再会し抱き合った恋人はすでに腐乱死体だった…。“無戸籍”だった母と息子をつなぐものとは/『忌まわ昔』“人妻、死にて後に、本(もと)の形となりて旧夫に会ひし語”⑤
平安の世から令和の今に、遠く忌まわしき話の数々が甦る。「今は昔」で始まり、「となむ語り伝へたるとや」で終わる「今昔物語集」。これを下敷きに、人間に巣くう欲望の闇を実際の事件・出来事を題材に岩井志麻子が語り直す。時代が変わっても人間の愚かさは変わらない――。収録された10篇の中から、壮絶な人生を送った女の話を5回連載で紹介します。
『忌まわ昔』(岩井志麻子/KADOKAWA)
いろんな女と暮らした。でも、結婚しようとなったのはあの子だけだ。あの子も、俺ほどじゃないけど恵まれない家庭環境で、親兄弟との縁も薄かった。 あの子はパチンコ店に住み込みで働いていて、俺も内勤スタッフに雇われた。同僚達は互いの仕事や過去を詮索もしないし、問題にするわけはない。 そんな二人で、一緒に暮らしてみることになった。しばらくは、本当に楽しく満ち足りていた。幸せな家庭ってのは平凡な家庭ってことなんだなと、しみじみ感じた。 だけど、なんだろう。俺を生み出した奴らのせいにする気はないから、変な血が騒いだといってしまおう。 店に営業で来た芸人が呼んでくれた合コンに、けっ…