「アイドルをクビになった私が、プロレスラーを目指したときに誓ったこと」 伊藤麻希 【プロレス特集番外編】

エンタメ

2018/8/17

「死にたくなったら、伊藤を観に来い!」
 試合後、伊藤麻希のそんな絶叫に、客席から「伊藤ちゃーん!」と声が飛ぶ。プロレスデビューして、まだ2年。自他ともに認める「弱い」レスラー。だが、ひとたび姿を現せば、最後まで観客の心と視線をつかんで離さない。アイドルグループ・LinQのメンバーとしてはほぼゼロだったファン。しかし、プロレスの舞台に立った瞬間、観客は彼女を支持した――。「泥臭い」ファイトと圧倒的なマイクパフォーマンスで自分の「居場所」を確立した伊藤麻希の信念とは?

アイドルは「かわいさ」、プロレスラーは「気持ちの強さ」

――アイドルとプロレスラーは似ている部分がある、と言われることがあります。アイドルグループLinQ出身の伊藤さんは、どう思われますか?

伊藤 私はあまりそう思ったことがなくて。舞台に立って、お客さんに観てもらう、というところくらいかなと思います。アイドルは、なんだかんだ言って「かわいい」人が売れるんです。生まれ持った、どうにかしようのないものが大きいので、売れる人しか売れないかなと。でもプロレスは、かわいければもちろん有利ですけれど、どちらかというと「気持ち」みたいなものが強い人が売れる気がしますね。

――なるほど、確かに伊藤さんの気持ちの強さは、ファンの心をつかみます。

伊藤 ありがとうございます。あと、アイドルはいかに崩さないかが大事なんですが、プロレスでは試合中に痛みなどで顔を崩すと「いい顔してるなあ」とほめられる(笑)。いつでも顔を崩さないなんて無理ですよね。歌っている時とか、絶対に二重アゴになるし!

――伊藤さんは歌の内容をしっかり伝えようと、表情を歌詞に合わせていたそうですね。

伊藤 やりすぎるタイプです(笑)。表情で伝えようと、がんばればがんばるほど、アイドルとしてはお客さんにウケなくなっていく。ずっと、本当にきつかったです。アイドルとプロレスラーでは求められるものが全然違うんだなと思っています。

――子供の頃からずっとアイドルになりたかったのでしょうか?

伊藤 マンガ家になりたいと思っていたこともあったんですが……とにかく「有名になって、お金持ちになりたい」とはずっと思っていました。親の口癖が「お金がない」だったんですよ(笑)。なので、4歳くらいから「自分が稼いで家族のために家を買いたい」と思い続けているんですが、まだ達成できていないのでがんばらないと。

――ご両親は伊藤さんがアイドルからプロレスラーになったことをどう思っていらっしゃいますか?

伊藤 びっくりしていますね(笑)。それと、やっぱりケガが心配みたいです。

LinQのメンバーと並ぶと、明らかにレスラーの体だとわかる

――プロレスラーになる前は、何か運動はされていましたか?

伊藤 運動するような生活ではなかったです。

――今リング上でもかなり軽やかに動かれていますが……ではレスラーになってみたら、「意外と動けるな」と思われたのでしょうか。

伊藤 いえいえ! 全然動けないですよ。特に最初は何もできなかったですね。筋トレと日ごろの練習をコツコツやる中で少しずつできることが増えていった、という感じです。自信をつけるためにも、練習は毎日しています。

――どういたスケジュールで練習されているのですか?

伊藤 (レギュラー参戦している団体の)東京女子プロレスで全体の基礎練習が週に3日あって、残りの4日は選手それぞれが自主トレで体を鍛えます。使う技によって使う筋肉が違うので、選手ごとにトレーニングも変わってくる。私はとにかく力がないので、肩と胸、背中を重点的に鍛えています。

――体は変わってきましたか?

伊藤 LinQのメンバーたちと並ぶと、明らかに「レスラーだな」って感じの体にはなりましたね。この前久しぶりに衣装を着たら、胸まわりがきつくて、自分で改造しました。練習の成果かな、とは思いましたが……。

――その口調からすると、体が大きくなってきたことが手放しで「うれしい!」という感じではないのでしょうか。

伊藤 複雑なところですよね(笑)。でもまあ、私はこっち(プロレス)だなと思っているので、うれしいです!

