『うまくやる』著者・熊野森人に石井ゆかりが聞いた!「うまくいっている人」=「上手く回っている人」【後編】

暮らし

2019/11/15

人生をうまくやるために必要な「流れ」とは?【前編】

「好き」を掘り下げ、未来の選択肢を増やす

石井:この本には、「好き」に関する問いかけがあります。自分が何が好きか、って、よくわからないものなんでしょうか。

熊野:「好き」とか「嫌い」とか、ざっくりした感情でもそこをもっと掘ったら、明確な答えってあるのにな、ということなんですよね。

 たとえば、親から「あなたはこうしなさい」と言われて、ずっと親の敷いたレールに近いことを選んで生きてきた人が、あるとき「自分はなぜ、この生き方がいいと思っているんだろう?」と考えたとしたら、すごく悲しいなって思うんです。「普通より少しいいお給料だった」みたいな理由しかなかったとしたら、悲しすぎるなって。

石井:たしかに、悲しくなるかもしれないですね。

熊野:自分が何が好きか、どういうものを好きになるのか、なぜそれを好きになるのか、ということを知ると、自ずと選択肢が増えるのかなと思うんです。

石井:最近、ある女性誌の企画で「40代以降になったら、なんにもときめかなくなってしまって、辛い」という悩みに答えたい、みたいなものがあったんです。私自身、40代半ばなんですが、確かに「これが好き!」みたいなワクワク感やトキメキを、10代20代みたいには感じなくなってきていて、「ずっとこのままなのかな」と不安なんです。昔好きだった音楽を聴いても、あの頃みたいにドキドキしない、みたいな。

熊野:わかります! 最近感じます。だから、あえて「奮い立たせている」みたいな部分もあるかも(笑)

 でも、なにかにずっと長い間触れていると、それがだんだん気になってくるので、それが第一かな、と。意識的に、あるものに触れる頻度を高くすると、それが好きになっていくものなんですね。たとえば音楽は、とりあえずずっとかけておく、とか。

石井:なるほど。

熊野:あと、若いときにはなかった部分も花開いている気がします。自然のものが気になる、とか。あと、はかないものに惹かれます。

 昔は「朽ちないもの」に惹かれる、みたいなことがありました。人工物であっても、頑丈で壊れないものが好き、みたいな。

 でも今は、すぐにダメになっちゃうものとか、今この瞬間にしかないものに、気持ちをグワーッともっていかれることがある。これが老人になるということかな、とか(笑)

石井:ああ、それはわかります!

熊野:ある人が言うには、「すべての趣味は庭石に行き着く」そうなんです。あらゆる趣味のあとではもう、石の歴史を愛でる、みたいなことにいってしまうと。ちょっと、わかる気がする(笑)

 お花屋さんのきれいな花とかもいいんですけど、道端の草花とかにひかれます。夕焼けとかを見て、ひたすら没頭するとか。ロマンチストで浸っている、ということではないんですけど。

 なにかに夢中になって、ハマってどうこうする、というのは薄まる反面、儚いものに心惹かれるのかもしれないですね。

「自分」なんか、「好き」になれない

石井:この本には、恐ろしいことも書かれていますね。自分を知るために「自分をビデオに撮ってもらって、見てみる」って、「面白いよ!」みたいにさらっと書いてありますが、恐ろしすぎます!

熊野:(笑)あれは、偶然だったんです。みんなでなにか作業をしているとき、たまたまビデオを撮っていて、それをみんなで見返してみよう! となったんです。それで愕然としたんですよね。こんなにキモチワルイ動きをしてるのか!自分!みたいな(笑)

 そこから、「無意識のうちに撮られた映像」に興味が出てきました。意識的に写ろうとして映ったものではなく、自分では知らないうちに撮った映像です。最初は「こんなはずはない!」と思って、何度も撮ってもらって、でもいつも同じで(笑)

石井:恐ろしい体験です。自分では、それを知らないからのんきに生きてられるのかなって思ってます(笑)

熊野:鏡に映ってる自分って、めっちゃつくってるんですよ。動画撮るときも、わかって撮られる時は、めっちゃ意識してる。「知っているつもりの自分」に「なって」いるだけなんです。普段の動きや表情とは違います。

石井:そうですね。

熊野:自分の「普段の動き」の映像をいくつも見るうちに、だんだん怖くなってくるんです。「毎日、『知ってる自分』のはずなのに、毎日『知らない自分』がいる!」という恐怖を感じ始めるんですよ。

石井:「人が見ている自分」が、「知らない自分」なんですね。怖い。

熊野:でも、そこで「人が見ている自分」っていうのと、うまくつきあっていかないといけない、と思ったんですよ。他の人が見てる自分を認める。「こんなもんですよ」と思う。最初は「嫌だ!」となるけど、よく考えると、そこまで悪い自分ですかね? となる。対・自分との対話の中で、「自分のこの姿は、そこまでわるいものか?」と。まあ、開き直りなんですけど(笑)

石井:ははは(笑)

