勝つのはどっちだ!? 乱歩賞作家2人のガチンコ対決もいよいよ佳境! 下村敦史×呉勝浩“RANPOの乱”スペシャル対談

文芸・カルチャー

公開日:2018/5/13

「通訳捜査官」の葛藤を描いた“裏切りの黒いミステリー”『叛徒』(下村敦史/講談社)と、不可解な誘拐事件を扱った“贖罪の白いミステリー”『ロスト』(呉勝浩/講談社)。1月16日に文庫版が同時発売された2作品がガチバトルを繰りひろげる、前代未聞の人気投票“RANPOの乱”もいよいよ佳境! 5月14日(月)の投票最終日を前に、2人の乱歩賞作家があらためて顔合わせ。はたして勝つのは黒か、白か!?

――下村さんと呉さんはそれぞれ、第60回と61回の江戸川乱歩賞でデビューされて、ともに1981年生まれ。なにかと縁の深いおふたりですよね。

呉勝浩氏(以下、呉):そうですね。お互いに関西に引きこもっているので、同業者の中では一番会っているかなと思います。新刊が出たらチェックしあってるし、京都の川床料理にもいきましたね(笑)。

下村敦史氏(以下、下村):ありましたね、川床会談。僕がデビューした60回の乱歩賞には、呉さんも最終候補に残っていたんですよ。当時、呉さんのブログを読んで「次はこの人がデビューしてくれたらいいな」と思っていました。

advertisement

――そんなおふたりが“RANPOの乱”で対決されることになって、正直どんなお気持ちでした?

:最初に聞いた時は、「よくこんな恐ろしいことを考えたな」と(笑)。同じ出版社から出ている作品を競わせるなんて、普通リスキーでできないですよ。だって勝った方はいいけど、負けた方はどうなるんですか? 講談社、攻めてるよなあと思いましたね。

下村:キャンペーンを仕掛けてくれるのはありがたいんですが、まさかこんな形になるとは。呉さんと僕が親しいからこそ実現した企画だなという気がします。

:じゃなかったら絶対、人間関係に亀裂が生じますよ! 勝っても負けても気まずい……。その点、下村さんと僕ならヘンにこじれることなく、正々堂々戦えるんじゃないかと思います、多分。

下村:多分って(笑)。講談社の担当さんも「こんな企画、駄目ですかね?」とおそるおそる提案していましたね。


――お二人とも勝てる自信があるから、勝負を受けたんですよね?

:もちろんです!「下村さんの胸を借りるつもりで、やらせてもらいます」と引き受けましたけど、内心では倒す気満々ですから。いつまでも風下には立ってねえぞ、と。

下村:恐いなぁ。『ロスト』は大好きな作品ですし、呉さんはかなりの強敵だと思いますけど、エンタメ性とスリルなら『叛徒』も負けていないんじゃないかな。

:下村さんと僕って、作家として注目するポイントが似ているんですよね。扱う題材だったり、テーマだったりは結構共通している。それでいて料理の仕方が全然違うんです。そんな二人が戦ったら、面白いバトルになるんじゃないかという予感はありましたね。

――下村さんの『叛徒』には「通訳捜査官」という、あまり知られていない職業が出てきます。外国人が関与した事件の取り調べやガサ入れに立ち会って、会話を訳する仕事なんですよね。

下村:デビュー作の『闇に香る嘘』が中国残留孤児にまつわる物語で、書くために中国語関連の資料をたくさん調べたんです。そのなかに通訳捜査官のことが書いてあって、「これはミステリーになりそうだ」と感じました。

:『闇に香る嘘』はどんでん返しが鮮やかに決まった、構成で読ませていくミステリーだったけど、『叛徒』はまたタイプが違いますよね。どちらかというと、キャラクターの心情や葛藤でラストまで引っ張っていく作品。悔しいけどこれが面白いんだよな。

下村:「主人公に一番起きてほしくないことが起きる」という発端から、結末までハラハラドキドキが持続するように意識しました。

:僕が好きなのは刑事の田丸っていうキャラクター。あの設定を思いついた瞬間、「勝ったな」と感じたんじゃない?

