岡崎京子のマンガ『チワワちゃん』が衝撃の実写映画化! チワワを演じた女優・吉田志織インタビュー

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更新日:2019/1/18

 いつも一緒に遊んでいたチワワちゃんとの再会は、テレビのなか。バラバラ殺人事件の被害者としてだった――。1月18日に公開された映画『チワワちゃん』。かわいくて、いつも笑顔で、誰からも好かれる人気者だったチワワ。けれど仲間の誰も本名さえ知らなかったチワワ。彼女はいったい、どんな女の子だったのか。岡崎京子の同名マンガを実写化した本作、キーパーソンとなるチワワを演じ、映画とコラボしたビジュアルブックが発売されたばかりの吉田志織さんにお話をうかがった。

■「人はけっきょく、見たいようにしか現実を見ない」 
純粋すぎるチワワを通じて、感じたこと

――もともと岡崎さんのマンガはお好きだったんですよね。

吉田志織(以下、吉田) そうなんです。「チワワちゃん」も、もちろん読んでいて。だから2017年の12月にオーディションの話を聞かされたときは嬉しかった。受かるかどうかはわからないけど、私以外の誰がやるんだって気持ちで臨みました。

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――そして見事、勝ちとったと。岡崎さんのマンガのどういうところが好きなんですか?

吉田 憧れと共感がつまっているんですよ。出てくる女の子たちはみんな、ちょっと強気で、言いたいことを言ってくれる。ふだん、なんとなく感じていたけど言葉にできなかったことを、ちょっとしたセリフで的確に表現してくれるので、そうそう、そうなの! って掴まれちゃうんです。性的な描写にはどこか儚さもあって、そういうところも好きですね。チワワちゃんにも、憧れていました。やりたいと思ったことはすぐ行動に移す彼女はいつも他を圧倒するパワーを放っていて、でもそれは計算ではなくどんなときもナチュラルで。最終的には悲惨な殺され方をしちゃうんだけど、その生きざまにすごく惹かれました。

――ビジュアルブックを読むと、吉田さんもけっこう行動的ですよね。北海道にいた10代のころ、突然、「あした上京しよう!」と決めて実行したとか。

吉田 あのころの私は確かに、チワワちゃんに少し似ているところがあったと思います。後先考えない、無鉄砲なところが。でもそれって、何も知らないからできたことなんです。東京に行ったこともなく、自分のちっぽけさを知る機会もなく、自分は無敵だと根拠なく信じていられた。だけど上京して、女優のお仕事を始めてみたら、演技のうまい同世代の役者さんがたくさんいるなかで自分だけが何もできない。力量がないことを思い知らされました。そうすると簡単に、チワワのように「ビッグになってやる!」なんて言えないですよね。その感覚を経てしまった今の私が、純真無垢にキラキラしているチワワを演じるのはけっこう難しかったです。北海道にいたころの私の方がきっと「わかる、わかる~!」ってチワワに共感してあげられただろうなって。

――どんなふうに、その難しさを乗り越えたんですか。

吉田 とりあえず、思ったままに感じたままに行動するようにしました。少しでも「いやだ」って思ったら考える前にその感情を出す。嬉しいときは、全力で喜ぶ。プライベートでもそうしていたので、友達には迷惑かけちゃったと思います(笑)。でもおかげで、あのころの純真さに似た感覚を得られたような気がします。あとは監督と話し合いながら役を作っていきました。私は最初、チワワって何も考えていない子なのかと思っていたんですけど、そんなことはないよと言われて。たとえばクラブで600万円を盗むシーンがありますけど……。

