暮らしが苦しくなるばかりの日本経済。不幸な人と比べて安心するより安い給料に怒りを!『キミのお金はどこに消えるのか』井上純一インタビュー

暮らし

2019/9/8

 日本政府と日本銀行は物価の許す範囲でお金を「刷って」政府予算を賄うことができる。今の日本の財政は破綻からほど遠い――。そんな経済の基本を描いた井上純一さんの『キミのお金はどこに消えるのか』は、経済オンチの大人だけでなく、小学生から高校生まで幅広い読者から支持された。それだけ経済の基本を知らない人が多いのだろう。2019年3月時点の“国の借金”は1103兆円だが“国民の借金”ではない。実際、日本の対外純資産額は27年連続世界一だ。

著者 井上純一さん

井上純一
いのうえ・じゅんいち●玩具会社「銀十字社」代表取締役。TRPGデザイナー。マンガ家。代表作はスタンダードTRPGシリーズ(SRS)『アルシャードセイヴァー』、『エンゼルギア』、『天羅万象』ほか。著作に『中国嫁日記』『中国工場の琴音ちゃん』、『キミのお金はどこに消えるのか』など著者累計部数105万部(KADOKAWA発行)を突破。

 

「しかし10月から消費税が10%に上がるのは深刻な問題です。ただでさえ消費が落ち込んでいる今、日本経済はますます衰退するでしょう」

 衣食住にかかる10%の税金は私たちの暮らしを直撃する。しかも低所得層ほどダメージが大きくなる冷酷非情な政策だ。

「バブル崩壊以降、リーマンショックを経て現在に至るまで、日本の金融政策は世界でも有名な“失敗”と見なされています。中国もアメリカも、日本の間違った経済政策に学ぶことで自国経済の立て直しをはかってきました。また、ノーベル賞受賞者をはじめとした世界的な経済学者たちも、日本の消費税増税を批判しているのに、なぜ間違った財政政策を続けるのか、どう考えても訳がわからない。消費税をなくせば消費が回復し、経済成長して結果的に税収も上がると前作でも描きましたが、希望が持てない状況です」

 その逆境を生き延びるヒントを描いたのが第二弾の『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』だ。この作品の中で井上さんは、「(日本政府が間違い続けていることの原因が分かれば)ノーベル賞とれるよ」とボヤいているが、中国人妻の月さんは「ヒドいデス サギデス」と激昂。そこで、井上さんが推測する日本政府の「現状維持バイアス」論が興味深い。これは、人間はたとえ損してでも、変化することの不安より安定をとる場合があるということだ。つまり日本政府は、約50年前の固定相場制だった時代に高インフレで苦しんだ経験があるため、緊縮財政や消費税増税をやらないと国が滅ぶと本気で思っている、という説である。

「そうでもなければ、20年もデフレから脱却できていないのに消費税率を上げ続けるのはおかしい。こんな国、日本だけですよ。10月以降は、ますます家計が苦しくなって政府の間違ったやり方に反発する人が急増すると思います。本書にも描いているように、6%の消費税をゼロにして経済回復したマレーシアの例もありますから」

不幸な人と比べて安心するより安い給料に怒りを!

 経済学は、幸福や不幸という感覚がお金を測ることで生じることを明らかにしたという。たとえば、他人と比較して自分が満足を得る財産を意味する『地位財』。

「今の日本は、生活保護者など経済弱者に対するバッシングや、『生産性のないLGBTに税金を使うのは無駄』といった発言をする国会議員のような考え方がはびこっています。これは、自分より下だと思っている者の幸福を認めず、自分より不幸な人がいることで安心するという現象で、決して気分のいいものではありません。公共事業はムダだ! 公務員も減らせ! と言っている人たちも、税金を余計なことに使うなという地位財的な思考にしばられている。だから、緊縮財政や金融引き締めによって日本を貧しくしているのは、そういう政策を望んでいる国民にも責任があると言えます。その思考を変えるためには、弱者を叩くことによって満足するのではなく、なんで自分の給料は上がらないんだ? とちゃんと怒ることです。経済の根本的な問題から目を背けていても苦しい状況は何も変わりませんからね」

