サイコな女はあなたの隣に? 岩井志麻子が語る「あの女」の恐怖

新刊著者インタビュー

更新日:2013/8/9

つきまとう生霊、断ち切れぬ縁

『あの女』に収録されたエピソードの数々、実はこれ、MF文庫ダ・ヴィンチから出ている『怪談実話系』シリーズに書き下ろしで寄稿されたものだ。
 そう、元々は「怪談」としてスタートしていたのである。

「あの女に辞めてもらって、しばらく経ってからのことでした。妙な気配を感じるようになったのは」

 生霊。女は、そう呼ばれるモノになって、岩井さんの周囲に現われ始めたのだ。時には寝室に、時にはテレビの生放送の最中に。まるで、自分の存在を忘れさせまいとするがごとく、女の気配は岩井さんにつきまとった。

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 そして、岩井さんはそれを『怪談実話系』に書き続けた。
「最初は一本だけの予定だったのに、結局は2巻から7巻まで、ずっと“あの女”の話ばかりを書くことになりました。正直、あの女に書かされているような気がしてならんのです。とにかく自己顕示欲の強い女ですから」

 巻を追うごとに増していく異常性と恐怖。そして、それは今なお進行中だ。
「つい先日も、こんなことがあったばかりなんですよ。
 夜中、リビングで仕事をしていたら、突然、息子の部屋からすごい唸り声が聞こえてきた。何事かと思いそちらを見たら、急にバーンとドアが開き、息子がヨタヨタしながら出てきて、『母ちゃん! 俺、あの女に襲われた!』って言うんですよ。

 息子いわく、部屋で寝ていたら急にズン、と誰かが上に乗ってきた感触がしたそうなんですね。そして、金縛りになった。意識ははっきりしているのに体がまったく動かず、声もでない。すると、上に乗っている何かが、両手両足を抑えてきたそうなんです。さらにその上、耳に指を入れてグリグリと回すんですって。

 だけど、気配は間違いなく女。それも一人だけ。手足の数は合わないけど、感覚でわかったそうです。あまりの気持ち悪さに『どうしよう』と思っていたら、今度はサワサワっと金玉を触ってきた。おまけに、その手がどんどん前のほうに迫ってくる。息子は、金玉はさておき、それより前をいじられたら本当にヤバイと思って、死にものぐるいで体を動かそうとしたそうです。そうしたら、なんとか呻き声が出た。体も少し動いた。すると、上に乗っていた奴はパッとベッドから降りて、ササササッとドアのほうに消えていった。
 そのシルエットが、間違いなく“あの女”だった、と」

 ご子息も、スタッフ時代のあの女にはひどい目にあっている。見間違えることはないだろう。

「息子は、もうとても部屋で寝る気にならないと、リビングの明かりを煌々とつけてDVDを見始めました。でも、私は翌日の仕事があるので『お前と生霊に付き合ってもおられんわ』と言い残して寝室に引っ込んだんです。ただ、次は私のところに来るんじゃないかという不安はありました。
でも、とにかく横になって、しばらくしたら眠気がきた。そのまま眠れるかと安心したんですが、ふと背後に女の気配がするのに気づきました。やっぱり来たか。最初はそう思ったんです。ところが、何かが違う。後ろの気配は、私より小柄でした。でも、“あの女”は私より大きい。つまり、何かわからんものが来ているんですよ。私は、それに気づいたことに気づかれてはならないと思って、とにかく必死になって寝ているふりを続けました。それが功を奏して、しばらくしたら気配は消えたのですが……」

 元々、岩井さんに霊感的なものは一切なかったという。ところが、あの女の生霊をきっかけに、この世ならぬものを感じるようになってしまったそうなのだ。

「まったく、何なんでしょうね。私はそんなもの、感じたくもないのに」

 切っても切れぬあの女との縁。それは、岩井さんを新たな世界に誘い込みつつある。
 

どこにでもいる“あの女”の恐ろしさ

 岩井さんがあの女に三行半を突きつけて数年。だが、彼女にまつわる話は一向になくならない。今も増殖し続けている。
 だからこそ、某女性芸人の洗脳騒動はとても他人事とは思えなかったという。

「実は今、“あの女”は占い師をやっているんです。そのせいか、周囲の人達が『例の女芸人さんを洗脳した占い師は岩井さんの元スタッフじゃないのか』と騒ぎ始めて。『怪談実話系』では女芸人の体験談として書いていたので、それも噂の発生源になったのかもしれませんが、ネット上ではそれが真実であるかのごとく広まってしまいました」

 噂のせいで、マスコミにしつこくコメントを求められるなどして辟易したという岩井さん。だが、一連の報道を見て、こうも感じたという。

「つまるところ、人を巧みに信用させて操ろうとする人間も、それに騙されてしまう人間も、昔から連綿と存在しているのでしょう。ワイドショーなどを見ていたら、とても現代的な事件に感じるかもしれませんが、実際には五十年前、百年前、それどころか千年前でも同じようなケースはあったはずです。卑弥呼だって占い師ですからね(笑)。だいたい、『あなたは人が良くていつも損ばかりしているわね』と『あなたは今転換期にありますね』が占い師の殺し文句で、こう言っておけばほとんどの人は当たっていると思うわけです。占い師でなくとも、人をどうこうしようとする人間はその手の言葉を巧みに使う。あの女も、あの女にたぶらかされる人間も、いつの時代のどの場所にでもいるんじゃないですかね」

 決して特別ではないあの女。次に狙われるのはあなたかもしれない。いや、もしかしたら、自分が“あの女”になる可能性だって……。

(取材・文=門賀美央子 写真=首藤幹夫)

紙『あの女』

岩井志麻子 / メディアファクトリーMF文庫ダ・ヴィンチ / 税込550円(本体524円)

「あの女が、私に書かせているんですよ」——知らないうちに張られていた罠に嵌まり、“あの女”をスタッフとしてやとった岩井志麻子。それは業と怨念にまみれた女との切っても切れぬ縁の始まりだった。「怪談実話系」シリーズで人気を博す虚言女との恐怖の実話エピソードの数々に、渾身の書き下ろし百枚超を追加しての単著文庫化。