作戦通りの“追い込み”婚!? 横澤夏子が何度フられても諦めずに婚活を続けた理由【インタビュー】

恋愛・結婚

2018/9/17

 ママチャリに乗り、自由奔放に動き回る子どもたちを叱りながら、必死の形相でペダルを漕ぐ母親。しかし実際は、子どもは綿の詰まった人形で、当時ペダルを漕ぐ彼女は子を持たない独身女性のピン芸人だ。しかしそのネタから溢れ出るリアリティは、思わず「ああ、こういう人いるわ」とつぶやいてしまうほどのレベルの高さ。

 独特の観察眼とその演技力の高さから評価されている芸人、横澤夏子。彼女は、昨年婚活パーティで出会った男性と結婚した。出産による産休をとる芸人も現れるようになり、“女芸人はモテない”といった旧来の印象はすっかりなくなりつつある昨今。結婚自体はあまり珍しいニュースではない。

 ただ、彼女の結婚が特徴的であるのは、婚活に対する人一倍強い情熱である。21歳から婚活を始め、6年間あらゆる婚活パーティを始めとした出会いの場に足を運び、たくさんのデートと告白を重ね、とうとう27歳で目的を達成することができた。

 そして、そんな経験から得られた彼女独自の婚活メソッドと数々の失敗談が詰まった『追い込み婚のすべて』(光文社)が発売。本記事では、その出版を記念して彼女にお話を伺った。

 なぜ彼女はそこまでして「結婚」に憧れ、多くの失敗を重ねながらも諦めず、夢を実現するためにひたむきに走ることができたのか。そこには、彼女のコンプレックスからくる“他人の人生”への憧れがあり、それはネタの着想に通じるものでもあった。

■手っ取り早く結婚したいなら量産型の「婚活パーティ」

――横澤さんの婚活本を読んでいたら「婚活って楽しそうだな、やってみたいかも」と思うようになりました。

横澤夏子さん(以下、横澤) そう思っていただけたなら嬉しいです! 婚活って疲れるイメージが強いと思うんですけど、私自身は終わってみて「あ、楽しかったな」って思えたので。お習い事をやってみるくらいの軽い気持ちで楽しんでほしいな、って。

――それにしても21歳からって、なかなか早いスタートダッシュですよね。

横澤 ですよね。当時言われた、とあるお姉さんからの「可愛くないんだから早く動きなさい」っていう言葉が大きかったんですよね。それまでは「出会いがない」って嘆くだけだったんですけど、それってけっきょくサボりだったり、上から目線だったりするんですよね。わざわざ自分から探しにいかなくても言い寄られる、ということが前提の女の言葉なんですよ。それに気づいたら恥ずかしくなっちゃって。

――書籍は、婚活パーティの話がメインで描かれていますが、最近は出会いの手段って色々ありますよね。他のサービスは使わなかったんですか。

横澤 いや、マッチングアプリ、街コン、相席居酒屋、婚活居酒屋、とか色々やりましたよ。ただ、その中で婚活パーティは「量産型」という点でずば抜けていたので良かったんです。

――量産型……?

横澤 要は手っ取り早く多くの人とつながれるんですよ。合コンみたいな少数の集まりだと、人数合わせで恋人がいる男性がきたり、友達のいる手前ちょっと演じてしまう部分があったりしますよね。でも婚活パーティって、参加者がみんな結婚を前提に考えている上に、ある程度のお金を払ってきているから、無駄にしたくないって気持ちがあるんですよ。だから他の出会いの場よりも前向きだし積極的でいいな、って。

――連絡先を交換することを「(パーティの参加費の)元を取る」という言い方をしていて笑ってしまいました。

横澤 そうそう、連絡先にもひとつひとつ脳内で値段をつけていて。参加費分の元をとれるようにたくさんの人と交換する。

――値段をつける基準はあったんですか。

横澤 その人がどんな飲み会を開くか、という点ですね。正直、当の本人よりも、彼の周辺にどういう人たちがいるかの方が大切なんですよ。彼と何も起こらなくても、彼の開催する飲み会でいい出会いがあるかもしれない。だから「品川のサラリーマンがくるのか。じゃあちょっと高めに1000円にしておこう」みたいに値付けしてました。彼よりも、彼のその先にどれだけたくさんの候補者がいるか、というところが大切。