――政治家の裏金が入ったバッグを奪って、走って逃げるところですね。かなりアクション性の高い芝居でした。

吉田 チワワは基本薄着だし、アクションが多いので、気づいたら次の日痣だらけだったってこともしょっちゅうでした(笑)。チワワがあれだけ必死になって逃げたのは、彼氏であるヨシダくん(成田凌)に「俺の彼女、すげえじゃん」って思われたかったから。ヨシダくんはカッコいいし、あのシーンは初めて仲間に紹介してもらった直後だから、優越感とともに存在感を示したい気持ちが彼女の中にもあった。天真爛漫に見えて、意外と人からの評価というか、ちやほやされたい、求められたいという欲求の強い子なんだということが監督と話していてわかったので、そこは意識して演じるようにしていました。

――吉田の次につきあうカメラマンのサカタ(浅野忠信)に「私のこと好き?」「ほんとにほんとに好き?」と何度も聞く場面がありましたよね。あんなにみんなから愛されているのに、満たされない淋しさみたいなものを感じました。

吉田 サカタがどんなに好きとか愛しているとか言っても、その声や表情からチワワは愛情を実感できなかったんですよね。端から見れば2人はお似合いで、サカタもチワワを大事にしていたかもしれないけれど、チワワがそうと感じていなかったら意味がない。恋愛……というか人間関係って、主観で成り立っているから。人って、けっきょく見たいようにしか現実を見ないんだな、真実がどうかなんて関係ないんだな、というのはチワワを通じて感じたことではありました。

■誰よりも生きる力が強かったぶん、消費するものも大きかったチワワちゃん

――仲間のひとり・ミキの真似をしてインスタを始めたチワワは、しだいに注目を集めるようになってモデルデビュー。人生の絶頂を迎えますが、どんどん人気も落ちていき、仲間たちとも連絡がとれなくなってしまいます。

吉田 自分が何を求めているのか、チワワ自身もわかってなかったんじゃないかなと思うんですよね。逆に、ゴールを決めていなかったからこそ、あれだけ無鉄砲に生きられた。そんななかで、さっきも言ったように彼女は、誰かに必要とされたい、愛されたいという気持ちが人一倍強かったから、そのつどまわりにいる人たちの期待に応え続けちゃったんじゃないかと思うんです。やがてAV女優になったのも、必要とされてそこが自分の居場所だと思ったからじゃないのかな。いきなり絶頂期を迎えてしまったからこそ転落の落差にも耐えられなかった。弱っているとき言葉巧みに淋しさを埋めてくれる人がいたら、それに従ってしまうのもわかる気はします。

――どこが分岐点だったと思いますか? どうすれば彼女は、殺されずに済んだのか……。

吉田 演じているときは考えないようにしていたけど、今は……そうですねえ。どうしたってこうなってしまったんじゃないか、という気はします。本人はそのつもりがなくても、彼女が生き急いでいたことは確かだし、淋しさとか欲望とか愛情とか、いろんな感情をごちゃまぜにして発散していた彼女のパワーは、やっぱり誰よりも突出して強かった。そのぶん、消費するものの多さも速度も誰より上回っていたんじゃないのかな。ただ、しいていえば、男を見る目がないというのはあると思います。

――彼氏のヨシダもずいぶんとひどい男でしたね。チワワの前で、別の女とキスをしていたり。

吉田 チワワが死んだあとのラストも、客観的に見れば最悪ですよね(笑)。でも、私がもしチワワだったら……明確にやりたいこともなく、クラブでただなんとなく遊ぶ日々のなかで「お前だけはなんか違う」って言われたとしたら。けっきょく誰に対しても同じことを言ってるわけだけど、チワワはそれを知らないし、見た目はカッコいいし、なんだこいつって思いながらもぽうっとなっちゃう気持ちはわかる。いざ深く関わるようになっていくと、大事にされてる感覚を味わえない。優しいのはやりたいときだけなんじゃないか、本当は好きじゃないんじゃないか……と傷つく一方で、ヨシダくんはロマンチックにプレゼントしてくれたりもする。愛情表現がただ不器用なだけなんじゃないか、と思わされてしまうから、けっきょく振り回されてしまうんですよ。

