阿川佐和子さん「結婚しない十得」も考えた。「結婚はいいわよ!」と言ったら、みんなカチンとくるよ(笑)

文芸・カルチャー

2019/2/18

©清水朝子

 エッセイスト、作家、インタビュアー、女優と様々なジャンルで活躍される阿川佐和子さん。このたび『婦人公論』に2016年から連載中のエッセイ「見上げれば三日月」から、よりすぐった42編をまとめた『いい女、ふだんブッ散らかしており』(中央公論新社)を上梓されました。文章から滲み出すユーモア、失敗をあっけらかんと笑い飛ばすなど、人生を軽やかに生きる阿川さんに楽しく生きるコツを伺いました。

■私は「短期悲観主義」で「長期楽観主義」

――2015年、お父様で作家の阿川弘之さんが亡くなり、ご高齢のお母様の介護が始まる、さらに2017年にはご結婚されるなど、エッセイ連載中のここ数年、いろいろと変化がありましたね。

阿川佐和子氏(以下、阿川) 私自身はあまり変わってないつもりですけど、勤めている先がずーっと同じ場所で、同じ人間関係で、ということがないんです。その都度、人間関係も自ずと変わっていくし、仕事内容も変わっていくから、ある意味で新鮮なことを繰り返し、時間に追われることも毎回それなりに繰り返してるから、忙しさとか「ああ、どうしよう」と慌てふためく全体の姿は結局変わってないのかなと。

「今年は特に忙しいな」って毎年言っているような気がします(笑)。そういう意味では変わってないんですけど、プライベートの設定環境が変わったっていうのかな。私の中に意識はないですが、周りの見る目のほうが変わったんじゃないかと。「やっと落ち着いたのね、あのおばさん」という感じとか。

――結婚してみていかがですか。「いいものだな」なんて感じていらっしゃいます?

阿川 私は長らく結婚してませんでしたからね、「結婚がいいか?」って言われたってさ!(笑)する人としない人、さらに子どもに恵まれた人、恵まれない人とそれぞれの人生があるわけで、どちらがより幸せかなんて決められないでしょう。私はグズグズしている内に子供を産むチャンスを逃してしまったけれど、「産んだほうがいいわよ」って言われるとカチンとくるじゃない? 長らくしなかったくせに、した途端に「結婚はいいわよ!」と言ったら、みんなカチンとくるよ(笑)。

 だから私は自由だと思いますし、今の時代は昔と比べると「嫁に行く」ってことは「相手先に嫁ぐ」ってこととは違ってきてますからね。たまたま私はそういう形になって良かったと思ってますし、失敗したとは思っていません。でもそうじゃない幸せもあるわけで、結婚しない人や子どもがいない人がすべて不幸になったりするのはありえない!

 私は以前「結婚しない十得」を考えたことがあるんですよ。「裸で家にいても驚かれない」「部屋を片付けなくても怒られない」「面倒臭かったら晩御飯を作らなくても文句を言われない」とかね。自分がどういうふうに捉えるかによって、変わってくるものですよ。

――阿川さんは失敗したことをエッセイに書くなど、物事を前向きに捉えていらっしゃいますけど、どうしたらそうなれるんでしょう?

阿川 別にそんなに「ポジティブ人間になろう」と思ってるわけじゃないですけどね。私は「短期悲観主義」で「長期楽観主義」なんですよ。その場その場で起こったことは「あーっ、もう嫌だ! どうしよう!」って泣いたりわめいたり怒ったりするんだけど、総じて考えるとなんとかなってきた。ひどいことやご迷惑もおかけしましたけども(笑)。

 普通は大坂なおみ選手みたいに、すぐにポジティブに切り替えるなんてなかなかできないですよ。落ち込んだら、まあ2日間くらいね、「もうやめようこの仕事、どうせ私はダメですよ、プン!」なんてひがんでるんですけど……寝ると直ります。

■圧力鍋の蓋がぶっ飛んだ?

