樹木希林さんは「チャーミング」一番近かった友人・浅田美代子さんが語ったふたりの関係

文芸・カルチャー

更新日:2021/10/19

ひとりじめ (文春e-book)

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:

 樹木希林さんが亡くなって3年。このほど、希林さんの大の仲良しだった女優の浅田美代子さんが、希林さんとの思い出と自らの人生を綴ったエッセイ『ひとりじめ』(文藝春秋)を出版された。希林さんへの思い、年齢のこと、生き方のこと…出版に際し自然体の生き方が魅力的な浅田さんにお話をうかがった。

(取材・文=荒井理恵 撮影=下林彩子)

チャーミングだった希林さんを伝えたい

――お友だちの林真理子さんと中園ミホさんと元編集者の林淳子さんに本書の執筆を勧められたそうですね。

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浅田美代子氏(以下、浅田):ずっと希林さんから「私の語り部になってね」と言われていたんですが、私は本を書いたこともないし、インタビューなんかでお話ししていければいいかと思ってもいたんですね。そしたら3人にたまたま背中を押してもらって、ふと「そうだな」と。

ひとりじめ
『ひとりじめ』(浅田美代子/文藝春秋)

――希林さんが亡くなって3年が経ちますが、その年月で言葉にできる状況になったのでしょうか?

浅田:そろそろ振り返ってみようかな、と。それであらためて考えてみたら、本当に節々に希林さんがいてくれてたんだと気がつきましたし、やっぱりそれは書き留めたいと思ったんです。あとは自分の年齢も関係ありますね。希林さんが乳がんになった63歳は超えたし、うちの母が急性リンパ性白血病になった68歳にはあと3年だし、ここがけじめかなと。

――思い出す作業はしんどかったですか?

浅田:しんどいときもあって、やっぱり何回も泣きました。でも思い出すことで、また希林さんに会えたような気にもなって。こうやってお話ししていると、「こんなこともあったのに書いてない!」なんて、またどんどん思い出しちゃいます(笑)。

――本を通じて、希林さんのどんなところが伝わればいいなと思われますか?

浅田:希林さんが亡くなってからいろいろな本が出て、今はどこか「神様」のようにあがめられてる感じがありますよね。確かにそういう方なんですが、私の知っている希林さんはそうではなくて、すごくかわいくてチャーミングな人だったんです。ミーハーなところもあるし、「すごい人!」っていうばかりじゃない希林さんという「人」が伝わるといいな、と。タイトルの『ひとりじめ』は、「私が『ひとりじめ』させてもらった時間」っていう意味なんですけど、ちょっと図々しいかな~と悩みましたが、だからといって『希林さんと過ごした日々』とか、そういうのもへんなので。

――すごくいいと思います。こういう稀有な関係自体が、とてもうらやましいです。

浅田:希林さんとは私が16歳の時、テレビドラマ『時間ですよ』のオーディションからのおつきあいですが、最初はこわい感じでめんどくさそうな人っていう印象もあったんです。それでも私の中には「この人、すごく面白い!」っていうのがあって、なぜか引き寄せられて。まだ子どもだったから、いつも希林さんのそばにいたし、希林さんも希林さんで「みよちゅわん~」とか言って面白がってくれてましたね。ちょうど年齢が13歳差っていう、近くもないし、親子ほど離れてるわけでもないっていうのもよかったのかもしれません。

「いい関係」の秘訣は気を遣わないこと

――どんなところがお互いにひかれあったとかあるんでしょうか?

浅田:お互い嘘はまったくなかった。気取ることもなかったし、お互いが持っている「毒」みたいなものもわかってた気はしますね。気がついたら近くにいたし、ずっと一緒にいたっていう感じで。だからどうやって希林さんと仲良くなったのかって聞かれると、すごく難しいんです。

――逆に「関係を続ける」のも大変では? 距離を意識したりしましたか?

浅田:家族よりも一緒にいる時間が多くて、結婚したときもいろいろ相談にのってくれて、でも本当にいざ結婚して家に入るとなったら、「ちゃんとがんばんなさいよ」と送り出してくれて、希林さんはちょっと引いたんですよね。それから先は芸能界の風を吹かせちゃいけないと思ったのだと思います。もちろん全然会わないとか連絡しないとかではないですが、そういう時間はありました。でも出戻ってきたら、「ああハイハイ、帰ってきたのね」みたいな感じで、前と同じように(笑)。

――「心地よい関係」をキープするには何が大事だと思いますか?

浅田:そんなに気を遣わないことかな。たぶん希林さんに気を遣う人はいっぱいいたかもしれないけれど、私は言いたいことが言えていましたから。本にも書きましたけど、たとえばバリ島旅行に希林さんが賞味期限ギリギリのレトルト食品を持ってきたときは、「あのさぁ、ほんとさぁ、食べりゃいいってもんじゃないんだからさぁ」って言ったら、「そうだね、ごめんごめん。どっか行こうか」って。あとで、「あのとき怒られたよねえ、みよちゃんに」って面白おかしく人に言ってましたけどね(笑)。

――浅田さんにはたくさん女友達がいますが、希林さんの存在はどう違いますか?

