異世界ものは何がそんなに面白いのか? 『リゼロ』長月達平×『オバロ』丸山くがね対談

文芸・カルチャー

更新日:2020/8/11

エミリア
ナツキ・スバル

 異世界転生・転移ものの中でも非常に高い人気を誇る『Re:ゼロから始める異世界生活』の長月達平氏と『オーバーロード』の丸山くがね氏のスペシャル対談! ウェブ小説発の異世界ものの魅力や異世界作品を書き始めた経緯を、作家ならではの視点で存分に語っていただきました。

異世界ものの入り口は二次創作だった

――おふたりが異世界転生・転移ものを読み始めたきっかけから教えてください。

丸山 元々、俺は異世界ものの二次創作をけっこう読んでいたんですよね。

長月 俺もです。MF文庫Jから刊行されていた『ゼロの使い魔』(以下、『ゼロ魔』)の世界に他作品のキャラを呼ぶ二次創作が流行った時期があったんですよね。『ゼロ魔』自体が異世界転移ものですけど、作品の違うキャラ同士をクロスオーバーさせる作品も、言ってみれば異世界転移ものじゃないですか。

――「小説家になろう」(以下、「なろう」)など、ウェブ小説を読む時はPCでという時代ですよね?

丸山 PCのブラウザで、ですね。

長月 PCだと読み応え的に俺は1話5000字は欲しいんです。

丸山 俺も1話1000字とかだと「1000字ぃ?」と思っちゃう(笑)。

長月 でも、今のスマホで読む読者は短い方を好む。特に最初は膨大な数から面白い作品を探すので、頭の面白さが重要。書く側からすると、今は新規の投稿作品で人気を得ようとすると、1話3000字で起承転結を作ってランキングに入って安定するまでは毎日更新しないといけないし、流行の変遷は速いし、大変ですよね。

丸山 今はそのくらいやらないといけないのかね。

長月 中身が面白いことを前提とすれば、俺は人気を出すためにそういう努力をすることには肯定的なんです。といっても、俺が投稿当初に意識していたのは投稿時間くらいですけど。2012年頃 だと『無職転生~異世界行ったら本気だす~』(以下、『無職転生』)が何時、『盾の勇者の成り上がり』が何時、『この素晴らしい世界に祝福を!』(以下、『このすば』)が何時……とお互い認識していて、2ちゃんねるのスレッドの話題が時間帯ごとに変わっていくのが面白かった。

丸山 俺は投稿先が「なろう」じゃなくて「Arcadia」だったから、当時からそういうことは意識していなかったな(笑)。

――そもそもおふたりがウェブ小説を書き始めた経緯は?

長月 最初は二次創作をやっていて、いつの間にか一次創作も、という感じですね。元々はラノベの新人賞に投稿していたんですけど、なかなか賞が取れなくて腐っていたときに、「なろう」に連載されて電撃文庫から発売された『魔法科高校の劣等生』(以下、『魔法科』)が話題になって。それで「これからはネットの小説が来るぞ!」と思って『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下、『リゼロ』)で参入したんです。結果、自分が思っていたより早く波が来ましたけど。

丸山 俺も二次創作を主に書いていたんだけど、一次創作を読んでガツンとくるものがなかったので「自分で書いてみようか」と。

――執筆にあたり、他の作品の分析はしましたか?

長月 ランキング上位作品は読みました。当時「なろう」の1位だった『魔法科』以外はほとんど異世界もので、「これが流行ってるんだ。自分で書くならどうしよう?」と。それで、単純に主人公が強い話を考えるのは苦手なので、不利な立場に置かれたヒロインを助けるために主人公が何回死んでも戻ってくる物語を書き始めました。あとタッグというかバディもので何かを勝ち抜いていく作品が好きだったので、そういう流れも意識していましたね。たとえば『Fate』もマスターとサーヴァントのペアで戦う話じゃないですか。

丸山 そのころ流行っていたのってどんなのだっけ? 2011年くらいだから主人公最強もの?

長月 いや、主人公最強ものはずっとあるでしょ?

丸山 でも『リゼロ』は最強ものじゃないじゃない。

長月 それは俺の好みの問題。主人公がまわりのやつより圧倒的に強くてなかなかピンチにならないと、話の起伏が作れないと思っちゃうから。

丸山 たしかにね。俺も書いていてよく悩むもの(笑)。

長月 『オーバーロード』(以下、『オバロ』)は主人公最強ものですもんね。

アインズ
アルベド

丸山 ただ俺は、小説は趣味で書くものだと思っていたので、長月さんとは違って研究は一切しなかったのよ。ほかのプロの作家の話を聞くと、すごい研究してる人もいるよね。だけどいくら「こういうのがうけるんだ」とわかっても、結局、好きなものじゃないと書けなくない?

