まさに知のダブルス格闘技!? 『群舞のペア碁』監修者・藤沢里菜さんに聞く、「ペア碁」の面白さ

マンガ

更新日:2021/6/25

 1対1の孤独な戦いが繰り広げられる、囲碁の世界。しかしそこに、まるで“ダブルス”のような形式で戦う競技がある。それが「ペア碁」だ。

 2組の男女ペアが、碁盤を挟んで向かい合う。パートナーとの相性や呼吸の合わせ方によっては、格上の相手を倒す可能性すら秘めている。ペア碁では、ペアたちの化学反応を楽しむこともできるのだ。

『群舞のペア碁』(高木ユーナ:漫画、藤沢里菜女流四冠:監修、公益財団法人日本ペア碁協会:協力/双葉社)は、そんなペア碁の世界を舞台にした、新感覚の囲碁マンガである。

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 主人公を務めるのはプロ棋士志望でありながら、極度のあがり症で勝利をつかめない16歳の男子高校生・群舞。しかし彼は、ペア碁の世界でなら輝けることを知る。幼馴染でストーカーのように群舞を愛するのぞみをパートナーに、群舞はどう成長していくのか――。

 本作はまだ開幕したばかり。今後、人気作になることが予想されるので、いまのうちから読んでおくことをオススメしたい。そこで本作の監修者を務める藤沢里菜さんに、本作の見どころやペア碁の面白さについて教えてもらった。このインタビューを機に、ぜひぜひ本作にどっぷりハマるべし。

(取材・文=五十嵐 大 写真=内海裕之)

「ペア碁」の対局中は、仲間とも相談禁止

――『群舞のペア碁』を読むまで、恥ずかしながら「ペア碁」について知りませんでした。あらためて、ペア碁とはどんな競技なのか教えていただけますか?

藤沢里菜さん(以下、藤沢):ペア碁というのは、2対2で戦う囲碁です。テニスや卓球のダブルスをイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。男女でペアを組み、交互に碁を打っていきます。

――対局中に「次の一手」を相談できるんですか?

藤沢:いえ、対局中に相談することは禁止されているんです。だから、戦っている相手だけでなく、隣にいる仲間の心を読み取る力が求められます。「わたしのペアは、どうしてここに打ったんだろう?」と常に考えながら戦うんです。

――ペアとの相性も重要な気がします。

藤沢:特にペアを組む相手が自分よりも格上の人だった場合、どうしても萎縮しやすくなります。そんなときにミスをすると、気まずい空気が流れてしまうこともありますし。だからこそ、なにがあっても動じない人間力が試される競技ですね。

 ただ、1対1の勝負よりも安心感があります。隣に味方がいてくれるだけで気持ちが楽になるんです。また、自分の想像にはなかったような着想を間近で見るチャンスでもあるので、「こういう手があったのか!」と勉強になる瞬間も多々あります。

 棋士によって、戦い方「棋風」が異なるんです。攻撃的な碁を打つ人もいれば、守りを主体とする棋風の人もいる。そういった違いを間近で体感できるのがペア碁なんです。

群舞ものぞみも、ペア碁を通して成長していく

――「ペア碁では人間力が試される」とのことですが、『群舞のペア碁』に登場するキャラクターは、唯一無二の人間力を持っているといっても過言ではないくらい個性的ですよね。特に主人公である群舞とのぞみ。このふたりの魅力を教えてください。

藤沢:群舞は他者とコミュニケーションを取るのがとにかく苦手な男の子です。でも、ペア碁と出合ったことで少しずつ成長していきます。不器用だけどとてもまっすぐで、かわいい子ですね。ペア碁を通して友達も増えていきますし、今後が楽しみ。見守っていきたいと思います。

群舞のペア碁
(※1話より)

 一方でのぞみちゃんは、群舞のことが好きすぎて「この子、大丈夫かな?」と思わせられる子です(笑)。でも、彼女もまたペア碁のおかげで変化していきます。群舞のことを好きでい続けるのかも含めて、どう変化していくのかが楽しみな子です。

群舞のペア碁
(※3話より)

――群舞はメンタル的に弱い少年ですが、ペア碁になると途端に強くなります。

藤沢:のぞみちゃんがペアとして隣に座っていてくれる、その安心感があるんだと思います。自分をよく知っている存在が近くにいることで、のびのびと碁を打つことができているのかな、と。

――『群舞のペア碁』を読むと、囲碁におけるメンタルの重要性がわかります。

藤沢:メンタルは本当に大事なんです。気持ちが弱っていると、プレー自体も弱くなってしまう。もちろん、プレッシャーは計り知れないのですが、そこに打ち勝つメンタルが求められるんです。群舞はそこがちょっと弱い少年なんだと思います。でも、代わりにメンタルが超強いのぞみちゃんがペアになったことで、救われているのかもしれませんね。

――ちなみに、藤沢さんもメンタルが原因で負けてしまった経験はありますか?

