西加奈子、約2年ぶりの新作『おまじない』に込めた思い――なぜ「悩みを抱える女の子」が「おじさん」に救われる8編にしたのか?

文芸・カルチャー

2018/1/30

 直木賞作家・西加奈子待望の短編集『おまじない』(西加奈子/筑摩書房)が2018年3月2日に出版される。発売に先がけ、西加奈子さんをお招きし、東京にて試読会が開催された。

「長編作家」のイメージの強い西さんが、なぜ短編を書こうと思ったのか。そのきっかけや、物語に込められた優しい「想い」など、本編の魅力を、あますところなくお伝えしたい。

『おまじない』(西加奈子/筑摩書房)

『おまじない』は、全8作の短編集だ。

 主人公は全員女の子(年齢に関係なく、本作に出てくる女性は全員「女の子」=「もろさを抱えた等身大の女性」である)。少女、ファッションモデル、キャバ嬢、レズビアン、妊婦といった、様々な人生を歩む「悩める女の子」たちが登場する。

 社会の価値観に縛られ、傷つけられたり、苦しんだりしながら、「生きづらさ」を感じている彼女たちだが、思いがけない「おじさん」の「なにげない」一言で救われる。「おじさん」の「魔法の言葉」で、女の子たちの世界が開かれる――西加奈子ワールド全開の「女の子応援」短編集なのだ。

『おまじない』には西さんが描き下ろした8編それぞれのイラストがフルカラーで収録される

 さて、そんな『おまじない』は、どのようなきっかけで生まれたのだろうか。

 長編が大好きで書き続けてきた西さんだが、「息の長い作家になりたい」「年をとっても力のある作品を書きたい」という想いが強かったそうだ。そんな時、尊敬する先輩作家・角田光代さんに「短編1000本ノックをやるといい」と言われたのがきっかけ。

「(角田さんが)30代は短編1000本ノックをしてたって聞いて、あれほどの方がそんだけの努力をしてるなら、私はもっと努力しなきゃと思いました。それで、短編をいっぱい書こうと思って書き始めたのが『おまじない』です」

 もう充分「力のある作家」だと思うのだが……西さんの飽くなき向上心、「書きたい欲求」はすさまじい。彼女の作品がどれもエネルギッシュな理由が分かる気がする。

 ただの短編では「自由に書いてしまう」ということで、「しばり」を設けたそうだ。「女の子が主人公」「おまじない(一言で世界が変わる言葉)」「その言葉をくれるのが『おじさん』」というもの。

 同イベントで、西さんと対談した元ダ・ヴィンチ編集長の横里隆さんからは「なぜ敢えて『おじさん』に? 女の子が女の子に魔法の言葉をかけてもよかったのでは?」という質問が。

「女の子たちが『私たちだけでがんばろう!』となるのは違うかなと。女の子たちに……これはちょっと言いづらいんですけど……一番忌み嫌われがちな(笑)おじさんが、女の子を助けてくれてもいいんじゃないかなと思いました」

「おじさん」をキーパーソンとして登場させているおかげで、「おじさんたちも救われるお話になってる」「(男性でも)シンクロした」と横里さん(ステキなオジサマ)は語る。

 続けて「本作の中で西さんの苦しみに近い女の子はいるんですか?」との質問には次のように答えた。

「どれもそうなんですけど『燃やす』を書きたくて短編を書き始めたくらいです。
私はホントずっと男の子として生きたくて、北斗の拳が好きで(笑)
そんな中、急に≪女の子市場≫に放り込まれた気がして、それがすっごいさみしかったんですね。その時の想いが『燃やす』にはあります」

 また「マタニティ」という短編の裏話も。

 妊娠・出産を経験された西さんのエッセイ感覚に近いお話かと思いきや、着想はなんと、元野球選手の清原和博氏だという。本作の魔法の言葉は「弱いことってそんないけないんですか?」なのだが……

