「読みたかったら、読めばいい」自分の“好き”はつながっていく。声優・小林愛香の音楽活動と『あつかったら ぬげばいい』との共通点

文芸・カルチャー

更新日:2020/10/1

 スクールアイドルプロジェクト『ラブライブ! サンシャイン!!』(津島善子=ヨハネ役)で注目を集め、作品内ユニット・Aqoursのメンバーとしても活躍する小林愛香さん。保育士の免許を持ち、子どもたちに読み聞かせをした経験もある彼女の心をとらえて離さないヨシタケシンスケさんの絵本。最新絵本『あつかったら ぬげばいい』から読み取った大切なこととは?

あつかったら ぬげばいい
『あつかったら ぬげばいい』
ヨシタケシンスケ/白泉社)

――ヨシタケさんの新しい絵本、いかがでしたか?

小林愛香(以下、小林) 手にした瞬間、“わぁ、可愛い!”って思いました。言葉とイラストを包む各ページに施された枠のデザインが私はすごく好きで。しかも1ページ、1ページ、色が違う。掌にやさしく収まるような、小さな本のなかに、こだわりがいっぱいに詰まっている。ページをめくるたびにときめいていました。

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――右ページ⇒左ページで、「あつかったら⇒ぬげばいい」。問答みたいですよね。

小林 そうですよね。“当たり前でしょ”という気持ちから、ページをめくっていったのですが、読み終えたとき、心がふわっと軽くなる感じがあって。“当たり前”の視点をちょっと変えることで、世界は心地よく広がっていくんだなって。“そういうこともあるよね”って、気持ちを転換するための扉が開いたような心地がしました。

――お気に入りのページは?

小林 ちょうど音楽制作をしていたとき、音楽のチームの皆さんと一緒に読んでいたんですけれど、満場一致で、“これ、いいよね”って、みんなの心に響いたページがあるんです。「おとなでいるのにつかれたら⇒あしのうらをじめんからはなせばいい」というページ。“ぐさっ”という感じで心にきました。大人になると、足のうらを地面から離す機会って、日常からなくなっていたなぁって。そこで地面から足の裏を離して、ぶらぶらさせてみたんです。なんだかほっとした。大人だけではなく、子どもたちにも応用してほしいなと思いましたね。“こどもでいることにつかれたら”って。

――「なにもかもどうでもよくなってきたら」「はなしがおもしろくなかったら」……その先にある言葉の行くところは、“こうじゃなくちゃダメ”から離れた地点。“それでいいんだよね”って、心がほっこり緩んできますよね。

小林 しかも思ってもみない角度に行くんですよね。言われてみれば当たり前、と感じるところもあるので、実は自分も知っていたことなのかもしれません。“がんばらなくちゃ”って力が入り過ぎて、楽になる方を見ないふりをしているのかも? って。この絵本を読むと、心が軽くなっていくのは、“自分の心、ほんとは行きたい方があったよね?”って、気付かせてくれるからかもしれません。

――「じぶんのいばしょがなかったら⇒のはらにしきものをしけばいい」のページも、お気に入りだとか。

小林 “なければ、作っちゃえばいいよね”って、野原にマットを敷くお父さんは、ちょっとした秘密基地を作っているような感覚なのかなって想像して、楽しい気持ちになりました。私も、心がわーっとなったときはピクニックに行きたくなるので。

――ピクニック、お好きなんですか?

小林 すごく好きなんです。お弁当持って、カメラを手にして。マットとか、可愛いものを選んだりして、準備している時間もすごく楽しい。あ、この絵本も連れていきたい。きっと映えそう。

――小林さんのメジャーデビュー曲「NO LIFE CODE」は歌もPVも可愛くて、気分があがりますよね。“生き方のカタチ決めないで”という歌からのメッセージは、ヨシタケさんの作品のなかに流れるものと、どこか通じているなと感じました。

小林 そうかもしれません。生き方も、物事を見ていくときも、そこに何通りもの考え方がある方がいいなって思うんです。自分で選べた方が、私は好きなので。ヨシタケさんの作品は、そういう何通りもの可能性があるんだよ、ということを教えてくれる感じがしますよね。

――ご自身の音楽活動のテーマは“グラデーション”だとか。

小林 一見、通じていないような点が、すべて自分のなかではつながっていて、グラデーションになっているというのが、意味するところなんです。“この色”って決めてしまったら、薄めていくか、他の色を足すしかないけれど、グラデーションとして捉えたら、いろんな色になれるし、自分を決めつけずにいろんな可能性に飛び込んでいけるんじゃないかなって。音楽活動では、好きなこと、自分の思いなど、いろんなものを詰め込んでいるのですが、それは全部つながっている。私は保育士の免許を持っていたり、歌やダンスをしたり、そのひとつひとつはつながっていないものに見えるかもしれないけど、小林愛香のなかではグラデーションでつながっていて、こうして今日、絵本のお話ができることも、“つながっている”と感じられる。そういうことが私はすごくうれしいんです。

ちょっと疲れたとき、自然と手が伸びてしまうヨシタケ絵本

――ヨシタケさんの絵本との出会いは?