――一本釣りじゃなくて、地引網という感じですね。

横澤 そうそう、網をガッと入れてたくさん取る。

――ちなみに横澤さん的に婚活パーティが圧倒的に良かったとして、婚活にオススメな出会いの手段はほかにありましたか。

横澤 1位が婚活パーティだとしたら、2位が街コン。連絡先をたくさん交換できるので。3位は「婚活パーティで知り合った女性が開くパーティ」ですね。婚活パーティにくる女性って、けっこう自分でもパーティを開いている人が多いんですよ。

――婚活パーティにいる女性って、ライバルじゃないですか。仲良くなれるものですか。

横澤 なれますなれます。合言葉は「え、今日のパーティ、クソじゃないですか?」です。そこで意気投合して、パーティのあとに女同士で飲みに行ったりするんです。だから連絡先交換は、男性だけじゃなくて女性ともしておくのが大事ですよ。


■理想のタイプを絞るためには直接アタックしていくこと

――ちょっとここで、横澤さんが書籍内で書いていた、婚活を始めたばかりのときの理想のタイプを引用していいですか?

「185センチ以上で、区役所に勤めていて、昔からの飲み友達が3人以上いて、俳優の田中圭さんに似ていて、私を確実に幸せにしてくれて、お金をかけない趣味を持っていて、私よりよく食べて、ユニクロをユニクロっぽくなくおしゃれに着こなし、私の27センチの足より大きな足を持っていて……」(p15)

 ここから「関東近郊出身の次男坊」まで理想を削ぎ落せたのってすごいと思うんですが、これは一体どうやって絞っていったんですか。

横澤 とにかくあらゆるタイトルの婚活パーティに行ったんですよ。たとえば「身長180cm以上の男性限定パーティ」とか。そこに行けば、勝手にベルトコンベア式に180cm以上の男性が目の前に現れるんです。

 理想の人なわけだから最初は「格好いい!」って思いますよね。でも、実際に喋ってみると、そんなに楽しくなかったりする。そこで私が180cm以上の男性にこだわっていた理由って、たとえばデートで二人で並んでいるときの見栄えとか、そういう部分だけだったんだなあって気づくんです。

――実際に理想のタイプの相手と会うことで、思っていたほど良くなかった、というのがわかる、と。

横澤 同様に、公務員限定パーティとか、自分の理想のタイプが現れそうなパーティにたくさん行って、連絡を取り合ったりデートを重ねたりしていくうちに、「顔は格好いいけど私のことを気遣ってくれないな」とか「一緒にいるとずっと私がへりくだる感じになって気持ちが安らがないな」とか気づくんですよね。そうやって少しずついらないカードを切っていった結果、気さくに飲める相手が一番だなあ、みたいなところに落ち着いて。

――頭で思い描いていた理想を、現実の中で確かめていく作業なんですね。

横澤 やっぱり実際に会って温度感を確かめるって大切です。あと、そうじゃないと諦めがつかないというのもあります。最終的に「私はこういう人が良くて彼を選んだの」って言いたかったんですよ。「180cmの男性も公務員の男性も全員味わって通り越したの」って言いたい。まあ、全然味わったうちには入らないと思うんですけど、自分への言い訳にはなりますよね。

――確かに自分で行動して確かめて……という経験をふめば気持ちの整理もつきやすいですね。

横澤 やっぱり、行動しないと気づかないんですよ。私、婚活を始めたばかりのときに、妥協して告白した相手にもフられたりして心が折れそうな時期があったんです。でも、その経験があったから「私はこんな人にも振り向いてもらえないほどのゴミクズなんだ」って身をもって知ったし、だからこそ「ゴミクズなりにいい人に出会いたい」ってゴミ箱から這い出る気力も湧きましたし(笑)。