――本書に掲載されている「悲観のとなり」と題した回では、お父様をなんでも悪いほうへと考える「ネガティブオーラじいさん」などと表現されています。

阿川 「俺が交差点にさしかかると運命的に(信号が)赤になる」って……どうかと思うでしょ?(笑) 父が亡くなった時、脚本家の倉本聰さんからお電話があったんです。昔、父の原作でドラマを書いてくださったことが縁で仲良くなって、私も中学生くらいから倉本さんを存じ上げているんですが、「いやぁ佐和子ちゃん、あんたさ、なんかあれだね、圧力鍋の蓋がぶっ飛んだみたいな感じだね」って言われて。「はい?」って聞き返したら、「うるさい父親がいなくなって、さあこれから自由に生きていくぞ!っていう勢いがすごいよ」って言われちゃって。言われてみたら確かにそうかなって。やっぱり蓋は重かった(笑)。

――阿川さんにとってお父様は怖い存在だったんですよね。

阿川 私がテレビに出る仕事を、ほとんど父は見てませんでしたけど、どこかで「見てないといいな」という意識はあったし、文章はときどき父のチェックを受けていましたが、それとは別に、年配の編集者の方からは「お父様はお読みになったんですか?」「どう思われるでしょうね?」みたいな「嫌味か!」ということをよく言われてました(笑)。しかも私は図に乗りやすいタイプだから、「図に乗ってると父からゲンコツ飛んでくるだろうな」っていう意識は60歳過ぎてもまだありましたからね。

 でも、どこかで重石というか、この人が見ているから、と緊張しなくちゃいけない存在があるのって大事ではないかなと。うるさく言う人がいる間は、どっかで「締めなきゃいけない」って思えますしね。それは宗教も同じだと思うんですよ、神様が見ているだろうとか、守ってくださるだろうとか。もちろんご先祖様でもいいですしね。そういうことを自分の指針として持っていると、人を謙虚にさせたり、反省させたりするんだと思うんです。だから蓋はぶっ飛んじゃいけないし、「もう私、誰にも怒られない!」みたいになったらマズイな、と思ってます。今のアガワは要注意です。でも……ちょっと飛んだかな?(笑)

――意見を言ってくれる人に謙虚になったり、反省したりした経験、阿川さんはどうでした?

阿川 『筑紫哲也 NEWS23』で番組後半のアシスタントをやっていた時に、瀬戸内寂聴さんにお話を聞くため、筑紫さんと寂庵へ伺ったんです。でも当時の私は、メインを張ってるという意識もないし、報道マンでもない、筑紫さんのとなりに座って「やれ」って言われたことをやってればいいんだ、っていう気持ちでいたの。自分には大して能力もないし、どうせ七光りで出てきたし、やりたくてやってるわけじゃない、しかも父はうるさいし、結婚もできない、とマイナスなことばかり考えていたんです。

 瀬戸内さんは父のことを知っていたんですけど、「あら、阿川さんところのお嬢さん?」って私をまじまじと見て「あなたはそこに座ってるだけで嫉妬されるわね」って言われたんです。「どこが?」と思ったんだけど、確かに当時の私は「他の人たちに比べて、いかに恵まれているか」というところに意識が行ってなかった。だから瀬戸内さんに言われて、グサッときたの。そこから思い直したのを覚えてますね。

 それからも何回か瀬戸内さんのちょっとした一言で、「あ、やめよう」「変えよう」と思うことがありました。そうやって人の意見に敏感になってないといけないと思うし、知らず知らずのうちにごう慢になっていることもあるんですよ。だから自分が何かを言った時、相手はどう思うだろうか、今どういうところに位置して、どう感じて何にイライラしているのかということを、ときどき「あ、いかん! 慢心していないか?」と自分で気づくことって大事ですね。

■完璧な人間なんているわけない

――今はSNSなどのネットが発達して、ネガティブなことに触れてしまったり、知らない人から絡まれたりと、いろいろと敏感になりすぎることもあります。

阿川 芸能人でエゴサーチが趣味という人がいて「どういうMなんだ!」と思いましたけど、「そういうふうに捉える人がいるんだってわかるとすごく面白いんですよ」と言われたんです。でも私は絶対イヤですよ。「お前なんてテレビに出る価値なんてない」「『聞く力』なんて書いてるけど、ちっとも上手くないじゃないか」なんて言われたら、もう仕事やめますよ(笑)。私なんて読者ハガキですら読むの怖いですもん。

 以前、三谷幸喜さんとも話したことがありますけど、三谷さんは100枚読者ハガキが届いて、1枚「面白くない」と書かれていたら、あとの99枚が褒めてても落ち込むっておっしゃってました。私も三谷さんと同じで、かつて1通だけ「買って損した」というハガキを見た時は相当落ち込みました……