――ヨシダにスポットライトをあてたら、彼なりの淋しさや満たされない欲望みたいなものが浮かび上がってくる気はしますね。

吉田 チワワを中心に描かれてはいるけれど、ミキもヨシダくんも含めて仲間たち全員のそれぞれ心の闇というか、若さゆえの苦悩が描かれている映画だと思います。絶対に敵わない相手が目の前に立ちはだかったときの劣等感や悔しさ。未来が見えないことへの葛藤。ミキは語り手でもあるからわりと明確に描かれていますけど、それ以外の仲間たちも、はっきりと語られずとも感じる瞬間はたくさんありました。

■選択肢をたくさん増やして自立することが自分を幸せにする強さに繋がる

――そういうふとした心の穴、みたいなものは誰しも抱えているものだと思います。とくに何者にもなれない10代のころは、焦りとともに。

吉田 チワワの生きるパワーは強かったけど、強い子ではなかった。まわりを振り回す一方で、自分自身も振り回されて。好きだよと言われるとすぐ信じちゃって、その人のために献身的に尽くしもする。何事にも一直線だから、生活のすべてが恋人一色になる。でも、それじゃだめなんだろうな、って。好きな人はもちろん大事にしなくちゃいけないけれど、その前にまずは自分を大事にしなくちゃいけない。今は女の子が強くあれる時代なんだから、男に振り回されていないで、逆に転がすつもりでいかないと! ……ていうのが、私の夢です。そういう奥さんになりたい(笑)。

――そのための強さって、どうしたら身につくと思いますか。

吉田 う~ん。まあ、振り回されるのが好きって子もいるから何とも言えないですけど……でも、やっぱり自立することが大事じゃないかな。好きなことをたくさん見つけて、彼氏だけに依存しないようにする。好きな音楽を聴いたり、読書したり、夢を叶えるために勉強したり。生活のなかにたくさん選択肢があるなかの、その一つが彼氏に会うこと、だったらとても素敵だと思います。

――ビジュアルブックでも、夢をたくさん持つようにしているとおっしゃっていましたね。

吉田 これしかないって思いこんじゃうと、叶わなかったときにどうにもならなくなっちゃうじゃないですか。あれもこれもって欲張りだと思われるかもしれないけど、私が生きて私が死ぬのにどうしようと勝手というか(笑)。でもね、私自身、上京したばかりのころは毎週末、マネージャーに泣きながら電話してたんですよ。頭が仕事のことばかりになって、できない自分に追い詰められていたんです。だけど、音楽を聴いたり読書したり、友達と会って意識的に笑う時間をつくったり……そうするうちに、気持ちが切り替えられるようになっていった。笑うって、けっこうストレス発散になるんですよ。あと、むりやりにでも体を動かすこと。どこにも行けないような気分のときは、引きこもっているより、何かをした方がいい。外に出たくないなら、本を読んだり、音楽を聴いたり。落ち込むのも無意味な時間ではないと思うけど、長く続きすぎると抜け出せなくなるから、「今日だけはとことん落ちよう! あしたはいっぱい寝て回復しよう!」って決めたりして、私は立ち直るようにしています。あ、友達の犬と遊ぶことも多いです。それはチワワじゃなくてトイプーですけど(笑)。

――ちなみに『ダ・ヴィンチ』は本の雑誌なんですが、どんな本を読むことが多いですか?

吉田 山内マリコさんが好きです。『ここは退屈迎えに来て』をタイトルに惹かれて読んだら、ハマってしまって。最近はナボコフの『ロリータ』を読みました。ジャンルというより、ジャケ買いが多いですね。そうして自分の頭のなか以外の世界に触れると、元気がもらえるし、自分の幅も広がっていく気がする。今後はシリアスなお芝居もしてみたいし、できるだけ柔軟性のある女優さんになりたいので、いろんなものを吸収しながら挑戦していきたいです。

取材・文=立花もも 撮影=岡村大輔