藤沢:たくさんありますよ! 棋士ならきっと、みんな経験していると思います。そこを反省して、少しずつメンタルが鍛えられていくんです。最初から強い人なんていません。何度も失敗し、負けて、その経験を無駄にせず積み重ねていくことが大事だと思います。

囲碁のおかげで、温かい仲間と出会えた

――『群舞のペア碁』を監修する上で気を配っていることはありますか?

藤沢:高木ユーナ先生が囲碁についてたくさん勉強してくださっているので、監修者としての仕事があまりないくらいなんです(笑)。囲碁の世界には「トビ」や「ノビ」などの専門用語があるんですが、そういう細かな知識も身につけてくださったので。もちろん、それでもわからない囲碁用語があった場合は相談に乗っています。でも、基本的には高木先生が囲碁の魅力をしっかりと伝えてくださっていますね。

 1話が完成するまでの流れとしては、まずネームが完成したら「どこか変なところはありませんか?」とデータが送られてきます。チェック後、オンライン会議でフィードバックします。それを高木先生が修正し、あらためて最終確認をします。

――いわゆる「最初の読者」でもありますが、マンガの制作に携わってみていかがですか?

藤沢:なかなか経験できないことですし、誰よりも先に最新話が読めるのは役得ですよね。ネームという単語も知らなかったわたしがマンガの監修をするなんて、本当に貴重でありがたいです。

――そもそもマンガは読まれるタイプですか?

藤沢:子どもの頃は『名探偵コナン』や『クレヨンしんちゃん』を読んでいました。それと、プロ棋士になってからハマったのは『ヒカルの碁』。自分が生きる世界とつながっている作品だったのでどうしても気になっていたんです。読んでみたら納得しましたし、大ヒットするのも当然なくらい面白かったですね。

――『ヒカルの碁』がヒットした当時、囲碁に興味を持つ子どもたちが増えました。そんな風に『群舞のペア碁』に影響されて、囲碁を始めようとする子どもたちが出てくるかもしれませんね。

藤沢:そうですね! 『群舞のペア碁』を通して、囲碁の魅力を知ってもらいたいですし、これを機に興味が湧いてきたら実際に触れてみてほしい。人間として成長できる競技なので、面白いんじゃないかと思います。いまはアプリを通じて気軽にチャレンジもできるので、ぜひ試してもらいたいです!

――藤沢さん自身、囲碁のおかげで成長できたと実感することはありましたか?

藤沢:わたしは父も祖父もプロ棋士という囲碁一家に生まれて、6歳でこの世界に飛び込んだんです。それから15年以上、囲碁を続けています。だから、「囲碁をやっていない自分」がもう想像できないんです。どこでどんな風に成長したのか、変わったのか、正直わからないくらいで。

 でも、囲碁と関わってきた中で、人の温かさを知る場面は多かったんです。プロ棋士を目指すために通っていた道場では良い仲間たちと出会いました。同じ夢に向かう仲間と出会うのって、なかなか難しいじゃないですか。幼い頃なら尚更。みんなライバルであり、仲間でもある。その子たちとはいまだにつながっているんです。囲碁ではなく別の道に進んでも繋がっている子もいます。そういう子ともいまだに連絡を取り合っているんです。

――群舞にもそういう仲間ができるといいですよね。

藤沢:たしかに! いまはのぞみちゃんが隣にいますけど、それ以外にも大切な仲間ができるといいですよね。

『群舞のペア碁』は囲碁の面白さだけじゃなく、キャラクターがどう成長していくのかが見どころになっている作品です。その中でもやはり一番気になるのは、群舞の成長でしょう。彼がペア碁と出合ったことで、どんな風に変わっていくのか。ぜひ見届けてほしいと思います。

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