“うれしい感情”をプラスするだけ! 距離が縮まる印象アップテク

ビジネス

更新日:2018/4/5

 4月は新生活の季節。就職・入学・異動などなど、毎日の環境がガラリと変わり、それに追いつくだけでもやっとなのに、覚えなければならないことも山積み…。期待と不安が入り混じるこの季節、多くの方におすすめしたい書籍がある。『できる大人は「ひと言」加える(青春新書)』(松本秀男/青春出版社)という1冊だ。

■45歳、営業未経験でも外資最大手の損害保険会社のトップ営業に!

 下町のガソリンスタンドで働いていた松本さんが営業の世界に飛び込んだのは45歳の時。その年まで営業未経験ということもあり、当然、最初はまったく上手くいかなかったという。そんな松本さん、本書で紹介している「ひと言プラス」の取り組みを始めた途端、仕事も含め、人生が上手く回りだしたそうだ。松本さんはその人生の変化の様子をこう振り返る。

「45歳の新人営業マン。最初は本当に失敗の連続でした。しかしある日を境にして、変化が起こり始めたのです。それは、特に営業トークをしていないのにお客さんが勝手に買ってくれるという現象が起こったことです。営業以外の話の途中で、向こうから積極的に商品のことを聞いてくるようになったのです。何が起こっているのか、最初は自分でも分からなかったのですが、後から思うと、“ひと言プラス”や、お客様の強み探しを続けていたことの成果だと考えるようになりました」。

advertisement

 相手が何を考えているのか、どういうお客様なのか、自分が納得するまで聞く。それと同時に相手の強みに共感し、それを口に出して伝えていたのだという。

■素直な気持ちで自信を持って人をほめたい!

 本書で説かれている「プラスひと言」は、ポジティブで相手の心を温かくするような言葉、つまるところ「ほめ言葉」だ。最大手の損害保険会社トップ営業を経て、現在は日本ほめる達人協会の専務理事を務められている松本さんの“ほめ力”は相当なものだが、“ほめ初心者”の我々も、これから少しずつ「ひと言」加える癖をつけていきたいものである。そんな初心者に向けたほめのアドバイスを松本さんに聞いてみた。

「普段から、人のみならず、商品・モノ・出来事などに対しても『自分にとってのそれの価値』を見つけて口にするのが有効ですね。おべんちゃらとか、よいしょなんかではなく、その人・モノ・出来事の真の価値を見つけるのが重要ポイントです。“ほめ達3S”(=すごい・さすが・素晴らしいの3Sを言うこと/本書中でも解説されている)のような比較的簡単で言いやすいほめ言葉を、小声でもいいので口から出してみるのが良いでしょう。口に出すことで自分の意識も強まりますし、何よりも、必ず相手に伝わりますからね」。

■「初めのあいさつ」で使える言葉のプレゼントは、ずばりこれ!

「就職や入学などで、出会いの多い季節ですね。初めのあいさつは、ずばり、“うれしい”という感情を相手に素直に伝えるのが良いと思います。
『やっとお会いできました』
『噂は聞いておりました』
『お会いするのを楽しみにしてました』
『あの○○さんですよね?』

なんて言われて、嫌な気持ちになる人はいないでしょう。初めての顔合わせだからこそ、このような“プラスの感情”を言葉のプレゼントとしてあいさつに付け加えることは、距離感を縮める効果があります」

 上に挙げたような台詞は、言うのが少し気恥ずかしかったり、オーバーではないかと不安に思ったりする人もいるかもしれないが、こちらが思っている以上に言われた側はうれしいものだ。「笑顔が素敵ですね」などのほめ言葉も効果が大きいが、さすがにこれは“ほめの初心者”の方には難しいかもしれないので、初めは「会えたことのうれしさ」を素直に表現するのが良いだろうと松本さんは言う。

「また、初めのあいさつは、1対1ではなくて、1対多数の場合もありますね。そういった場合は、
『このチームに入れるのはすごく楽しみだったんです』
『ぜひこの職場に混ぜて欲しいと思っていて、それがやっと叶いました』

のように、その集団に対しての言葉のプレゼントを心掛けたら良いですね。そうすると、自分を迎える側の人たちは自然と『期待して来てくれたんだな』と感じ、快く迎えてくれるはずです。それ以外にも、あなたが“迎え入れる側”のメンバーである場合は、
『来てくれるのを楽しみにしていたんだよ』
のようなひと言を付け加えてあげることで、新入りの人の緊張も幾分かほぐれますし、やる気も引き出すことができるでしょう」。

■「ほめる=お世辞を言う」ではなく、「ほめる=相手の強みを知って共感すること」

 ほめることを、お世辞やおべんちゃらを言うことだと認識していたら、上手く人をほめることはできないという。本当に相手の胸に響くほめ言葉は、相手の強みを知ってそれに共感することで生まれるということが本書では説かれている。こういった点から、ほめ上手になるためには、洞察力や共感性が欠かせないように思われるが、こういった力を養うために有効なトレーニング法はないか、松本さんに尋ねてみた。

