劇団「ナイロン100℃」結成25周年! ケラリーノ・サンドロヴィッチが、どうしても再演したかった特別な作品とは?

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公開日:2018/3/20

ケラリーノ・サンドロヴィッチ●1963年、東京都生まれ。劇作家、演出家、映画監督、音楽家。85年、劇団健康を旗揚げ。解散翌年の93年、「ナイロン100℃」結成。『フローズン・ビーチ』で岸田國士戯曲賞、KERA MAP『グッドバイ』で読売演劇大賞最優秀作品賞、優秀演出家賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。ほか菊田一夫演劇賞など受賞多数。7月に25周年公演第2弾として『睾丸』(仮題)上演予定。

 今年で結成25周年を迎える、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)氏率いる劇団「ナイロン100℃」。記念公演第1弾として選ばれたのは、2012年の初演で話題を呼んだ『百年の秘密』だ。初演時から絶対再演したいと、KERAさん自らプロデューサーに直訴していたという本作にこめた想いを訊いた。

作ろうと思って作れるものではない、怪物的な威力を放つ作品

――「『どうしてこれを今再演したかったのでしょう』と聞かれる。そんなこと聞かれても、再演したかったからです、としか言い様がない。」とチラシのコメントで書いていらっしゃいましたが。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA) これまで書いてきた作品には、それぞれに思い入れがあって、言ってみれば全部が特別な作品なんですよ、自分にとっては。だけど、その中でも『百年の秘密』は、他の作品にはないスペシャルさがある。一生に一本の戯曲だなという実感も。こんな台本はきっと二度と書けない。

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――それだけ完成度が高かったということでしょうか。

KERA う~ん。他人の作品でも感激するほどおもしろいと思えるものって、あまり完成度の高さにはよらないんですよね。実際、初演の映像を観てみたら「もっとうまくできなかったのか」と思うことばかりですし。手がけた芝居で完璧だと思うものはないし、完璧に近いと思えるものすらない。だけど、ときどき作り手の思惑を完全に超えてしまう作品というのがあって。物語としての完成度や役者のスキルの高さがどうとかは関係なく怪物的な威力を放つ作品が。『百年の秘密』はまさにそれで、作ろうと思って作れるものでもないんですよね。

――物語は、楡の木を取り囲んで建てられた館に住む、裕福なベイカー家の娘・ティルダと貧しい転校生・コナの友情を中心に進んでいきます。12歳で出会って死ぬまで、複雑に絡み合う二人の人生と友情を描いた大河クロニクルです。

KERA 女性二人の人生を長いスパンで描きたいというのは、2001年ごろから考えていたんですよ。女性同士の関係性には、男性同士にはない複層的な感情が積み重なっている気がして、書いていてワクワクするんです。ただ、笑いのない作品なので、宣伝しづらいんですよね(笑)。しかも事件らしい事件は起きないし、長くて重い。初演時も、それおもしろいんですかってよく言われたな。ところがおもしろいんですよ、とても(笑)。

悲劇的な死だけが、その人の人生を決定づけるわけではない

――12歳で二人が出会うところから始まって、場面は約10年後、30年後、そして少し戻ってその間の過去へと転換していきます。時系列はかなり入り組んでいますね。

KERA 流れを決めて書き出したわけじゃないんですけど、自然とそんなふうに。自分でもよくこんなの書けたなあと思います。大体いつも、人物相関図だけは最初に作るんですよ。血筋などの具体的な事実だけじゃなく、誰が誰に実はどんな想いを抱いているかも含めて。あらかじめ事件を決めてしまうと、かえって行き詰まることが多いけど、関係性さえ決めておけば物語はおのずと展開していく。ある意味なりゆきまかせだけれど、人生なんてすべてそんなものでしょう。このさき何が起こるかなんて、わかっている人は一人もいない。ある意味、ドキュメンタリーを描くような感覚で物語を紡いでいるところはありますね。

――初演は2012年、東日本大震災の起きた翌年でした。笑いのない物語にしたのは、「笑わせることが必須条件になって取りこぼすものもあるんじゃないか」と思ったからだと当時のインタビューでおっしゃっていました。

KERA この芝居の台本を書いていた頃、テレビでは連日痛ましい死ばかりが報道されていて、果たして亡くなられた方々は報われるんだろうかと思ったんですよ。死はあくまで彼らの人生における一瞬に過ぎず、悲痛な死を迎えたからといって、過去に彼らが幸せに笑っていた日々は無に帰すわけじゃない。どんな死に方をしたかだけでなく、人生のトータルでその人たちのことを見るべきなんじゃないかと強く感じました。『百年の秘密』でも悲惨な死がいくつか描かれますが、時系列を乱し、彼らに悲劇が襲い掛かったあとに、過去のなにげない幸せを映し出すことで、その人生は決して痛ましいばかりではなかった、その瞬間には確かに意義があったんだということも、描けるんじゃないかと思ったんです。

25周年を迎えたナイロンにしか見せられない芝居を

――再演にあたって、ご自身で脚本を読み返して解釈が変わったところなどありますか。

KERA どうでしょうね。そんなに変わらないんじゃないのかな。脚本にもほとんど手は加えませんしね。ここはちょっと、と思うところは多少変えますが、初演を観た方も気づかない程度だと思います。昔は再演となると、自分が飽きちゃっているので要素をやたらめったら付け加えたりしていたんですけど、全部無駄なんですよ。けっきょく初演が一番いいと気がつきました。

――キャストも、ほぼ初演時のままですね。

KERA そうですね。ただ、再演っていうのはほんとに難しくて。稽古時間はあるにこしたことはないんだけど、切羽詰まったときにしか出ない力があるというのも本当で。大倉(孝二)が初演時のアフタートークで言っていたのが「何も考えずに演じた初日がいちばん出来がよかった」と。先日、犬山(イヌコ)もインタビューで「KERAさんの芝居は、再演のときに考えすぎると、いろんなものをくっつけすぎて変わってきちゃう」というようなことを言ってました。たしかに一理ある。時間があると考え過ぎてしまいがち。すると初演時に出せていた純粋なエネルギーが変化しちゃうんですよね。そうならないよう、今のナイロンだからこそ見せられる、僕たちにしか見せられない舞台を、今回も生み出せるよう、正しい頑張り方で全力を尽くします。

舞台 ナイロン100℃ 45th SESSION『百年の秘密』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ、峯村リエ、みのすけ、大倉孝二、松永玲子、村岡希美、長田奈麻、廣川三憲、安澤千草、藤田秀世、猪俣三四郎、菊池明明、小園茉奈、木乃江祐希、伊与勢我無/萩原聖人、泉澤祐希、伊藤梨沙子、山西 惇
本多劇場(下北沢) 2018年4月7日(土) ~ 4月30日(月・休)※ほかに、兵庫、豊橋、松本公演あり

楡の木を取り囲んで建てられた館で暮らすベイカー家。娘のティルダ(犬山イヌコ)は、12歳の冬、転校生のコナ(峯村リエ)と出会う。裕福な銀行家の娘と、貧しい娘。環境は違えど二人は無二の親友として絆を深めていく。10年後、それぞれ結婚し子供をもうけ、家族ぐるみのつきあいを続けていた二人だが、ティルダは夫の病的な浮気に悩まされ、コナの夫には忘れられない人がいた。そしてコナにもまた、ティルダには決して言えない秘密が……。二人の女性の友情と、家族を巻き込み複雑に絡み合った数奇な運命を描き出す大河クロニクル。

2012年初演より 撮影:引地信彦