から消えてしまったとしても、“私”自身は残りますよね。それが消えちゃうのが、いちばん怖いかも。ただ死んじゃうということでもなくて、“私”の根っこを支えている、家族とか幼なじみとか大事な人たちとの思い出が失われてしまうのは、やっぱり怖いですね。

――大事な人たちとの思い出が、石原さんにとっては“命”でもある?

石原 そういうことになるのかな。この作品を読んだとき、すべては人間の意志によってつくられているんだなと感じて。親の意志によって命は生まれるし、どんなモノにもそれをつくろうとする人たちの意志がある。だからモノにせよ命にせよ、何かが失われるということは、その陰にある誰かの想いも一緒に失われてしまうことなんだな、と。そうすると今度は、命ってなんだろうとも考えさせられて。実体がなくなったとしてもそこに誰かの想いが残っていたとしたらそれは「存在している」ということなんじゃないかとか、逆に、そこにいたとしても想いを伝える手段がないのだとしたら「存在していない」のと同じなんじゃないかとか。ネタバレになるから言えないんですけど、ラストで“わたし”があるものを失ったことをきっかけに、どんどん変容していく姿を通じていろんなことを感じさせられて、それがちっとも押しつけがましくない。シンプルに「おもしろい」と思えたこの作品を通じて、みなさんが何を感じるのか、ぜひ聞いてみたいですね。

努力すれば夢に近づけるかもしれないと、
30代になって思えるようになった


――全体的に静謐な空気の漂う本作は、近年の石原さんのイメージからは離れたものになりそうですね。

石原 柔らかくて優しくて穏やかな役をやりたいって、この1年ずっと言っていたんです。1月から始まる『アンナチュラル』もそうなんですけど、私自身も物語の一部になれるような、そんな作品にしたかったんです。

――そうすることで新たな自分を発見できそうだから?

石原 それもあるし、自分がつまんなくなっちゃいそうだから、かな? 写真集をつくるときに、「私ってどんな人?」っていろんな友達に聞いたんですよ。そうしたら、人によって全然返ってくる答えが違うんです。いつも周りを引っ張っていくせわしないイメージ、という人もいれば、いつも穏やかにニュートラルでいてくれるから後押しされて動くことができるよ、とか。核となる部分は同じなんだけど、見え方がちがうというか。意識して態度を変えているわけじゃないし、下心も何にもないんですけど、相手との関係によってお互いがいちばん心地よい距離感をつくろうと思っているから、自然と変わっていくんだと思います。私のなかに、動も静も両方あるから、どちらかに偏りすぎるともう片方がほしくなるんじゃないかな。20代でやってきた、華やかでおしゃれでキラキラしたエンタメも大好きだけど、今はそれとは違う、舞台らしい舞台をやりたかったんです。

――2018年は「静」でスタートするけど、その先ではまた違うタイプの「動」がほしくなるかもしれない。

石原 きっとそうなるから、2019年以降の仕事は、派手なものがやりたいかなあと思っています(笑)。

――本作品の脚本・演出は、演劇でも映画でも評価の高い鄭義信さんですが、石原さんは以前から鄭さんの舞台に出演したいと思っていらしたのですよね。

石原 そうなんです。以前に観た舞台『焼肉ドラゴン』や『僕に炎の戦車を』がすごくおもしろくて。笑って泣けて感動できて、観終わったあとに持ち帰るものがたくさんあって、いい時間を過ごせたって思うことができる、すばらしい作品でした。舞台裏にお邪魔したときに皆さん口をそろえて「鄭さんがいいんだよ」と言っていて。私の周りでも、さまざまな俳優さんたちが鄭さんを絶賛していて、絶対にいつか一緒にお仕事したいと思っていたので、夢が叶ってとても嬉しいです。私なりに、作品のここをフィーチャーしたいとか、ラストはこんなふうにしてほしいとか、考えてはいるんですけど、実際どんな舞台になるのか今から期待大!です。

――まさに石原さとみさんの“意志”が働いている舞台なわけですが、これまでそういう取り組みをされたことはありますか?

石原 初めてです。20代までは、周りの人たちに支えられて助けてもらって“石原さとみ”をつくりあげてきたという気がするんですけど、30代は、作品を観て、読んで、深めていく力だったり、誰かと出会って関わっていく姿勢だったり、自分の意志をもって能動的に働かせる努力が深ければ深いほどおもしろい仕事ができるようになる気がするんです。いま自分の意志をもって努力したら、望むものが手に入るかもしれない。そう感じながら、ひとつひとつのお仕事を重ねていきたいです。


【プロフィール】
いしはら・さとみ●1986年、東京都生まれ。2002年、ホリプロスカウトキャラバンでグランプリ受賞。03年、映画『わたしのグランパ』で女優デビュー。出演作に映画『北の零年』(日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞)、『シン・ゴジラ』やドラマ『失恋ショコラティエ』『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』、舞台『ピグマリオン』など多数。18年1月より連続ドラマ『アンナチュラル』主演予定。

舞台『密やかな結晶』
原作:小川洋子『密やかな結晶』(講談社文庫)
脚本・演出:鄭 義信
出演:石原さとみ、村上虹郎、鈴木浩介/山内圭哉、ベンガル 他
2018年2月2日(金)~25日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
主催・企画制作:ホリプロ ツアー公演あり

香水、鳥、フェリーに写真。その島の人々は日常に根差したさまざまなモノの記憶と付随する思い出を失っていく。“わたし”(石原さとみ)は小説家でありながら、言葉のもつ意味を忘れていく自分に静かな不安を覚えていた。そんなとき担当編集者のR氏(鈴木浩介)が何一つ忘れない、秘密警察の記憶狩り対象者であると知る。見た目は少年だが幼い頃から“わたし”の世話をしてくれているおじいさん(村上虹郎)の協力を得て、R氏を隠れ処に匿うことに決めるが……。『アンネの日記』の影響を受けて生まれ、喪失のなかで見出される美しさと命のありようを描いた小川洋子氏の同名小説を、初の舞台化。

取材・文:立花もも 写真:冨永智子

ヘアメイク:菊地美香子(TRON)
スタイリング:宮澤敬子(WHITNEY)

衣装協力:サンダル2万円(FRAY I.D/FRAY I.D ルミネ新宿2店 電話03-6273-2071)、※税別  ワンピース(スタイリスト私物)