本仮屋ユイカ「たった一言で“いい女”だとわかる」 星新一作品の魅力とは?【審査員インタビュー】

文芸・カルチャー

2019/6/30

「たのしかったり悲しかったり、感心したりぶっ飛んだりする、もしもの物語を、お待ちしています」――星新一さんの次女で星ライブラリ代表の星マリナさんが言葉を寄せるのは、日本経済新聞社が主催する第7回日経「星新一賞」。ショートショートの神様と呼ばれた星新一さんの名前を冠したこの賞が募集するのは、1万字以内の短編(ジュニア部門は5000字以内)。かつ、独自のSF世界を構築してきた星さんのように、理系的発想力を感じられるものが求められる。

 一般部門のテーマは「あなたの理系的発想力を存分に発揮した、読む人の心を刺激する物語」。25歳以下の学生部門は「30年後の未来を想像した物語」。そしてジュニア部門が「100年後の未来を想像した物語」。突飛で、シュールで、面白いんだけど、時に怖くて。想像もつかない物語なのに、でもどこか、現実にありえそうなリアリティもある。いまなお読む人の心を刺激し続けている星さんを超えるような作品を求む審査員の方々に、お話をうかがってみた。

――皆さんは星さんの作品をどのように楽しんでこられましたか?

坂本真樹(以下、坂本) 小学校の頃、図書館でひととおり読みました。人工知能(AI)の研究をしている今なら、星さんの作品も「現実にありえそう!」と思えるのですが、当時はただただ読み心地にびっくりして。AIに支配された人類が、言いなりのまま最終的に死を選んでしまう「はい」という作品なんかは、とても印象に残っていますね。

池上高志(以下、池上) 僕も小学校の頃からずいぶん好きで、たくさん読んできました。『ボッコちゃん』や『エヌ氏の遊園地』は有名ですし、僕も印象深いですが、いまだに好きで何度も読み返すのは、実はショートショートではなく中編の『気まぐれ指数』。星新一にしては珍しく人間的な心の揺れが見える作品で、機転の利いたオチもいいんですよ。

本仮屋ユイカ(以下、本仮屋) 私は実をいうと、子供の頃はあんまり理解できなくて。信じていた世界が一瞬で反転して「本当に正しいの?」と突きつけてくる世界観は、なんだか怖くもありました。だけど今は、それこそが魅力なんだとわかります。時代の先の先まで見通す冷たい視点と、人間に対する温かいまなざし。どちらも備えている星さんはすごい。

小野雅裕(以下、小野) 僕は昔から長編を読むのが好きなので、ショートショートを多くは読んでいないのですが、受験で文字を読む時間がなくてイマジネーションに飢えていたとき、星さんの作品に出会いました。5分で読めるショートショートは、息抜きに最適だったんですよね。疲れた心にささやかな休息を与えてくれた。

――やはり、いつでもどこでも読めるというのがショートショートの魅力でしょうか?

小野 そうですね。スマホ全盛のこの時代には、特に適したコンテンツだと思います。忙しい都会人たちも、ちょっとした待ち時間にイマジネーションの世界に浸ることができる。出版社には、旧来のビジネスモデルにとらわれず、デジタルの新媒体を積極的に活用することで、星さんのすぐれた作品を再び世に広めてほしいです。

坂本 本を読みなれていない人や子供でも楽しめるのも魅力だなと思います。短い中に物語がぎゅっと詰まっているから、飽きず読める。それと、描写が少なく簡潔なぶん、想像力をかきたてられる。これどういうことだろう?って子供ながらに考えたし、研究者になった今だからこそ見える景色もある。人それぞれの世界をつくりだせるのが面白いです。

本仮屋 短い=内容が薄いわけではなく、むしろより多くの体験を与えてくれる気がします。一瞬で遠い世界に意識が飛ばされるというか。私は女性の描写も好きで、たった一言しか発しなくても「いい女」だとわかるんですよ。ミステリアスで知性的、だけど何をしでかすかわからない危うさと妖艶さがある。短いからこそ、たくさんのものが濃縮されているんです。

池上 僕はショートショートということをそんなに意識したことはなかったんですが、短い中に現代的なコンテクストを織り交ぜ、意外性のあるオチをつけるのは、4コママンガ的な面白さだなと思います。星新一の場合はそのオチがウィットに富んでいて、ラストで下に落とされるというより、一段上の怖いところに引き上げてくれる。その感覚が好きですね。

――最後に、応募者の皆さんにはどういう作品を期待しますか。

坂本 やはり、AIで文章生成をしている一研究者としては、AIによる応募を期待したいですね。星さんの作品に、”症状が進むにつれて笑いが高まり死ぬ”というものがあります(「奇病」)。例えば、人間が通常泣いたり苦しんだりするところを「笑う」と自動的に置き換えるだけで、このような面白い作品ができるんじゃないかと思うんですよね。

池上 AIによる応募は僕も楽しみです。常識にとらわれがちな人間にはできない表現で、先ほど言った、一段上に読者を引き上げてくれるようなオチを見せてくれるんじゃないかと。人間が書くなら、逆に、社会や文化を経験的に知っている者にしか書けない作品を読みたいですね。いずれにせよ、星さんのようなウィットに富んだ作品を期待しています。

小野 僕は、100年経っても読まれる作品が生まれてくれたらと思います。そのためには、逆説的ですが、目新しさや流行を追求しないこと。一年前から流行り始めたものは、1年経てば飽きられるんですよ。100年残るものとは、100年前からあったもの。普遍的ななかに新しさを感じられるものを読んでみたいですね。

本仮屋 「書く」って、自分自身を見つめ直し、内面を可視化する行為だと思うんです。書くことを通じて皆さんが新しい自分に出会うチャンスにしていただけたらなと思いますし、そういう作品を通じて私自身も、新しい自分や世界に出会いたい。より大きく心を動かしてくれる作品を応援できたらと思っています。

「理系的」と言われると戸惑うかもしれないが、スマホやロボットなど、現代社会にはたくさんの発明品が溢れている。こうなったらいいな、こんなことが起きたら怖いな、という些細な発想にアイディアをくみあわせた作品を、ぜひ応募してみてほしい。

取材・文=立花もも

星新一賞公式サイト