長月 それはもちろん。でも『オバロ』はくがねさんが好きなものを書いて人気が出たんだからすごいですよね。

丸山 だから人生、運だよ、運(笑)。

――読者として思い出深い作品は?

長月 投稿開始前後に読んだヘロー天気さんの『異界の魔術士』ですね。ヘロー天気さんは『ワールド・カスタマイズ・クリエーター』や『スピリット・マイグレーション』も書いていますが、当時既に人気作品が複数あって有名でした。

丸山 私は『このすば』かな? あの会話のセンスは生まれ持ったもので、盗もうと思ってもできない。本人がいないところで褒めるのはシャクだけど(笑)。

「同期」のつながりと『いせかる』

――おふたりや『このすば』の暁なつめさんたちは仲がいいんですよね?

長月 2012、3年前後にデビューした作家同士はなんとなく「同期」だと思っていて、暁さんや『幼女戦記』のカルロ・ゼンさん、『無職転生』の理不尽な孫の手さんとかとは献本し合ったりしています。2015年頃まではチャットルームもあって、書籍化にあたって届いたイラストを見せ合ったりしていました。

丸山 そうね。それまで自分の頭の中にしかいなかったキャラクターがイラストになったときはすっげえ嬉しいよね。

長月 絵になったら嬉しいし、完成した本が届いたときは「やはり紙!」と思う。

――ウェブ出身でも紙が好きですか?

長月 俺は書籍版では「ページをめくったところに衝撃のセリフが来る」みたいな演出をやるんですけど、電子書籍だと読む側で文字の大きさが変えられてしまうからそれができないんですよ。「なろう」だとネットで読むことを前提にして送り手側で見せ方、読ませ方に工夫ができるんですけど。

丸山 ウェブだと文章をみっちり書くと読みづらかったりするから、そこは紙は紙、ウェブはウェブで考えるよね。

長月 「なろう」は改行少なめで書く人もいれば、セリフの中でも改行を多用する人もいるし、読ませ方も作家ごとに特徴が出ますよね。あと、紙の本と比べると物語全体の尺も1話ごとの尺も自由度が高いし。もちろん、さっきも言ったように今だと新規投稿作品が人気を獲得するにはある程度セオリーに則った細かい工夫が必要ですけど。

――『リゼロ』『オバロ』『このすば』『幼女戦記』はTVアニメ『異世界かるてっと』(『いせかる』)でコラボしていますが、やられてみていかがでしたか?

丸山 芦名みのる監督はすごいよ。それぞれの作品のキャラを本当にバランスよく立てて、みんな活躍させてるから。

長月 二次創作をやっていた人間からすると「こっちの作品を上げて、こっちを下げる」はやっちゃいけないと思っているんですけど、そういう上げ下げがない。「1話15分で30キャラ出す」「各話で各作品の主人公が必ずしゃべる」「作品ごとの台詞のワード数をほぼ揃える」を厳密にやってる。

丸山 職人技だよね。

長月 違う作家の作品を公式でクロスオーバーさせたアニメってなかったはずなので、新しい可能性を開いたと思います。異世界もの同士はひとつの異世界にまとめて飛ばせば作りやすいですけど、たとえば現代日本を舞台にした作品同士でも混ぜられるじゃないですか。

丸山 うん、たしかにね。悪役令嬢もののクロスオーバーとかやらないのかね?(笑)

――おふたりとも二次創作から入ったとのことでしたが、異世界もの自体が二次創作的なのかなと思ったのですが……。

長月 それはありますね。みんなが『ドラクエ』っぽい中世ヨーロッパ風異世界を共有していて情景が思い浮かべやすいから、読むのも書くのもラク。

丸山 そしてそういうものを好きな人がいっぱいいた。たとえて言うなら、素材としての豚肉はいっしょで、そこから作るのは生姜焼きでもトンカツでもいい。ただ、生姜焼きばっかりがお客さんから求められるようになって、美味いトンカツが埋もれるようになってしまうと個人的にはちょっと残念かな。最近は「なろう」のランキングを見ていると、昔と比べて同じような作品ばかりが上位に来ているような気がしていて。

長月 今は流行りのフォーマットを守っていないとなかなかランキングに入れないですけど、昔は「異世界」という共通項はありつつも、縛りはゆるくていろんなことができましたよね。

丸山 「なろう」は読者が作品に対する評価とブックマークでポイントを付けられるシステムだけど、2011、2年頃の「なろう」で俺は16000ポイントくらいを目指してたんだよ?