熊野:結局、自分がそういう「流れ」の中にいるんじゃないか、ということです。

 たとえば、きれいな人は、死ぬほど自分を見て、研究して、計算して、それを実行しているんですよね。自分で自分をコントロールしようとして、その「流れ」の中にある。でも、自分の生活や生きてきた道を振り返ると、とてもそういうふうには生きていない。

 人から見た自分の姿は、自分が生きている「流れ」の中にあるんです。その「流れ」を変えてまで、「人が見た自分」を変えたいかというと、そこまでするほどのことか? ということになる。

石井:「流れ」って面白いですね。

熊野:やせるのも、瞬間的にやせるもんじゃないです。病気も、瞬間的に治るもんじゃない。

 あるお医者さんと話していて、「一番の治療は、自分をスキャンすることだ」と言うんです。自分を知るということです。自分の状態とか、自分の病気とかについて、ちゃんと知らないから、不安とか、不安から来る別の疾患が起こる、と。

 スポーツジムにも、めっちゃ鏡があります。自分を知らなさすぎる状態から、自分を知っている状態になることが、健康につながるんですね。

石井:「自分を知る」と言っても、自分のことだけを見つめていても、「知った」ことにはならないですね。

熊野:まわりの世界が何をよしとしているのか、勉強しておかないといけないですね。自分の血糖値とか血圧とか知っていても、平均値とか基準値を知らなければ、それが何を意味しているのか、わからない。

 でも、平均値や基準値が「いい」というのではなくて、それがわかっているということで、選択肢が生まれる、ということなのかな、と。

石井:よく「自分を好きになりましょう」っていうアドバイスがありますね。

熊野:冷静に考えたら、「自分」って、好きになれないと思うんですよ。「自分の中で作っている、自分のイメージが好き」ということでしかないんじゃないか、と思うんですよね。でも、ビデオに映ったありのままの自分を全否定していくのも、それも違う、と思うんです。

石井:認めるとか、肯定するって、「no problem」くらいのことかなと思うんです。GOODとか、積極的なことではなくても、「まあ、いいか、ゆるしてやるか」くらいでも、相当肯定的なんじゃないかと。

熊野:「認める」は、すでに「いい」の部類に入ってますよね。

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 こんな感じで、インタビューは終了したのだった。

 私は、特に「流れ」という言い方が面白かった。インタビューの中で2度、出てきた表現だ。

「うまくいっている人」は、「上手く回っている人」で、流れが滞っていないのだ、と熊野さんは言う。ここで言う「流れ」は、その人の生きている状況の全体を、本人と環境をひっくるめて「流れ(ストリーム)」のように、あるいは水の循環のようにイメージしているのだろう。

 もう一つ、ビデオで自分の姿を見たショックのあとで、「でも、美しい人はそもそも、そういう流れを生きているのだ」というところで、また「流れ」が出てきた。これもまた、その人が生きている、今という時間の全体をイメージした言い方だ。日々選択し、その選択を生き、変化が生まれる、そのサイクルの総体を、動きのある塊のようなものとして、熊野さんは「流れ」と表現した。

 物事を意識的にコントロールしようとするとき、私たちは必ず、物事を切り分けようとする。原因と結果を、被害者と犯罪者を、自己と他者を、環境と自分を、分けて捉えようとする。でも、それらはそんなにガチガチ分断されているものではない。個別に分けて「ここだけをなおせばよくなりますよ!」というのは、それは、「これだけを食べれば病気が治る!」みたいな危険な考えにつながる。

 熊野さんがやろうとしていることは、自分の生活の「パイプの詰まり」を解消するようなイメージで、「流れ」をよくしようということなんだろうと思う。うまくいかないのは、「間違っているから」ではなく、「流れが悪い」だけなのだ。流れは、そこにある。そして、少しは変えられる。自分というものが生きている、この「流れ」がもし、春の小川のようにもっと勢いよく、キラキラ流れるようになったら、どんな気分になるのだろう。

 流れがいいか悪いかといえば多分あまりよくない私は、それをちょっと想像したのだった。

<プロフィール>

熊野森人(くまのもりひと)
1978年生まれ。大阪府出身。大阪市立工芸高等学校映像デザイン科卒。IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)特別研究課程修了。株式会社エレダイ2代表取締役 / クリエイティブディレクター。株式会社ゆっくりおいしいねむたいな 代表取締役。京都精華大学や京都造形芸術大学では講師も務める。この度2019年で勤続13年となる京都精華大学での「コミュニケーション論」を書籍化した『うまくやる』(あさ出版)を上梓したばかり。

石井ゆかり(いしいゆかり)
1974年生まれ。ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、『12星座シリーズ』(WAVE出版)は120万部のベストセラーとなる。著書多数。『月で読む あしたの星占い』(すみれ書房) 発売中。『星ダイアリー2020(総合版・恋愛版)』、『星栞(ほしおり)2020年の星占い(12星座別)』(共に幻冬舎コミックス) 2019/10/30発売。