「編集者不要論」と真っ向勝負!? 新人賞投稿作&書籍版原稿をWebにて公開しているビーンズ文庫編集部に、直撃インタビュー!!

文芸・カルチャー

2019/12/7

 誰でも気軽に小説を発表できるWebサイトの充実とともに、「編集者不要論」などがささやかれる昨今。そんな中、新人賞への投稿作品&その書籍版原稿をWeb上で公開している──つまり、編集者たちの仕事を明らかにした編集部があるらしい。この読み比べ企画を実施している、角川ビーンズ文庫編集部にお話をうかがった。

■「角川ビーンズ小説大賞」ってどんな賞?

──そもそも「角川ビーンズ文庫」ってどんなレーベルなんですか?

編集者A 読者層は、ざっくり言うと“女性”です。2021年に20周年を迎えるレーベルで、発表している作品は大まかに分類すると現在2軸に分かれていますね。小さいころから本や少女小説に親しんできた20代後半〜の大人の読者向けの作品群と、『告白予行練習』シリーズ(Honey Works:原案、藤谷燈子・香坂茉里:著)や『厨病激発ボーイ』シリーズ(れるりり(Kitty creators):原案、藤並みなと:著)などに代表されるような10代の読者向けに発表している作品群です。

編集者B キャッチフレーズは、「教室から異世界まで──心ときめく物語!」と掲げています。現代ものでもファンタジーでも、女性にとって楽しいものに幅広くチャレンジしていこうというコンセプトですね。作品として目指しているのは、エンタテインメント性の高い作品であることと、読者にとって心揺さぶられるような作品であること。恋愛ものはひとつの根幹ですし、いつの時代も外せない主軸です。一方で、『少年陰陽師』シリーズ(結城光流:著)のように少年主人公の作品のおもしろさもあったり、社会人が異世界に転生してスローライフを送るといった物語の楽しみもある。時代に合わせて、読者が求めているものを、最先端で取り入れようとしてきたレーベルだと思います。

──最近の人気作品には、どんなものが?

編集者C 現在シリーズ56冊(外伝1冊含む)が刊行されている『少年陰陽師』シリーズは不動の人気がありますし、最近は、Web発の作品も増えてきましたね。従来のやり方で作家と編集者が二人三脚で企画した作品にも、もちろん人気作はありますが、小説投稿サイト「カクヨム」や、同じく「小説家になろう」といった、いわゆるUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ、ユーザーが作ったコンテンツのこと)の中ですでに広く知られている作品を編集でよりおもしろくできないかと取り組んだものに人気が集まってきています。

──今回、読み比べ企画を実施している新人賞受賞作にも、Web発の作品をブラッシュアップして刊行されるものがあるんですよね。ところで、「角川ビーンズ小説大賞」って、どんな新人賞なんでしょう?

編集者A ビーンズ文庫の作家、また、次世代のエンタテインメント界を担う人材を世に送り出すために設置した賞です。現在は第18回の作品選考が終わったところで、第19回の作品を募集しています。2019年の11〜12月で刊行した書籍は、第17回の受賞作ですね。これまでの受賞作品には、『彩雲国物語』シリーズ(雪乃紗衣:著)などがあります。もともとビーンズ文庫の作品に異世界ラブファンタジーが多いこともあって、応募される作品もそういった傾向のものが多い印象です。

編集者B 異世界ラブファンタジー以外でも、面白いと思った作品はもちろんジャンル問わず選考に残しますよ。新人賞って、女子向けライトノベルとして次におもしろいと思ってもらえるジャンルや、次代のレーベルを担っていく作品に挑戦することにも、意義があると考えているので。反対に、王道の作品の中に光るものがあれば、そちらもきちんと評価したいなと思います。どちらが上ということではなく、意欲が見えるものはどんどんピックアップしていきたいですね。

編集者C 主人公は男性でも女性でもいいし、恋愛要素が入っていない作品でもいい。エンタテインメント性の強い作品」を募集していると応募要項にも書いているので、「こういう作品が好きでしょ?」とただ流行を狙ってこられるよりは、「おもしろいものを書きました!」という作品を求めているということは、もっと広く伝えたいなと思います。

──最近の投稿作の傾向は?

編集者A 「カクヨム」から、異世界ファンタジーや、スローライフ要素を含む新文芸と呼ばれる作品に近い作風のものが、ガールズポータルサービスの「魔法のiらんど」から、高校生の恋愛などの現代的なラブストーリーの投稿が多くなってきましたね。現在は、「カクヨム」と「魔法のiらんど」、そしてビーンズ文庫独自のWeb投稿フォームから、バランスよく集まってきています。第17回小説大賞受賞作品について言うと、『ルクトニア領繚乱記 猫かぶり殿下は護衛の少女を溺愛中』(さくら青嵐:著)が「カクヨム」からの応募作品、『銀狼の姫神子 天にあらがえ、ひとたびの恋』(西嶋ひかり:著)と『音風シンドローム 鳴らせ、運命のイントロダクション』(石川いな帆:著)が、ビーンズ文庫の投稿フォームから応募いただいた作品ですね。

■受賞作は驚きのバラエティ!