■とにかく“他人の人生”が羨ましい

――書籍を読んだり、いままでのお話を聞いたりしていて、ずっと疑問に思っていたのですが。横澤さんはなぜそこまで結婚に対して熱心だったんですか? 本には「地元の同窓会で負けた気分になるから」という話がありましたが、いまは東京で芸人としても活躍していて、地元の体裁だけでそこまで情熱が維持できるのだろうか?というのがちょっと不思議で。

横澤 地元の友達とはそれなりの頻度で会ってますし、離れていてもFacebookとかInstagramでわかっちゃう時代ですからね。それに、地元を離れて東京で芸人をしていると、帰郷したときに良くも悪くも話が通じなくなっちゃってる。

「夏子は最近どうなの?」って聞かれても「ああまだ芸人やってるんだ」で終わり。彼女たちは結婚して出産して社会復帰して、みたいな人生を送っていて、私だけが「高卒で芸人」というコマでずっと止まっているような感じがあったんです。

――ただ「芸人」という仕事の中にも様々なステップアップはありますよね。それこそ横澤さんはテレビでもたくさんお見かけしますし……。

横澤 そう、自分としては憧れの番組に出られたりとかはしてるんですけど、それは地元の友達にとっては何の切り札でもないんですよ。みんな会社の中で出世したり転職したりしていて、人生すごろくを順調に進んでいる感じがある。別に私は、結婚しないこと自体を負け組だとは思っていないし、結婚をふりかざす友達も周りにはいないんです。ただ私自身が、とにかく「同い年コンプレックス」が強くて。

――「同い年コンプレックス」ですか。

横澤 90年生まれでいま28歳の人がどういう人生を送っているのか、勝手に競っちゃうんですよ。たとえば、ゆりやんレトリィバァって同い年なんですけど、芸人として尊敬したり悔しく思ったりするところもある一方で、彼女の「大学卒」というところですごく羨ましくなっちゃう。高卒で芸人してる私よりも、大学に行っている分、人生の濃密度が違う気がして。

――なるほど。

横澤 28歳でどれだけの経験を積んだか、というところで競っちゃうんですよ。地元の友達はみんな同い年だから、「転職した」って聞くと、「転職するっていうエネルギーを味わったんだ! 羨ましい~!」ってなっちゃう。芸人でこの賞をとったとか、じゃなくて、人生の濃密度の方が私にとっては大きくて。だからたくさんアルバイトとかお習い事をやってみたりしたんですよね。そのうちのひとつが結婚だった、という感じです。

――“芸人として賞レースに勝つ”とか、“結婚して勝ち組になる”みたいな外部からの評価というよりも、“自分の人生の濃密度を上げたい”という欲求が横澤さんの中では一番強いということですか。

横澤 とにかく他人が羨ましくなっちゃうんですよ。たとえばOLの友達に夜電話して「いま何してるの?」って聞いたら、「仕事から帰ってご飯作ってお風呂入って、やることないから雑誌読んでる」って返ってきて「めっちゃいい人生じゃん!」ってなる。そういうのすら羨ましくなっちゃう。

――いやいや、平凡で退屈な夜じゃないですか。

横澤 いや、「“なんにもない夜”めっちゃいい。私も味わってみたい」ってなるんですよ。

――暇なOLと結婚生活は全くの別物ですよね。横澤さんは、ひとつの理想の人生があるというよりは、いろんな人生パターンを経験したいという感覚なのでしょうか。

横澤 そうですそうです、いろんな人の人生を味わってみたい。だからネタとかも、嫌な人たちではなくて、憧れの人たちだったりするんですよ。

――え、完全に皮肉ってるのかと思っていました。お子さんのいる主婦がママチャリで走るネタとか好きなんですけど、あのリアリティも、じゃあ皮肉とかではなくて……

横澤 完全なる憧れです。3人の子どもをママチャリに乗せたい。たとえば「恋愛しばらくお休みします」っていう女性も、恋愛をたくさんしてきたからこそ言える言葉じゃないですか。え、私も恋愛をたくさん経験して、「恋愛しばらくお休みします」宣言したい、みたいな。そうやって強く願っていることがネタになっているんです。


■婚活アプリもマッチングアプリも「知人の紹介」のようなもの

――人生の濃密度が大切だというお話でしたが、横澤さんは量産型の婚活パーティでかなり合理的に結婚までコマを進めましたよね。「大恋愛」みたいなものには興味がなかったんですか?