――今はネット上に自分の意見を自由に言えるようになりましたものね。

阿川 この本の「『ですね』幻想」でも書きましたけど、世の中の人に知ってほしい、私はこんなに幸せなのと発信して、「いいね」って言われることで私は幸せなんだと再確認して、自分の「幸せ保証」にするのってコワいと思うんですよ。みんなが自分と同じ意見なわけがない。叱られること、訂正されることは大事だと思うけど、不特定多数に意見を求めるってことは、いいことだらけになるわけがないんです。

 だから本当は落ち込んでたり、辛い状況の時でも、常にキラキラした自分であるとみんなに発信したいから、本当のことが書けなくなっちゃう人がいるんでしょ? 私、それはないんです。「大丈夫? 風邪引いたの?」と聞かれたら、「うん、ちょっと風邪引いたけど、大丈夫!」とは言わないで、私は「うん、風邪引いて、ツライ!」って言うほうが幸せになれる。甘ったれだから(笑)。だけどみんな「大丈夫なの、私!」って頑張っちゃうんでしょ? 失敗を恐れる時代なのかなあ。私は「自分の失敗はすべて他人の笑い話」と思っていて、私にとっての悲劇はたいがい書くネタになるんです。そんなに完璧な人間なんて、いるわけないじゃないですか。

――だから阿川さんのエッセイを読むと、気持ちが楽になるんだと思います。

阿川 そういう効き目があるのなら、この本を読んで「アガワよりはマシだ」って、せいぜい罵倒してくだされば(笑)。でも失敗しなきゃつまんないと思いますよ。私は短期悲観主義・長期楽観主義ですから、失敗した直後は泣いたりわめいたり、落ち込んだりします。でも長い目で見ると、その失敗がなければ面白いことは起こらないし、学習も起こらない。

 先日、ブルゾンちえみさんをインタビューしたんだけど、彼女は旅行へ行く時にすべての予定を立てて、その通りに行くとすごく楽しい旅行ができたと思うんですって。人それぞれだなあって感心しちゃった。私は予定通りにならない旅行のほうが記憶に残る。すべてが準備万端、そのままに上手く行ったら記憶に残らないの。もちろんスリに遭ったりしたらショックだけど、その話は面白いから、その後30年できますよ。「パリでね~」「あなたも?」「私のほうがひどい」なんてひどい目自慢したりして(笑)。

 最近思うのは「陽気でいる」って大事だなってことですね。暗~い顔してる人のそばには、あんまり行きたくないでしょ? 楽しそうな人には近寄りたいし、仲良くなりたいなって思うわけで。もちろん無理に陽気でいる必要はないけれど、例えば「こんな部署に異動させられちゃってさ」ってグズグズ言ってるより、そこでおかしいことや仲良くなれそうな人を見つけたり、こいつは本当に嫌なヤツだから似顔絵を描いてみんなで笑おうとか、楽しみや陽気になるものを見つければいい。そうやって自然に陽気にしている人の周りに人は集まるものなんじゃないかなと思っております。

――では最後に『いい女、ふだんブッ散らかしており』、どう読んだらよいでしょう?

阿川 どっからでも読んでください!(笑)そして雑誌の連載でも描いてくれているマルーさんのイラストはいつも素敵で、単行本でもタイトルに相反する素敵な絵を描いていただいて……そうだ、断っておかないといけないのは、「私がいい女」って言ってるわけじゃないですよ。こういう言葉がある、ってことです! だから「いい女だね」って言われたら「片付けなきゃ」って思いましょう、ってこと(※詳しくは本書の「いい女の条件」をお読みください)。完璧な人間はいない、ってことですからね!

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

<プロフィール>
あがわ・さわこ……エッセイスト、作家。1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒。『聞く力―心をひらく35のヒント』は170万部を超えるベストセラー、『週刊文春』の「阿川佐和子のこの人に会いたい」は25年以上続く連載、テレビ番組『サワコの朝』『ビートたけしのTVタックル』にレギュラー出演、ドラマ『日曜劇場 陸王』『チア☆ダン』に女優として出演するなど幅広い分野で活躍する。近著に『ことことこーこ』『看る力―アガワ流介護入門』(共著)などがある。