──第17回角川ビーンズ小説大賞を受賞作した3つの作品について、詳しく教えてください。

編集者C では、『銀狼の姫神子 天にあらがえ、ひとたびの恋』から。受賞時は、まずキャラが立っているという点が評価されました。和風・恋愛・契約結婚といったキーワードは、ビーンズ文庫の中では比較的人気があるものですが、それらを取り入れた王道の恋愛を描きながらも、ヒロインが強い、ヒーローもすごく強い(笑)。ぶつかりあうようなふたりの恋がおもしろいと思いました。また、「もしも永遠の命があって、愛したら死んでしまうとしたら、愛する人を選びますか、命を選びますか」というテーマも、普遍的なものだなと感じました。とくにヒーローのキャラクターは、甘いセリフなども含めて、ビーンズ文庫の読者にも刺さりそうだなと思いましたね。

編集者A 『音風シンドローム 鳴らせ、運命のイントロダクション』は、高校3年生の男の子が主人公のバンドものです。レーベルとして、『厨病激発ボーイ』シリーズなど10代向け作品の開発を進めてきたという経緯もあり、引きこもりの男の子がバンド活動を通して自分の居場所を見出していくというストーリーは、10代の読者に響くのではないかと思いました。そしてやっぱり、夢を追う男の子たちの姿がかっこいいんですよね。彼らがつまずいても「がんばれ、立ち上がれ!」と思える、非常にのめり込める作品でもありました。角川ビーンズ小説大賞では初のファンタジー要素がない現代ものの受賞作なので、読者のみなさんにとっても新鮮な作品だと思います。

編集者B 『ルクトニア領繚乱記 猫かぶり殿下は護衛の少女を溺愛中』は、「カクヨム」から投稿していただいた作品ですね。実は、もともとご応募いただいた作品は、今回書籍化する主人公たちの親世代のお話で、Web小説ならではの展開が楽しめ、キャラクターもきちんと立っていたけれど、構成上、少し動きが足りない印象でした。そんなとき、「Webに子世代編が載ってるぞ」と……(笑)。その子世代編というのも、ヒロインとヒーローに対等なケンカップル感がある、とても魅力的な作品だったんです。書籍化にあたっては、子世代編を主軸にし、受賞作に登場した親世代も登場させるといった形で、あらためて構成し直しました。新設したWeb窓口からの投稿作でしたが、内容的には、騎士として頑張る女子や、男装・女装、俺様猫かぶりヒーローなど、今までのビーンズ文庫で人気の特性を一番網羅していたというところもおもしろい流れでしたね。

──こうしてみると、三者三様というか……。

編集者A バラエティに富んだ!?

編集者C ほんとですねえ(笑)。

編集者B どうやってまとめるんですか、この記事(笑)。

■まさかの「投稿作全文公開」、いったいなぜ?

──今回の新人賞受賞作品については、「カクヨム」に投稿作を全文掲載しつつ、編集後の書籍版原稿も一部公開しているそうですね。編集者生命を賭けた勝負であるようにも思えますが……この企画の発端は?

編集者B 新人賞作品を広める施策って、なかなか難しくて……読者さんにとってなにが魅力になるんだろうと毎年いろいろチャレンジしていたところで、今回、「カクヨム」からの応募でWeb発の受賞作品が出たというのは、大きな出来事だよねという話になって。編集の仕事って、なにをやっているかわかりにくいと思うんですが、これだけWeb小説発作品が増えている今ですから、Web版と書籍版って簡単に読み比べができるんですよね。それって実はおもしろいんじゃないかなと思って、明確に打ち出してみることにしました。Web版はずっと読み続けていられる一方で、書籍版には一冊の中で完結する盛り上がりがあるというような、おもしろさのポイントが違う読書体験ができるといいなと。お話が大きく変わった作品もあるので、「これはこれでありだな」と思ってもらえたら、読者さんとしてもひとつ意義を見出してもらえるかなと思います。

──この企画について、受賞者のみなさんに提案したときの反応は?