 その一方で、貯蓄・節約志向の強い若い世代も増えている。「ミニマリスト」ヤ「シェアリングエコノミー」といった言葉に象徴されるように、家、車などの資産保有にこだわらず、モノにしばられない生活を善しとする者たちだ。

「個人の趣味や嗜好に立ち入るのは野暮ですが、お金を使わない人が増えるとデフレが加速します。デフレが加速すると企業が立ちゆかなくなって雇用もなくなり国が衰退してしまう。そうならないためには、日本企業がモノを売って粗利を得るために生産性を上げなければいけません。しかし日本の生産性はG7で最下位です。この生産性向上のためには国民にもっと消費をうながす必要がある。誤解してほしくないのは、モノの値段を安くしたり、従業員の給料を下げても粗利が増えるとは限らないということです。結局消費が増えないと生産性は上がらないのです」

 中国でも、2000年代以降生まれの節約志向の若者は「00後(リンリンホウ)」と呼ばれ、1980年代生まれの「80後(バーリンホウ)」と呼ばれる月さん世代からは“異質”扱いされているという。日本のゆとり世代と似た構造だ。

「バーリンホウから見たらリンリンホウは宇宙人みたいで、自分の価値観だけを重視するから引きこもりも多いんですよ。もちろん、就職できないといった理由もありますが、他人との比較は意味がない世代なので消費も最小限なのです。しかも中国は景気も後退していますから、その状況を打破するために大規模減税を実施しました。なぜならデフレが怖いからです。デフレは国家衰退を加速させる劇薬だとわかっているんですよ」

まず日本経済の問題を知り、生き延びる工夫を

 消費税率を上げて意味があるのは年10%とかの高インフレの時。その具体例として紹介されているアイスランドの奇跡の復活劇にも学ぶべき点が多い。リーマンショックの金融危機で高インフレとなり国家が破綻寸前に追い込まれたアイスランドは、IMF国債通貨基金からお金を借りる代わりに財政緊縮を求められた。そのとき、アイスランド政府は国民投票をおこない、銀行がつぶれないようにお金を投入するのを止め、代わりに医療と教育には優先的にお金を回した。「政府支出乗数(政府が使ったお金がどのくらいGDPを引き上げるかという数字)」が3倍以上だったからだ。

「アイスランドは増税をしています。増税は物価上昇への対策だと理解しているのです。また、銀行が破綻しても救済せず、預金支払いだけ保証したのも大英断でした。詳しい話は、『経済政策で人は死ぬか?』という本に詳しく書かれているのでぜひ読んでほしいですね。緊縮財政が国の死者数を増加させて景気回復を遅らせることが、世界中の統計データで示されている非常に説得力ある内容です」

 ひるがえって日本はどうか? 教育に関していえば、ようやく幼児教育無償化が決まったばかり。少子高齢化は急速に進み、金融庁が「高齢者の貯蓄の平均は2000万円。あなたの資産は足りてますか?」という不安を煽るかのような提言をしようとする始末。財政は過剰に健全なのに国民からさらに絞り取ろうとするばかりだ。さらに消費税も上がるとなれば、我々国民の生活はますます苦しくなる。

「大事なことは、本書にも描いたような今の日本経済の問題をまず知ること。消費税増税以降は、家賃が安い所に引っ越すなど生き延びる工夫をすること。そして、次の衆議院選挙で消費税を減税する政党に投票するのです。先日の参議院選では、消費税ゼロを唱えている政党も議席を獲得しました。今の政治の間違いを正すためも選挙に行って、自分たちで未来を変えましょう!」

取材・文=樺山美夏 写真=川口宗道