長月 2万ポイントあったら累計ランキングで100位以内に入ってたんじゃないかな。

丸山 今は累計1位の『転生したらスライムだった件』(以下、『転スラ』)が約60万、100位以内に入るには最低20万ポイント必要だから、『ドラゴンボール』並みにインフレしてる(笑)。昔と比べてそれだけ多く読者が来ているし、作品の数も増えて読む側が好みに合う作品を探す手間も増えたから、わかりやすい流行りに人気が固まっちゃうのもわかるんだけどね。ただ、まだ書籍化されていないポイントが少ないところに面白い作品がたくさん眠っているんじゃないかなと思っちゃう。

どこが好き? どこが楽しい?

――書き手として、異世界ものを書いていて楽しいところは?

長月 楽しいところ……わからない。今日も1時間半しか寝てない(遠い目)。

丸山 血反吐を吐くような思いでやっていることを楽しいと言えるのかと(笑)。

――大変失礼しました。読者としてはどんな異世界作品が好みですか?

丸山 そうだなあ……『オバロ』みたいな作品が好きですね。

――(笑)。長月さんは?

長月 『オバロ』みたいな作品が好きですね(笑)。

丸山 ちゃんと答えると、俺はラブコメ大好き。読んで「ニチャア」と笑うのが好きですね(笑)。

長月 俺はジャンルとかより読むきっかけが絵に左右されることが多いですね。

――投稿サイトでは絵が付いていないことも多いですが、書籍やマンガ版で読む?

長月 というか元々そんなに読んでいなくて。『リゼロ』を書くようになってからますます。有名タイトルは読んではいますけど、暇つぶしには読めない。気持ちが焦ってくるんです。

丸山 ほかのウェブ小説を読む時間があったら自分の作品を書く?

長月 そうね。でもマンガは俺の中では違うカテゴリだから、「なろう」作品もたとえば『ナイツ&マジック』(以下、『ナイツマ』)のコミカライズはすごくおもしろく読みました。

丸山 『ナイツマ』のマンガ版は俺も読んだけど、ロボットがよく描けてるよね。ただ俺はほかはマンガ版ではほとんど読んでないな。小説の書籍版よりマンガ版のほうが売れてる作品も多いみたいね?

長月 『転スラ』のマンガ版なんて売れ行きがやばかったらしいですね。アニメが放映された2018年にはすべてのコミックスの中で年間トップレベルで売れたと聞きました。

丸山 そうなんだ。俺、ウェブで小説はめっちゃ読んでるんだけどね。つい最近だと「なろう」に投稿されている『罔象の杜』という作品がおもしろかった。雰囲気あるのよ、これが。

――丸山さんは書籍化されたものも読みますか?

丸山 いや、何冊か買ったのよ。そしたら1巻を買ったのに2巻が出ないことが続いて「俺が悪かったの?」と思って、縁起をかつぐじゃないけど、買わなくなっちゃった(苦笑)。

長月 今は少しネットで人気が出たら青田買い気味にすぐ書籍化されますから、続きが出ない作品もざらにありますけど、俺らのころはまだ書籍化自体が少なかったから、1巻で終わるものはあまりなかったですよね。「ラノベ作家は生存率が低い」ってよく言われますけど、俺らの同期はけっこう生き残っているんです。

丸山 だからさっきも言ったけど、運だよ、運。時代がよかったのよ。

――「なろう」発でアニメ化された作品については観られますか?

長月 アニメも一通り観るんですけど、『リゼロ』より出来がよかったらどうしよう?とドキドキしながら観ています(笑)。「なろう」の流行りからちょっと遅れてアニメ化されるのがおもしろいですよね。

丸山 長月さんは『リゼロ』に関してアニメにしても他の展開にしても「俺にやらせろ」って出て行くじゃん。そこがすごいよね。俺は「小説は小説」「アニメはアニメ」と割り切ってお任せしちゃうから。

長月 性分としてそれができないんだよ。だってファンは『リゼロ』が好きだからソーシャルゲームのコラボシナリオとかに手を出すわけじゃない。そこで俺が監修しなかったことによってファンが納得できないものになってしまったら悲しいから。ファンがお金を出すものに関してはちゃんとやりたいんですよ。

共有ゆえの気楽さと無視できる自由さ

――改めて異世界ものの好きな所は?