編集者C 『ルクトニア領繚乱記』以外はどこにも公開していない作品だったので、最初は驚かれたみたいですね。『銀狼の姫神子』の著者・西嶋ひかりさんも、「なかなか結果が出ず、いっそ好きなことを全部盛りで書いてみた投稿作だったので、かなり恥ずかしいなと思いました」って。とはいえ、最近はWeb発小説の人気も高まっていますし、掲載先が増えるということは読んでくれる人が増えるということでもあるので、「じゃあやってみましょう」という話になるのは早かったですね。

編集者A 『音風シンドローム』の石川いな帆さんも、「すっぴんを見られるような照れくささはあります」とおっしゃってました(笑)。けれど同時に、バンドものの作品なので、「文章からライブの熱気や音の振動、高揚感を伝えたい!」と熱い想いを持って改稿に取り組まれたようです。『音風シンドローム』も、書籍版の原稿は投稿作からかなり変わっているのですが、「自分が好きだと思った世界や設定を、読者にも同じように楽しんでもらうためにはどうすればいいか」という点を大切に改稿していただきました。

編集者B 『ルクトニア領繚乱記』のさくら青嵐さんは、「カクヨム」からの応募だったので、応募段階ですでに全文が公開されていました。このお話が出たときは、純粋に「ほかの方の応募作はどんな感じなんだろう、書籍版と読み比べたい」とのことでしたが、まさか全文公開だとは思っていなかったそうで(笑)。やはり驚かれていましたね。改稿にあたっては、主人公の内面的な成長に力を入れられていました。とくに主人公が挫折から立ち上がる場面は、編集者である私と何度もやり取りしながら、考え抜いて仕上げられました。

──今回の読み比べ企画は、どんな人に届いてほしいですか?

編集者C 個人的には、「Webだけでいいじゃん」と思っている人に読んでほしいと思います。第17回小説大賞は、幅広い作品が受賞したので、今までビーンズ文庫を知らなかったという人が、ビーンズ文庫を手に取るきっかけにもしてもらいたいなと。ビーンズ文庫の王道作品には、やっぱり女性の読者が多くいらっしゃいますが、最近は、メディアミックス作品や、「カクヨム」「小説家になろう」から書籍化した作品など、男性にも読んでいただけているようです。「女の子が読むもの」と思われているレーベルの中にも、こんなふうにいろんなおもしろい作品があるんだなと、企画に触れることで気づいてほしいですね。

編集者A まずは「おもしろい企画だな」という興味で見にきてもらって、投稿作を読んでもらって、書籍も楽しんでもらって、「こんなふうに変わったんだ」「本では別の展開が楽しめるんだ」と感じてもらえたらうれしいなと思います。

■リスペクトし合える仕事仲間になりたい

──今後、新人賞や少女小説の作り手として、どんな人と一緒にお仕事をしたいなと思いますか?

編集者C 「今回の作品ではどういうところを大事に書きたいですか」「次になにを書きたいですか」とたずねたときに、「これが好き」「これだけは譲れない」っていう芯があると、こちらも「なるほど。じゃあきっと、それが一番おもしろいんだな!」と思えるので、そういう芯を持っていてほしいですね。日々読んでいる小説や、好きな作品が多くあるから、自分でも書いてみようという気持ちになったのではないかと思います。ぜひ、今読んでいるものも大切にしてほしいです。

編集者B 好きなものに迷ったときは、いっぱい応募していただいてもいいんですよ。角川ビーンズ文庫編集部は、何回ご応募いただいても、そのときご応募いただいた作品を、ひとつの作品として評価します。

編集者A 自分で自分の可能性を狭めないほうがいいかもしれませんね。「これしか書けません」っていうよりは、いろんなコンテンツをどんどん吸収して、「私がこのテーマ・ジャンルで書くならこう書く!」というような、食わず嫌いのない人っていうんでしょうか。新人賞って、もともと筆力の高い人や文章のうまい人が求められているのかなと思われがちですが、そんなことはありません。そもそも、小説を書いて物語の最後にエンドマークを打てるというのは、それだけで才能だと思います。私たち編集者も、その点へのリスペクトは絶対に忘れないようにお仕事をしています。

編集者B 携帯電話がスマホになったり、紙の書籍が電子書籍に変わったりと、いろいろなことがすごい速さで変わっていく時代です。レーベルだって、いつまでも同じではいられません。そういう時代の変化に意識を向けて、自分の成長につなげられる力というのは、おたがいに尊敬できる立場でお仕事をするために、必要なものではないかなと思いますね。誰かに言われたこと、自分の気づき、どちらからでもいいと思いますが、自分の守りたいものと変えるべきところを、自分の領域の中にきちんと作っていく。一朝一夕でできることではないと思いますし、私たち編集者も常に勉強中なので、「こういったところが変わってきてますよね」「それって自分にとってはプラスですかね、マイナスですかね」といったことを、同じ目線で話していけるといいなと思います。

取材・文=三田ゆき