横澤 ありましたよ、ロマンチックな恋愛。毎朝同じ電車に乗ってて……みたいな。でも、そこはやっぱり条件として削がないと、いつまでたっても「出会いがないな~」で終わっちゃいますから。それに、私、大恋愛してるんですよ。

――いまの旦那さんと、ということですか。

横澤 というか、そもそも惚れっぽいので、出会った人たちには積極的にいくんですけど、それも好きだからこその表れというか。婚活パーティで知り合ったかもしれないけど、それって単なる出会いの場のひとつにすぎなくて、そのあとはけっきょくみんなちゃんと恋愛して関係が発展していくんです。

 正直当初は、結婚式の式辞とかで「婚活パーティで知り合いました」なんて絶対に言われたくないって思ってました。でも、よく考えたら、みんなだいたい知人の紹介とかで付き合うわけじゃないですか。マッチングアプリも婚活パーティも、場を提供されているだけで、やっているのは人なわけです。だったらこれも「知人の紹介」みたいなもんじゃない?って気づいて。別に結婚式でも「知人の紹介で」って言えばいいだけだし、司会者の人にそんなに詳しく説明する必要もないですしね。

■「人生の墓場」から見える景色も面白そうじゃないですか?


――結婚って多くの人が憧れるものである一方で、「人生の墓場」みたいな言われ方もしますよね。横澤さんはそういった不安みたいなものは一切なかったのですか?

横澤 いや、「人生の墓場」自体もうすでに面白くないですか? 「え、墓場に入ったら何が見えるの?」みたいな。地元の友達もよく旦那の愚痴とかを話したりはしてましたけど、そういうのもネタとして話せるんだ、いいなあ、って。

――本当に他人のことがなんでも羨ましくなっちゃうんですね(笑)。実際、結婚生活はどうですか。

横澤 思い描いていた理想の結婚生活とは程遠いですけど、これはこれで楽しいなって思ってます。本当はエプロンつけて包丁のトントンっていう音で起こして……とか思ってたけど、けっきょく毎朝ギリギリまで寝る生活だし。

――横澤さん、本の中で旦那さんのことを「ちょうど面白くない人」って評価してたじゃないですか。ちょうど面白くない人と生活するのって楽しいのかなって疑問だったんですが。

横澤 超楽しいですよ! 私、ちょうど面白くない人がツボに入るタイプみたいで。あと、そういう相手なら私自身もちょうど面白くない話ができるじゃないですか。普段周りに芸人さんがたくさんいて、常に面白いこと言わなきゃみたいなプレッシャーもあったりするので、そういう意味では気が楽ですよね。だらだら喋っていいんだ、って気負わなくなる。

――心安らぐ家族というのはいいですね。

横澤 そうですね、あとは、飲み仲間が一人増えたって感じがすごく嬉しいです。共働きなので普段時間はなかなか合わないんですけど、それはそれで自分の時間として楽しみながら、夜は一緒にご飯食べたりして。約束しなくても飲める仲間が家にいる、ってすごくいいじゃないですか。ああそっか、ご飯の相手探さなくていいんだ、みたいな。

――楽しく飲める相手がいつも家にいるというのはいいですね…。ちなみに、今回結婚という憧れのコマをひとつ進んだわけですが、次に人生の濃密度を上げるためにしたいことはなんですか?

横澤 やっぱり、本当の我が子をママチャリに乗せたいですね。ずっと人形だったので。いままでやっていたネタは憧れだった分、表面的で薄っぺらかったので、これが本当のママになったらもっとネタに厚みが出るかもしれない。

――普段の暮らしも充実させながら、それがネタに還元されていくのはいいですね。

横澤 そうですね、自給自足という感じで。でも、生身の子どもでやったら、あんなにうまくいかないんだろうな(笑)。

取材・文=園田菜々 撮影=中惠美子