「(洞察力や共感性を養うための手段として)読書はとても良いですね。でもそれを単純に読書で終わらせるのではなく、自分の中にどう落とし込んでいくかも重要な気がします。『すごい!』など、呟きながら読むことで、自分の中に本の価値がより一層強くインストールでき、またそれが残りやすいと思います。SNSで『この本のここがおもしろかった』など、プラスの発信を行うのも効果的だと思います」。

■ほめられたとき、素直に「ありがとう」と言えない人へのアドバイス

 ほめるのが上手な人は「ほめられ力」も強いということも本書では説かれている。ほめ言葉は相手の言葉のプレゼント。それに対して「いえいえ」と言ってしまうことは、プレゼントを突き返してしまうことにもなり得るのだ。そうは言っても、恥ずかしかったり、恐れ多かったり、どうしても謙遜はしてしまうもの。全体として謙虚な日本人には「ありがとう」と返すのが苦手な人が多いのだという。そんな我々が「ほめられ力」を身につけるために有効な思考法や習慣付けについて、松本さんのアドバイスは以下の通りだ。

「まずは、『ほめられる=言葉のプレゼントをもらう』という認識をしっかりと持っておくことが大切ですね。それと同じく重要なのは場数を踏むことです。私も昔は『いえいえ』『そんなことないですよ…』と言ってばかりでした。でも、『言葉のプレゼント』という意識を持って『ありがとう』と返すことを心掛けているうちに、だんだんと言えるようになっていきましたね。急に変わるのは難しいので、初めのうちは10回に1回だけ『ありがとう』と言えるくらいでもいいんです。そうやって少しずつ返答が変わっていくと、自分の気持ちも徐々に変わっていきましたよ」。

■自己肯定感が低い人へのアドバイス

 ほめることで相手の自己肯定感を高めてあげることもできるが、そもそも自己肯定感が低いとほめられたときも素直に喜びにくいのも事実。そんな、自己肯定感が低いことに悩む人に対して、松本さんは優しくこうアドバイスを送る。

「“ほめ日記”をつける習慣を身につけると良いですよ。その日に体感した“良かったこと”を書き出すのです。どんなに些細なことでも良いから、とにかく継続することが大事。例えば、今日の僕だと『今朝もアラーム一発で起きた!』とかですかね。本人にとっては当たり前の話でも、人によっては難しいことだったりしますからね。『当たり前』の中にこそ『ありがたい』価値が隠れています。当たり前のこと、例えば、職場があって、そこの同僚とランチを食べに行ける。これって実は、冷静に考えてみるととても『ありがたい』ことですよね。それと、自己肯定感を上げるためにもやはり他人のことをほめることは大切です。ほめることの何が良いのか。究極は、他人を変えるんじゃなくて、自分を変える行為なんですよね。人の価値を見つけて伝えるという過程で大事なのは“見ている自分”なんですよ。(ほめる対象の人・モノ・出来事などは)自分を映す鏡なんです。脳は『人称』を区別できないといいます。他人をほめることで、自分もほめられたように脳が受け取ります。だから自分の心にある穴が小さくなっていくと思います」。

■加速する時代の流れの中で、「ひと言」が担う役割

 世の中が便利に、また技術が高度に発展していくにつれ、どことなく無機質な手触りになっていくような気もする。そんな流れの中で、「ほめること」はどんな役割を担うのか。少し飛躍した話かもしれないが、私はどうしてもこのテーマについて松本さんに聞いておきたかった。

「さだまさしさんの言葉に、『日本は中途半端に幸せになってしまった。だから引き換えに、人との関係とか、温もりとかを失ってしまった』というものがあります。幸せなんですよね、基本。ご飯も食べられて、世界も宇宙もスマートフォンで簡単に見られる。しかし、中途半端な幸せを享受していると、中途半端な不幸せみたいなものもじわじわと押し寄せてきます。そういう中で、“ひと言”を加える。それは見る人によっては余計なひと言なのかもしれませんが、喜びの感情の根幹は命であり、そこで動くものは人にとって最も大きく、絶対に大切なものだと思います。“ひと言”を加えることで、相手に元気をあげる。そして、“相手に元気をあげられる自分”というものが、自分の人生を上手くいかせるのではないでしょうか」。

■他人をほめることで、「いて欲しい」と思われる人材になる

 終始和やかな空気で進んだインタビューの最後に、松本さんは出版後の印象深かった出来事を語ってくれた。

「本書の出版後、昔の馴染みの悪友が『おい松本、本当にひと言なんかで上手くいくようになるのかよ?』と言ってきたんですよ(笑)。私は『なります』と答えました。『なんで?』という友人に、私は『マーケティングみたいなもんだよ』と説明したんです。いまの世の中、みんながんばって、それぞれ一生懸命やっている。けれども、報われない。少なくとも、『報われていないな』と感じている人が多い。報われたいと思っている需要は、物凄く存在するのです。しかし、報いてあげる側は少ない。特に日本人は供給側が得意じゃない人が多いんです。そんな中、供給できる人=報いてあげられる人は、みんなから『いて欲しい』と思われることでしょう。圧倒的に供給が足りないのは目に見えていますからね。相手の承認欲求を満たして、がんばりを報いてあげられるような“ひと言”をプレゼント(=供給)することができる人は、求められます。だから、「ひと言」プラスで人生は上手くいくのだと思います」。

取材・文=K(稲)