「もちろん犯罪としてダメ、ダメなんだけど、(清原元選手は)ものっすごいしんどかったんやなぁと。あんなん、しんどいしんどい。(メディアは)なんでそんなに叩いたるの? と。弱いことってなんであんなに叩かれるの?」
「今ここがジャングルだったら強くないといけないのかもしれないけれど、弱い人間が生きていけるのが成熟した社会なんじゃないの? それが言いたかったんです」

「女の子」だけではなく、「弱い人」のための物語でもあるのだ。だからこそ、男性でも共感できる物語になっているのだろう。

 一方、自身に課した「しばり」のせいで、思うように筆が進まず、長編とは違う初めての苦しみがあり、「しぼりだす」という感覚で執筆したお話も多いとか。

「創作ではあるんですけど、実際書いてて私自身が救われてきた言葉です。
すごくチャレンジした作品ですし、それくらいしぼりだしたってことは、≪生々しい≫ものなので、他の作品より、読んでもらうのが恥ずかしいなって気持ちもあります。みなさんには大切にしてもらいたい(笑)。読んでもらえたらとても嬉しいです」

 西さんにとっても、特別な一冊となった『おまじない』。

 一足先に読んだ(うらやましい!)書店員の方からの感想をご紹介して、本記事を締めくくろう。

「小説を信じていてよかった」と思いました。

 社会に立ちすくんだり、人に裏切られたりと、いくつになっても世の中に戸惑うことが度々あるんですけど。この小説を読んで、大切な言葉をもらったなと強く思いました。特に女性は「こうしなさい、こうあるべき」と押し付けられ、傷つく場面ってすごく多いと思うんですが、そういう社会に対する一人ひとりの人間のことを、西さんは真摯に考え、包み込んでくれるのだなと。

 短編ならではの魅力がありました。西さんのエッセンスが凝縮されてます。

 西さんの世界観が丸ごと心に飛び込んで来るような感じです。心に残りました。

 みなさんに読んでほしい。そして、力をもらってほしいです。

紀伊國屋書店 新宿本店 今井麻夕美さん

 西さんの『おまじない』は、一つ読むたびに、安心するというか、読むたびに心に積もっていくみたいな感じがして……。一番心に残ったのは「孫係」でした。

 短編だけど、長編並みに読むパワーがいりましたね。西さんの作品はどれも、読むのにやっぱり力がいります。最近の作品は『通天閣』の頃と、ちょっと感じが変わってるような気がしていたんですけど、今回の作品は『通天閣』に近いようなものがあったりして……。雪の日に裸足で走っていったような感じの、パワフルさがある。ああいうノリというか、作風が大好きです。

MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店 勝間準さん

 久々の短編というところで、期待してたのですが、期待以上によかったです。

「オーロラ」の「戻ってくるのはあんただよ」という言葉が、すごい沁みましたね。なんだろう……「救われた」というのを体感した。西加奈子文学の真髄に触れたような思いをしました。

 思い悩んで、自分の立ち位置が分からないとか、そういった自分に居場所を見つけてくれる。自分を認めてくれる……みたいなことが、すっと気持ちの中に入ってきました。

 こんなにブレない骨のある短編集は初めてぐらいで、しびれながらページをめくっていました。打ちのめされた感じです。短いけれど、密度の濃さは長編小説を何本も読んだかのような、そんな迫力でした。しびれっぱなしでした。

(女性が主人公だけど、男性が読んでも)すごい入り込めましたね!

 救いの言葉をかける相手が男なので。入っていけるんですよ。

 男性の側でもあるし、言葉をかけられる女性の気持ちにもなれる。男性にこそ読んでほしい。色んな女性との出会いがこの中にはあるから。

 読む前と読んだ後で、僕は変わったと思います(笑)。目に見える風景も変わるし、考え方も変わったと思うし。

 西加奈子ビギナーの方へ! 『おまじない』は絶対読んでほしい!

三省堂書店 内田 剛

取材・文=雨野裾 撮影=内海裕之