池田エライザが語った『クジラアタマの王様』の魅力――「さらりと書かれて見える会話のなかに、たくさんの感情が託されている」

小説・エッセイ

2019/8/10

池田エライザさん

「文章として美しいのにわかりやすい、というのが中学生の私にとっては衝撃でした」と、池田エライザさんは伊坂幸太郎作品について語る。初めて読んだのは『砂漠』。週末に福岡と東京を往復する飛行機で必ず1冊読み終える、そんな生活をしていた頃、「エライザが好きそうな小説があるよ」と仕事関係のプロデューサーに薦められた。

「わりとひねくれた子供だったので、読む本は純文学や、児童文学のなかでも海外のものを選びがちで。知らない言葉や表現には惹かれるけれど、辞書を引いて調べないと意味がわからなかったり、想像してもそれが正解なのかわからなかったり、読みながら何度も立ち止まってしまう。だけど、伊坂さんの作品はリズミカルでテンポがよくて、文章を読んでいることを忘れそうになるくらい没入できる。いま思うと『砂漠』は、伊坂作品としてはやや淡々としたところもあるし上級者向けだった気もするのですが、ところどころに感じられるスピード感のある描写に惹かれ、この人の作品をもっと読んでみたい、と思いました。作品ごとに登場人物をリンクさせるギミックに気づいてからは、ますますハマりこんでいきましたね」

 20歳の頃、女優業を始めてからは、読み方に“芝居”の観点も加わった。

「圧倒的に頭のなかで想像しやすいし、自分もその世界に存在していると錯覚するくらい、登場人物の環境や心情が丁寧に描かれていることに気づきました。でも、だからといって、演技しやすいかというとそうではなくて。たとえば『クジラアタマの王様』では、元池野内夫人の“マスクをしたままでもわかる表情”や、岸さんと栩木さんの、全部を語りあうわけじゃないけど、状況を察しながら気遣いあう、という会話のニュアンス。どの声で、どのトーンでやれば、奥行きのある表現ができるんだろうと、考えるほど難しいものが多いんです。登場シーンの少ない人物であっても、どんなにいやな奴と思える人であっても、決して蔑ろにしないし、さらりと書かれて見える会話のなかに、たくさんの感情が託されているんです。わかりやすいけど、単純じゃない。そういうところがとても好きだし、口に出してみたくなる」

 ちなみに、読みながらたいていの本は勝手に脳内キャスティングするというが、今回は?

「挿入されるコミックパートのイラストがあったからか、なかなか想像しにくかったんです。私の出演できる隙がどう考えてもないのも悔しかった! どうせなら夢の中で私も戦いたいけど、それはみんな男性だし、女性はギリギリ年齢が……。ただ、『クジラアタマ~』は設定的にも映像化しづらいですよね。勝手に伊坂さんから『できるものならやってみろ』と言われているような気分です。ただの妄想ですけど(笑)」

 小説部分は昼間の会社員生活を、コミックパートでは夢で見るRPGの世界を描く本作。最初は戸惑ったという池田さんだが、「だんだん、すごくおもしろい2冊の本を、ちょうどいいところで止めながら同時に楽しんでいるような感覚になった」という。

「小説もコミックパートも、どちらも『そこで止めちゃうの⁉』っていう絶妙な引きで終わり、互いに連動して一種の謎解きのようにもなっている。ものすごい仕掛けだなと思いましたし、好きで読んでいる“なろう小説”も連想しちゃいました。あのジャンルには異世界転生ものが多くて、人生でうまくいっていない人がトラックやバスに轢かれて異世界に転生し、新たな道を切り開いていくんですけれど、岸さんは転生したわけじゃないものの、どうやら現実に影響するらしい夢の世界で、モンスターと接近戦に挑んだり、スローイングアローっていう武器で打ち倒したりしていく。伊坂さんの小説で“なろう”を体験しているような贅沢さがありましたし、私もそこにまざりたい!と思うくらい高揚しました」

 本書を“なろう小説”と比較した読者は、初めてなのではないだろうか。それに、池田さん自身が好きで読んでいるというのも、意外だ。

「私、本当になんでも読むんですよ(笑)。マンガも、小説も、官能小説にハマっていた時期もありますし。“なろう小説”とかライトノベルは仕事から逃げ出したいとき読むのにぴったりで、色恋沙汰の描写もライトだから、気軽に読んでスカッとできる。小説って、こんなふうに軽やかに楽しんでいいもんだよな、って再確認できるんです」

 どんな作品からも、池田さんはできうる限りの吸収をする。以前、インタビューで「自分から分泌したものを大事にしたい」と言っていたが、分泌とはインプットあってこそ。

「どうしてもアウトプットする機会のほうが多いので、隙あらばインプットしていきたいとは思っています。お芝居も、その中から自分で差し引きしながら作り上げていきたい。私は、ともすれば形骸化しそうな登場人物を深く探って、自分だから表現できる魅力を発掘していくのが好きなんですが、伊坂さんの小説に出てくる登場人物はまさに、どんなに非道に見える人でも、血の通った人間として描かれている。だから、どの人物のセリフも口にしてみたくなるし、演じたいと思ってしまう。彼らに失礼のないよう、自分のなかに取り入れたい、って。そういう魅力的な登場人物に出会うと、作者である伊坂さんにも、“ありがとうございます”って頭があがらなくなる。『クジラアタマ~』もそう。顔をあげると、いい夢から醒めてしまいそうで、読み終えるのが怖くなる。いつまでも浸っていたい、この世界に没入していたいと願う小説でした」

取材・文=立花もも

 

池田エライザ
いけだ・えらいざ●1996年、福岡県出身。2009年、雑誌『ニコラ』の専属モデルに。11年、映画『高校デビュー』で役者デビュー。14年刊行の書籍『@elaiza_ikd』では自ら編集長を務めた。出演作に映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』『貞子』、ドラマ&映画『賭ケグルイ season2』など多数。現在、初監督映画を製作中。

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