――アイドルとしての活動も完全にやめたわけではないのですよね。

伊藤 実は今、アイドルもやろうかなと思っているところなんですよ。プロレスをやり始めたらファンが増えたので、調子にのって「いけるんじゃないか?」と(笑)。やるだけやってみようと思っています。

「強い人」とは「すべてがうまい人」

――目標にしているレスラーはいますか?

伊藤 憧れとか、いいなと思う選手はいるんですが、目標はつくらないようにしています。意識すると、言動もかぶってきてしまうので。誰かと同じにはなりたくないので。

――ではこれから勝負したい人はいますか?

伊藤 とにかく「強い人」とだけ、あたりたいです。男でも、女でも。そうじゃないと、自分が成長できない。その代わり、ボコボコにされるのも覚悟しています。

――伊藤さんの思う「強い人」とはどんな人ですか?

伊藤 なんでもできる人ですね。プロレスの技をかけるのも、受けるのも、マイクパフォーマンスも、会見の時の空気の出し方も……リング以外のことも全部含めてうまい人が「強い人」だと私は思います。リングでの技だけが強くても、私はそんなに強いとは思わないですね。「いかに爪痕を残すか」みたいなのはプロレスでは大切なので。もし、「マイクでは勝てるな」と思ったら、「私のほうが強い」と思っちゃうんですよ。

――ということは……技の部分ではまだ負けることが多いかもしれませんが、そこさえ強くなれば、伊藤さんは最強のレスラーですね。既にリング外のすべてが「うまい」わけですから。

伊藤 そうなんですよ! ただそこが、なかなか難しいんですが(笑)。

元気がない時は、とりあえず本を読んでどうにかします

――これまでの中で、一番満足度が高いのはいつの試合ですか?

伊藤 今年の1月4日の後楽園ホールですね。

――DDTの“ゲイレスラー”男色ディーノ選手とのシングルマッチですね。負けてしまわれましたが、伊藤さんの気迫があふれる、大変すばらしい試合でした!

伊藤 ありがとうございます! 今のところあれ以上のものはないですね。

――伊藤さんが、ディーノ選手の得意技である「リップロック」(キス)を出したことが話題になりました。しかもそれが伊藤さんのファーストキスだったそうで……。

伊藤 そうなんですよ(笑)。ディーノさんは本当に「うまい」方なので、少しでも、ぼーっとしていたら全部かっさらっていかれますから……躊躇する間もなく(リップロックに)いきました!

――伊藤さんが「満足度が高い」と思われたのは、どういう部分ですか?

伊藤 試合前にみんなから「伊藤が負ける」と言われていて……。

――キャリアもディーノ選手がだいぶ上ですし、体格差もかなりありますからね。

伊藤 それでも食らいつきたい!と思っていたので、それができたかなと。ディーノさんがさすがで、全部受け止めてくれましたね。実は、あの試合、どこかのタイミングで足の親指を捻挫していて、歩くのもきつかったんですよ。でも立ち上がって戦うことができたので、根性が鍛えられていたんだな、と気づくことができました。

――相手がディーノ選手だからできた試合でしょうか。

伊藤 はい。別の方だったら、どうなっていたかわからないですね。ディーノさんのことは、すごく尊敬しています。ツイッターでの発信の仕方もうまいですし。あ、あの人が私が思う「強い人」ですね。だから負けたくない!

――試合後に、ディーノさんから何か言われましたか?

伊藤 「そういうことだよ」みたいなことを言われましたね(笑)。試合後のマイクでは「お前はまだ素材だから、料理人になって、相手をちゃんと料理しろ」みたいな言葉を残していました。プロレスラーは自分だけじゃなくて、相手も引き立たせないといけないですからね。うまいこと言うなあ、ってそこもまた、むかつきました(笑)。

――最後にお聞きしたいのですが、伊藤さんは本をたくさん読まれるそうですね。

伊藤 はい。でも物語はあまり読まないんです。とにかく、自己啓発本がすごく好きです! ホリエモン(堀江貴文)さんの本とか……今読んでいるのは、オリエンタルラジオの中田(敦彦)さんの『天才の証明』っていう本なんですけど、「誰にでも才能はある」というようなことが書かれています。自己啓発本って、書いている人に相談に乗ってもらっているみたいな感覚になるんですよ。

――以前コラムで「人を励ますことはめちゃくちゃ得意でわりと好評なのに、自分の励まし方は全く分からないから自分でも驚く」と書かれていましたが、本に励まされている感じでしょうか。

伊藤 そうですね。もともと友達があまりいなくて、相談する相手もいないので……元気がない時はとりあえず本を読んでどうにかします(笑)!