読者騒然!“子供の貧困”に焦点をあてた衝撃のマンガ『秘密のチャイハロ』――原作者・鈴木おさむ氏の意図とは…

マンガ・アニメ

2018/8/26

img01.jpg
『秘密のチャイハロ』1巻(講談社)

「なかよし」で連載中のマンガ『秘密のチャイハロ』。“子供たちの貧困”をテーマに、秘密の「チャイルド・ハローワーク」で働く子供たちの残酷な現実を描いた作品だが、毎話、子供向けとは思えないその衝撃的な展開が話題を呼んでいる。原作をつとめるのは放送作家の鈴木おさむさん。なぜ「なかよし」でこの内容の作品を書くに至ったのか? お話をうかがった。

■子供は、強烈な悪役のいる物語に惹きつけられる

――息もつかせぬ展開に、1巻を一気読みしたあと、しばらく心臓がバクバクいってました。いったい何がきっかけでこの作品を「なかよし」で……?

鈴木おさむさん(以下、鈴木) そう思いますよね。僕も最初、「なかよし」編集部から“子供の格差社会”をテーマにマンガ原作を、って話をいただいたときは「なんで?」って思いました。そうしたら、編集者の方にお会いしたとき「『奪い愛、冬』が最高だった。ああいうインパクトのあるお話を」と言われてまた驚いて。

――2017年にテレビ朝日で放送されていたドラマですね。そちらも脚本をつとめていらっしゃった。

鈴木 そう。それでなるほどと思ったことがあって……。これは『奪い愛』を書く前の話なんだけど、TBSで『せいせいするほど、愛してる』ってドラマをやっていたでしょ。あの中で木南晴夏さん演じる女性が「この泥棒猫!」って夫の不倫相手を罵る場面があるんですよ。それがけっこう、子供たちの間で流行っていたらしくて。僕も、公園で6~7歳くらいの子供が真似して遊んでいる場面に遭遇した。

――子供同士で「この泥棒猫!」と。

鈴木 うん。驚いたけど、僕が好きだった『スチュワーデス物語』もなんで流行ったかというと、そういうインパクトが強かったからだなあ、と。堀ちえみさんが演じた主人公が言う「私はドジでのろまな亀です!」ってセリフも流行ったけど、それ以上に、ライバルである片平なぎささんの悪役っぷりを小学生時代、みんなで真似していた。両腕が義手っていう設定でね、その原因となった風間杜夫さんの前で、口で手袋をはずしてマネキンみたいな手を見せつけるの。あれは怖かった。今でも怖い。でね、話がそれちゃったけど、『奪い愛』のときは「あの片平なぎさをやりたい」って最初から言っていたんですよ。

――それであのドラマも、あれほど強烈な仕上がりに……。展開とキャラクターが強烈すぎて、視聴者は釘付けになっていましたね。

鈴木 最初、あまり視聴率はよくなかったんだけど、尻上がりになっていって。ネットでの評判も含めて最終的にすごくいい結果になった。残酷な話だっていうのはわかっているんだけど、制作会議は毎回爆笑で、僕がプロットを出すとプロデューサーが「いやあ、今回も笑いました」って言う。演者も「すごいやりきった感があった」と言ってくれて、いいものが作れたなあなんて思っていたら、それを受けての「なかよし」オファーですよ。悪役の真似をする、というのが頭にあったから、わからない話じゃないと思った。

――そういえば『家なき子』が流行ったときも、小学生はみんな「エリカがたとえてあげる」って悪役の榎本加奈子さんを真似していました。強烈な悪役は子供たちに訴求するんですね……。

鈴木 それに、オファーの理由がコメディじゃなくてよかったと思ったんです。実は僕、テレビ以外でコメディを表現するのがあんまり好きじゃなくて。映画はそっち方面に振り切っているものが多いですけど、『奪い愛』を書いたときに「あ、俺、こういうの得意かも」と思えたんですよね。今後、もし物語を書くことがあれば、あれくらい振り切ったキャラクター造形で作っていくのも面白いなと感じていた。「なかよし」の編集者と打ち合わせしたときに、設定も含めてけっこう好きにやっていいんだということがわかったので、「チャイハロ」を提案させてもらいました。「子供だけが通えるチャイルド・ハローワークがあったらいいな」っていうのは、ずっと自分の中にあったアイディアなので。

img01.jpg

■一種のファンタジー、だけど格差のリアリティは損なわないように

――昔から考えていたアイディアだったんですね。

鈴木 うん。ちょっと少女漫画っぽいなと思って提案したら「すごく面白い」と乗ってもらえた。だったら、本当に悪い人がとことん登場する中で、子供ならではの視点で社会を見る物語にしようと決めました。