下村:正直ちょっとありました。田丸は別の作品に出そうと考えたキャラクターなんですよ。当時はデビューしたての新人でしたし、ここは一切出し惜しみせず、魅力的なキャラクターを大量投入しようと思ったんです。

:ネタバレになるから詳しくは言えないけど、黒河内という女性キャラクターの扱いにもドキッとした。この話にあの要素をぶっ込んでくるのか! と驚きましたよ。あそこは下村敦史という男の怪物感がよく出ています。

下村:それは喜んでいいのかな(笑)。『ロスト』はコールセンターに誘拐犯から電話がかかってきて、という事件から思いついたんですか?

:そう。書いた当時はコールセンターで働いていて、ここに誘拐犯から電話がかかってきたら面白いんじゃないかなと。そこから100人の警官に100万円ずつ運ばせるという流れを思いついて、この話は絶対面白くなる、いや、面白くしないと駄目だ、と腹をくくりました。

下村:『ロスト』は謎の広げ方、ストーリーの転がし方がうまいんです。良質の映画を観ているようで。良質の映画ってちょっとした脇役でも、印象的な使い方をするじゃないですか。『ロスト』もそうなんですよね。隅々まで呉さんの気迫がこもっている気がしました。

:デビュー作の『道徳の時間』以上に、これで勝負するという気持ちは強かったですね。これで駄目なら作家としては駄目だな、というくらい思い詰めていたので、全力投入感は出ていると思います。

下村:前半はスピーディーな誘拐サスペンスですが、後半になるとトーンが変わって、罪や贖罪というテーマが浮かんできますね。

:この小説で本当に書きたかったのはその部分なんです。前半は誰が読んでも100パーセント面白い。後半も好き嫌いはあると思うけど、最後まで読めばきっと満足してもらえるんじゃないかと思います。

――ツイッターでは日々投票が増えていますが、経過はご覧になっています?

:こわくて見ていません。永遠に結果は出なくてもいいんですけど。

下村:永久にこの状態が続くのもつらいですよ! それに呉さんの自信がないというのも最近信用できないからなあ。苦しい、苦しいと言いつつ傑作を発表して、文学賞を受賞しますから。

:それで下村さん、最近すっかり愚痴を聞いてくれなった(笑)。ここでちょっと真面目なことを言うと、僕は下村さんの翌年にデビューできて幸運だったと思っています。下村さんが年に3冊というハイペースで本を出したことで、後続作家に道を切り開いてくれた。僕はそのラインに乗っかっている意識がある。僕の翌年にデビューした佐藤究さんも含めて、乱歩賞が注目されるようになってきたのは下村さんのお蔭ですよ。

下村:いやいや、僕にとっても呉さんや佐藤さんの存在は脅威ですよ。デビュー作から5か月で2冊目を出すという『叛徒』の記録は、あっさり『ロスト』に抜かれてしまったし。

:『ロスト』は4か月後(笑)。そんなところでも競っていたんですよね。これからも仲間でありライバルという感じで、競っていけたらと思いますね。


――では投票権をもつすべての読者に、最後のアピールをお願いします。

下村:『叛徒』は変わり種の警察小説です。主人公は組織を裏切ることになった通訳捜査官。最初から最後まで緊迫感が持続するので、読み始めたらきっと一気に読んでいただけると思います。裏切りのミステリーを楽しんでください。

:『ロスト』では、これまであなたの読んだことがない事件が起こります。まずそこに驚いてほしいですね。読み進めるうちに、作品にこめられたテーマにも気づくはず。登場人物たちの苦悩を通して、少しでも前向きなものを受けとってくれたら嬉しいです。

下村:結果はどうあれ、僕らの作品を知ってもらうきっかけになればいいですよね。

:一番はそこ。お祭りとして盛りあがれば成功だと思う。「面白かった」でも「面白そう」でも構わないので、気軽に投稿してみてください。今後もっと“RANPOの乱”みたいな遊びが広まればいいですよね。某先生と某先生の大御所対決とか、見てみたくないですか?

下村:集計する人の手が震えますよ(笑)。さっき「結果はどうあれ」と言いましたけど、やはり勝負ごとなので勝ち負けにはこだわりたい。ラストスパートで勝ちを手にしようと思います。

:負けませんよ。はっきり白黒つけましょう!

●「RANPOの乱」公式サイトはこちら:http://ranpo-ran.com


取材・文=朝宮運河
写真=内海裕之