「私の子育て大丈夫?」育児に悩むのは素晴らしい母親! HSCの子育てで大切なこと【インタビュー後編】

出産・子育て

2018/8/6

『HSCの子育てハッピーアドバイス』(1万年堂出版)の著者・心療内科医の明橋大二先生は「HSC(=ひといちばい敏感な子)をもっと知ってもらいたい!」と日夜がんばる日本におけるHSC研究の第一人者です。そんなお忙しい先生に、ダ・ヴィンチニュースが突撃取材。HSCをよりよく理解するために知っておきたいあれこれを、特別にお話ししていただきました。

■自己肯定感を高めるために必要な「境界線」

——どんな子育てでもそうですが、特にHSCの子育てのベースは「寄り添う」ことが大事だそうですね。

明橋大二先生(以下明橋):そうですね。すべての子どもにとってそうですが、特にHSCには必要です。今の世の中は「右向け右」みたいな同調圧力が強すぎますから、そんな中で子どもの気持ちを尊重して寄り添い続けていくことは、時に周りから非難されるかもしれない大変な面があります。だから、そういう中での私の役割というのは、お母さんを「肯定」してあげること。お母さんが肯定されるとやっぱり気持ちが落ち着くし、それはやっぱり子どもにもメリットがあるんです。お子さんだけでなく、お母さんの自己肯定感も低くなってしまうことが少なくないですが、時には自分で自分をほめてあげることも大切です。たとえばこういう記事を読んでいることだけでも、前向きで素晴らしいことなんですよ。

——自分の子育てが間違っていないかどうかを気にする親御さんも多いように思います。周りの目を気にしすぎるということでしょうか?

明橋:はい。やっぱり自己肯定感が低いと周囲が気になりますし、周りのコメントで一喜一憂してしまいます。そのためには、まずは「境界線をひかないといけない」ということを知るのが大事です。アメリカでは「バウンダリーワーク」という境界線を意識するトレーニングをしたりしますが、日本ではあまり広まっていません。とても大事なことなのに、むしろ境界線をひくのはいけないんじゃないか、と思ってしまう人もいるくらいですから。

——「私はこれ、我が家はこれ」という意識を持つとお話がありましたが、そういうことでしょうか?

明橋:そうです。でもその前に、まず自分が「苦しい」ということに気がつかないといけないんです。実はそれすら気がつけない人もいるんです。先生に言われてやんちゃな子のお世話を頼まれ、疲れてしまい不登校になってしまった子どももいます。自分が「苦しいんだ」というのがわかっていないと、なんでイライラしたり、だるくなったりするのかがわかりません。他の子のお世話をするのはしんどいことだったんだと、そこにまず気がつくこと。それに、気がついたら「これはしんどいから、じゃあどうしたらいいか」ってことになり、それで境界線という話になる。

——「いい子」でいようとすることで苦しい感情が隠れてしまうのかもしれません。

明橋:やはり「べき」というのと「したい」というのをちゃんとわかることですね。我々はいつのまにか「べき」で動いていて、「したい」がどっかにいってしまっている。で、「べき」が自分の「したい」ことだと勘違いしているわけです。本当はイヤでしたくないこともあるのに、そういう自分の気持ちというのを大事にしていないんです。自分の気持ちを相手に伝える訓練を「アサーティブトレーニング」といって欧米では大事にしていますが、日本の学校ではやっていません。だから敏感な子もそういう自分に気がつけないし、それで疲れてしまうんです。

■「HSCを知らなかったら、生きてなかった」

—— HSCの当事者の子どもは自分をどう感じているのでしょうか? 生きづらさとの折り合いはどんなふうにつけていきますか?

明橋:たとえば不登校の子は、ダルくてしかたがないとか、どうしてもいきたくないなどと言うだけで説明できないんですよ。別にいじめにあってるわけでもないし、成績もそれなり。いけるはずなんだけど、いけない。それもやっぱり自分の気持ちに気づいてないんです。それで理由がわからないから、ただ自分を責めて、親も責めて、両方ダメダメみたいに思っている。でもHSCを知ることで、「だから自分は学校で疲れてたのか」というのがわかって、自分を肯定できるようになっていくようですね。かつて不登校だったお子さんは「自分はHSCという言葉を知らなかったら、生きてなかった」とも言っていました。

——不登校ならば不登校でいいということでしたが、やはり「その先」は気になります。どのようにアドバイスしていますか?

明橋:不登校のその後については、文科省の委託調査で予後調査というのがあるんです。それによれば中3時点で完全不登校だった子は、5年後に8割社会復帰しているんですよ。もちろん精神的な病気や虐待などの家庭事情で長引くこともありますが、普通に子どもを見守っていればみんな社会に戻っていくわけです。私のところに来ているお子さんもみなさんそうで、まずはそうした客観的な現実を知っておくのは大事でしょう。一度不登校になると、その後も引きこもりになるみたいに思われていますが、ほとんどの子どもはそうではありません。

 いわゆる中高年の引きこもり層は、一度社会に出てから挫折した方が多いものです。いわゆる「いい子」だった人も多いですが、自分の気持ちをうまく表現できるトレーニングができていないために、自分の本当の気持ちに気づけないまま大人になってしまって、周囲の圧力で折れてしまうのでしょう。

——その間、親は寄り添い続けると。ただ親が子どものことに一生懸命になればなるほど、外からは「過保護」と思われることもありそうです。

明橋:必ずあります。そういうことを言いたくてたまらない人はたくさんいます。だから世の中はこういうものなのだ、と思うしかない。もちろんHSCのことを広く知ってもらうことは大事だけれど、それでもやっぱりこういう人はいるものです。だから自分が受けとらなければいい。耳は傾けつつも「決めるのは自分と子どもだ」と腹を括るしかないのです。

——最後にHSCの可能性を教えてください。

明橋:人の気持ちに細かく気がつくHSCは、人の世話をする仕事、たとえばカウンセラー、介護士、保育士などの仕事は本来向いていると思います。あとは、参謀的な仕事、アドバイザー的にいろんな状況を分析してプランをたてることも向いています。先日のサッカー日本代表でいえば、岡崎みたいな人が非HSP*で、柴崎みたいにグラウンド中のすべてに気がついている人はHSPじゃないかと(笑)。

注*HSP:Highly Sensitive Person。ひといちばい敏感な人。

 最近、海洋生物がゴミを食べて死んでしまうことが問題になっていますが、そういうテーマにひといちばい心を痛めるのがHSCです。とかく世の中には「自分が生きている間だけなんとかなればいい」と考える人はいるものです。だからこそ、HSCやHSPが細かく気づいてくれる。それは人類に必要なんです。

インタビュー前編はこちら

文=荒井理恵