小林 『もう ぬげない』『なつみはなんにでもなれる』を本屋さんで見つけて、すごく可愛いなって、それからいろいろ読んでいくようになったのですけど、ふと思ったのが、“これって、子ども向けだけど、大人にも向けているのでは?”ということ。『それしか ないわけ ないでしょう』は、1ページのなかに、たくさんのことが描いてあって、“絵本、超えてるなぁ”と思った一冊でした。

――考え方ひとつで、楽しい未来が見えてくる絵本ですよね。

小林 日常のなかのマイナス部分をプラスに変える要素がすごく詰まっていて。この絵本が刊行されたとき、読者からおもしろアイデアを募集していたんです。自分のなかの「○○しかないわけないでしょう!?」⇒「○○してもいいじゃない!」を。それもすごくいいなと思いました。一冊の絵本をまんなかに、読者も一緒に、何か作ろうという感じが。絵本の可能性みたいなものも感じました。

――『つまんない つまんない』はいかがでしたか?

小林 みんな“面白いことしたいな”って思いますよね。でも面白いことと、つまんないことしかないのかって言われたら……。この絵本を読んで、“そっか!”って気付きました。どこを見ていいのかというくらい絵が詰まっているのも楽しい。人がたくさん描いてあるページでは、子どもたちに読み聞かせをするとき、クイズもできますよね。“挨拶している人は誰でしょう? 見つけられるかな?”とか。

――いつもどんなときにヨシタケさんの本を開きますか?

小林 ちょっと疲れたときが多いかも。“読むぞ!”という感じではなく、自然に手が伸びる感じ。手にとって、ぱらぱら、“あ、そうそう!”みたいな読み方をしていますね。ヨシタケさんの絵本は日常のなかで、すっと寄り添ってきてくれる。『ものは言いよう』から垣間見えるヨシタケさんご本人もそうですよね。読者の方からの100を超える質問に、すべてイラストを描いて答えていらっしゃる。こういうところも素適だなぁって思います。

“そうだよね”で終わってしまうところから世界が広がっていく

――保育士の免許をお持ちの小林さんですが、『あつかったら ぬげばいい』を読み聞かせするとしたら、どんなことをしてみたいですか?

小林 実は昨日、やってみたんです(笑)。保育士の読み聞かせではページをみんなの方に向けますが、この絵本は、子どもを膝に乗せて、同じ目線で読みたいなって思いました。読む方も、読んでもらう方も、同じタイミングで一緒に楽しむのがいいなって。

――保育を学ばれたことは、そうした発想にもつながっているんですね。それが今のお仕事につながっているところは?

小林 ファンクラブの工作コーナーで絵を描いたり、風鈴に絵付けをしてみたり、いろいろしています。物を作ることは、昔から好きだったんですけれど、今はファンの方と一緒に楽しんでいます。私が作っているのを見て、みなさんも一緒になって作ってくださって。それを見て、“あ、つながっているのかも”って思ったりしますね。

――声優、音楽活動をはじめ、そうして物を作っている視点が、ヨシタケさんの作品について語るお話にも表れていますよね。クリエイターの視点で捉えていらっしゃる。

小林 最近、自分で作ったり、みんなで一緒に物を作ったりする機会が多いんです。1からアイデアを出して、それが形になっていくのがすごく楽しいなぁと感じていて。それを形にして、みんなに届けたいんです。届いた先で、みんなも同じ気持ちになったら、うれしいなという思いでものづくりをしています。

――そんなクリエイターの視点から、ヨシタケさんの作品の“いいな”と思うところは?

小林 意外性です。「あつかったら⇒ぬげばいい」、“そうだよね”で、終わってしまうところから、こうして世界が広がっていく。これまで、こうした“当たり前”を一冊の絵本にしたものってなかったと思うんです。そして、その当たり前で、心がほっとすることは、読む側にとっても意外なことで。何度も読み返したくなるようなものが、ヨシタケさんの作品にはすごく多いなって思うんです。そのときの自分に当てはまらなくても、時間が経って読んだとき、“あぁ、たしかに”と、なることがすごく多い。『あつかったら ぬげばいい』も、“あぁ、たしかに”が、自分のなかで、どんどん増えていくと思うんです。だからこの先も、ずっと一緒にいたいなって。

――『あつかったら ぬげばいい』、おすすめのひと言を。

小林 読みたかったら 読めばいい、気になったら 読めばいい(笑)。

取材・文=河村道子 撮影=花村謙太朗
スタイリング=新田アキ ヘアメイク=田中陽子(Lila)

こばやし・あいか●2011年、TVアニメ『フリージング』のエンディングテーマ「君を守りたい」で歌手デビュー。スクールアイドルプロジェクト『ラブライブ! サンシャイン!!』の津島善子役を演じ、作品内ユニット・Aqoursのメンバーとしても活躍。Aqoursは2018年、NHK紅白歌合戦への出演を果たすなど、絶大なる人気を誇っている。2020年、シングル「NO LIFE CODE」でソロとしてメジャーデビュー。2020年10月23日(金)、初の配信ライブ「小林愛香 Live 2020 “NO LIFE CODE ON LINE MODE”」開催。10月10日(土)、10月11日(日)には、無観客有料生配信ライブ「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours ONLINE LoveLive! ~LOST WORLD~」を開催。