――いやもうほんとに悪役が……実はいい人とか、彼らには彼らの事情がとか、そんなの全然なさそうなくらいひどくて……。

鈴木 振り切ろうと決めましたから(笑)。まずは主人公の愛がお母さんと一緒に居候している親戚のおばさんですよね。雪江さん。あとは金を権力にいじめてくるクラスの女子たち。それからイケメンは何人か配置しておこうと。

img01.jpg
“悪役”のうちの一人、親戚のおばさん・雪江

――イケメンですけど、裏がありそうな……。チャイハロの社長もえげつないですよね。しょっぱなの、愛がチャイハロの面接を受けるところからしてもう。

鈴木 愛がえずくほど嫌いな「ゴーヤを食べろ」っていうシーンね。「食べたら3万円払う」っていうのはたぶん想定範囲なんですけど、プロットを考えているときに「100万払うから、食べたゴーヤをここで吐け」って言う場面を思いついた。さすがに行き過ぎているかなと思ったんだけど、突きつけられる条件はそれくらい強烈なほうが、キャラクター造形の上ではいいなと思っていたので。だって、絶対にいやなはずじゃないですか。嫌いなものを食べるより、食べたものを吐くほうが。究極に追い詰められた状況だからこそ、その人の――愛の美学が浮き出ますよね。

img01.jpg
チャイハロの社長・龍羽努

img01.jpg
衝撃の面接シーン

――実際、愛の“美学”が面接合格を導きました。

鈴木 最初に「格差社会」というテーマが与えられていましたし、実際に僕が想像する以上に激しい現実があるんだと思うんですよ。「なんで今この作品を書くのか」ってことは真剣に考えてやっていかなきゃいけない。保育園に入れないから働けないとか、子供に何万もするスマホを与えられるかどうかとか、ちょっとしたところで格差はシビアに映し出される。お金の問題は大きいですよ。

――愛も、お母さんが働けなくて、お金がないことがすべての苦境の原因になっています。

鈴木 だいたい、世間で言われはじめたことが、リアルに体感として我々に降りてくるには10年くらい時間がかかる。今も働き方改革とか言われてますけど、僕たちみたいに残業当たり前できた人間が「仕事ばっかりしてちゃだめ」と言われてもピンとこないでしょ。でも今の20代にはその考え方が浸透しているし、10年後には全般的にそれが当たり前になっているんだと思う。『チャイハロ』は一種のファンタジーだけど、今このテーマを取り上げていることはしっかり胸に刻んだうえで、現代劇としての芯を失わずに書いていきたいと思いますね。

img01.jpg

■ネタは振るだけ振っておけば、いつか伏線になるかもしれない

――書かれる上で気をつけていることはありますか?

鈴木 そうですね。毎回、何か事件が起きて最後に愛ちゃんが子供に何か言うんだけど、それは僕自身からのメッセージだとも、ちょっと思っていたりして。2巻では子役の話が出てくるけど、親にいろんなことを押しつけられている子供の象徴として描いているんですよ。そういう子に対して、身ぐるみはがされて何もかも失っている愛ちゃんが何を言うか、というのはけっこう大事というか。子供には伝わるものがあるんじゃないかなと思っています。僕はこの作品を、子供たちへの応援歌のつもりで書いているので。

――大人としても、展開は衝撃的なんですが、その中で愛ちゃんが何を守っていけるのか、人間としての尊厳は何かみたいなことはけっこう考えさせられます。

鈴木 大人は「何やってるんだよ、少女漫画で」って思うと思いますけどね(笑)。実際に言われるし。でも、物語は何通りかの見え方がないと面白くないから。

――事件の設定はどうやって考えているんですか。

鈴木 子供にとって悲劇的なことってなんだろう、というのが起点ですかね。あとは振り切りはするけれど、設定はぶっ飛び過ぎない。1巻で、愛ちゃんは初仕事として「犬の処分」を命じられるでしょ。まあ、子供はいやだよね。犬を殺すって。でもお母さんが再婚して、新しいお父さんがペットは大嫌いで処分したがっていることなんてきっとあるだろうな、と。その時々で考えていますけど、毎月頭に締め切りがくるんで憂鬱ですね……。

――ちなみに「実際、鈴木さんはどこまで書いているの?」というのはよく聞かれる質問だと思うんですが。

鈴木 全部ですよ! 毎話、ちゃんと脚本を書いています。だからけっこう、しんどい(笑)。あらすじだけ書いてマンガ家さんに委ねるのと、どちらがいいかは編集部と最初に相談したんですけど、可能ならしっかり脚本で書いてほしいと言われたんで、しっかり物語の細部までつくってます。僕、何人か家族ぐるみでお付き合いしているマンガ家さんがいるから、その領域に手を出すからには本気でやらないと失礼だっていう思いもありますね。

――マンガ家さんから何かアドバイスされたことはありますか?

鈴木 今回に関して特別、ってことは何もないけど、昔とあるマンガ家さんに言われたことがあるのは「鈴木さん、とにかく、振るだけ振ったほうが楽ですよ」ってこと。

――どういうことですか?

鈴木 「物語を作るときに、ネタを振るだけ振って、あとで回収しなくてもバレないですから」って(笑)。それを聞いて思ったんですが、伏線回収がうまい人って、最初からは考えてない人なんじゃないかなって。書きながらある瞬間に「あそことここが繋がるぞ」って気づいて、さも最初から考えていたかのように回収するテクニックをもった人がすごい人なんだと思うんです。それを今、連載の中で自分でも試していますね。

――じゃあ伏線のように見えていることも、回収されるかもしれないし……。

鈴木 されないかもしれない。されても10巻くらいあとかもしれない(笑)。逆に「こうなったら面白いなあ」と思って仕込んでいるネタはあるんだけど、思ったようにその方向には物語が展開してくれないことも多いですしね。マンガの面白さだなと思います。

――今作は長く続けていきたいと?

鈴木 そうですねえ。まあ、やるからには小規模じゃいやだなというのがありますので。できれば自分の強みを生かして映像化もしたいですね。自分の中でキャスティングもできていますからね。ま、まずはマンガがヒットするよう、ある限りのものを出し切って振り切ったものを書いていきたいと思います。

img01.jpg

構成・文=立花もも

 

この記事で紹介した書籍