長月 イメージ共有がしやすくて、インスタントに楽しめるところですかね。インスタントと言っても全然悪い意味ではなくて、みんなが手軽に食べられるハンバーガーとかを好きなのと同じで、前提知識なしでさっと読める気楽さがある。マンガやゲームに触れるなかで自然と理解してきたお約束を知っていれば、それ以上の前提知識はいらない。やり方がわかっているゲームを楽しむような感じで入っていけて、「自分でも書いてみようかな」と思える。

丸山 俺は「縛られない」ところ。たとえば現代ものを書こうとすると、どうしても現代の常識に縛られる。でも異世界ファンタジーならお約束の取捨選択も含めて、自分の好きな物語が作れる。

長月 中世ヨーロッパ風異世界のお約束を使わないという選択肢もありますもんね。『このすば』や『リゼロ』は「なろう」のテンプレをなぞっていないから「アンチなろう系」とも言われました。

丸山 『オバロ』は言われてないね。『幼女戦記』も言われてないか。

長月 『オバロ』は一応主人公最強ものだから。あと『幼女戦記』は別次元だから(笑)。

丸山 だけど『リゼロ』だって長月さんにしか書けない「別物」だよ。あれだけ売れたのに二次創作が少ないんだもの。

長月 二次創作だけじゃなくて、流行った作品って大概マネされるのに、『死に戻り』、異世界ループは流行らなかったからね。俺の中ではギャルゲーというかADV(アドベンチャーゲーム)の系譜を意識して書いているんだけど。

丸山 俺は長月さんには他の誰にも書けない我が道を突き進んでほしいけどね。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

長月 『オバロ』よろしくね!

丸山 『リゼロ』よろしくね!

長月 『このすば』よろしくね!

丸山 『幼女戦記』よろしくね!

――(笑)。

長月 少し真面目に言うと、異世界ものは数あれど、その中で自分が面白いと思ったものを書き続けた結果、俺たちは今があるので、みなさんも自分の好みに沿って掘るのもよし、自分で書くのもよし。俺たちの偏った意見は気にせず、好きに楽しんでください。

丸山 ……と俺が言っていたことにしておいてください(笑)。

〇著者プロフィール

ながつき・たっぺい●小説家。2012年より「小説家になろう」にて『Re:ゼロから始める異世界生活』を連載開始、14年より書籍化、16年にTVアニメ化、20年7月より2期が放送中。10月からはシリーズ構成・脚本を務めるTVアニメ『戦翼のシグルドリーヴァ』が放送予定。

まるやま・くがね●小説家。2010年に小説投稿サイト「Arcadia」にて代表作『オーバーロード』を連載開始、12年より書籍化。15年から3期にわたりTVアニメ化され、書籍版はシリーズ累計800万部を超えるヒット作に。

作品紹介:
『Re:ゼロから始める異世界生活』
長月達平
【原作小説】1~23 巻 MF文庫J 各640円(税別)
イラスト:大塚真一郎
【コミックス】
第一章(全2巻)KADOKAWA MFコミックスアライブ 524~543円(税別)
著:マツセダイチ
第二章(全5巻)スクウェア・エニックスビッグガンガンC 各571円(税別)
作画:楓月 誠
第三章(全11巻)KADOKAWA MFコミックスアライブ550~600円(税別)
著:マツセダイチ
第四章(1~2 巻)KADOKAWA MFコミックスアライブ 各600円(税別)
作画:花鶏ハルノ 構成:相川 有

コンビニからの帰り道、異世界へと召喚された少年・菜月昴。無力な少年が手にした唯一の力は、死して時間を巻き戻す『死に戻り』の能力。異世界で出会った少女、エミリアや仲間たちを救うため、少年は何度でも強大な力と過酷な運命に立ち向かっていく。

『オーバーロード』
丸山くがね 
【原作小説】1~14巻 KADOKAWA 1000~1200円(税別)
イラスト:so-bin
【コミックス】1~13巻 角川コミックス・エース 580円(税別)
著:深山フギン

仮想現実体感型オンラインゲーム《ユグドラシル》のサービス終了日、プレイヤーのモモンガは本拠地ナザリック地下大墳墓ごと未知の異世界へと転移。かつての仲間を探すため、意思を持って動き出したNPC(ノンプレイヤーキャラクター)たちとともに、異世界にその名を轟かすことを決意する。

取材・文:飯田一史

この記事で紹介した書籍ほか

Re:ゼロから始める異世界生活23 (MF文庫J)

著:
イラスト:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
9784040647302

オーバーロード14 滅国の魔女

著:
イラスト:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
9784047358850