浅田:やっぱり面白かったですね。言うことも面白いし、そばにいるだけでとにかく面白かった。映画もよく行きましたよ。「チケットもらったから行かない?」って言うので一緒に行くと、「私はシルバーだから」ってもらったチケットを私にくれるんです。で、帰りはなんか食べにいって、あーだこーだ言うのも楽しかった。同じ職業というのもあるけれど、ほかの人には言えないようなことが言い合えて、それがすごく気持ちよかった。

――「悪口」も言える相手って大事ですよね(笑)。

浅田:そう! 楽しいんですよ。人によっては「ああいうふうに言ってたよ、浅田さん」みたいに伝えられてしまうこともあるわけで、希林さんとはそんなの一切考えないで済んだ。同じ役者の仕事をやってるから言えることもあるし、お互い言いたいことを言えるのはほんとに貴重でしたね。

ポジティブエイジングは希林さんゆずり

――希林さんが残してくれたことで大事にしていることはありますか?

浅田:一番大きいのは「普通でいなさい」ということ。芸能人だから偉いってことはなくて、普通の人を演じるんだから普通でいる。うちの母の教えもそうだったんで、その考え方はすごく大きくありますね。

――歳をとることにポジティブなのも素敵です!

浅田:実は希林さんのおかげなんです。希林さんがいなかったら、私もみんなやってるからってボトックスを試したりいろいろやっていた可能性はありますね。でも、希林さんが逐一「あの子みてごらん、あんなパンパンになっちゃって」とか言ってくるから、「確かに…」って思うようになって。希林さんは「エステだってやめろ!」くらいな勢いだったんですよ。アイロンがかかったナプキンをわざとくしゃくしゃにして、「ほら、こんなにしわしわになるんだよ。エステってこういうことじゃない?」とか言って。なんで「エステくらいはやる…」って言ってました(笑)。

――なるほど、希林さん譲りのポジティブエイジングなんですね。

浅田:「歳をとるっていうのはすごく楽しいんだよ」って教えてくれたのは、たぶん希林さん。50歳になる前とかすごく嫌で、でも意外と50になっちゃうとよくなって、でも55くらいになるとまた年齢が気になったりもしましたが、清潔っぽくて、身体も元気であればいいんじゃないかなって思えるようになりましたね。希林さんは「あら、こんなしわができたわー」とかって、老化を面白がるほうがいいとも言ってました。結局、一箇所きれいにすると、ちょっと矛盾が出てくるでしょ。ここはパンパンなのに、ここは? みたいなのがどうしても出てきちゃう。あれはよくないなって思います。

いまはひとりが楽。でも生き方は決めてかからない

――「ひとりで生きる」もこの本の中でキーワードになっていますね。

浅田:やっぱりひとりだと勝手にできるじゃないですか、なんでも。だからそっちのほうが今の私には楽なんですよね。たとえば誰かと一緒に住んでいると、私はものすごく翌朝早い予定があっても相手が深夜に帰ってきたら「おかえり。お茶でも飲む?」ってやっちゃって、次の日「ああ、もう寝不足だー」って後悔するタイプ。希林さんとは「週末婚みたいなのがいいんじゃない」「それだったらいいかもね」なんて話もしてましたが、1回結婚も経験してますし、他人と住むのは結構大変でもう無理かな。やっぱりめんどくさいし、「楽」が勝っちゃっている感じです。

――一方、希林さんは「つがい」を推奨されてましたね。

浅田:惚れた腫れたの関係じゃなくても、歳をとって一緒にお茶を飲みながら、一緒にしゃべったりできる人、そういうおだやかな感じの関係の人がいたほうがいいよって言ってましたね。それはわかるような気がするんですが…今はいらないかな。だって意外と毎日忙しいし。犬も今は3匹ですが、動物愛護活動をしているとまたくるかもしれないし。でもきっと「ひとりはいやだ」と思ったときは遅いんでしょうね。もちろん不安はありますよ。もしもコロナにかかって自宅療養になったら、ほんとに死んじゃうかもしれないとか考えますから。

――「どうなるかわからない」っていうゆらぎの中で生きる感じなんですね。

浅田:そんなに決めてかかってないですね。そのときにそうなっちゃったらそうなっちゃうし、それでいいと思うんですよ。「ひとりで生きるんだ!」とか「絶対結婚するんだ!」とか考えがちかもしれないけど、それは流れとか縁とか運であるものであって、そのとき考えればいいんじゃないって思いますね。

大事な人の「死」とは生涯つきあえばいい

――身近な人の死をどう受け入れるか悩んでいる方も多いと思いますが、あとがきに「大切な人の死は乗り越えるものではなく、生涯つきあっていくもの」とあったのも印象的でした。

浅田:亡くなったから忘れようとか、そういうことではないような気がするんです。「一緒に生きていく」ものなんじゃないかと。母も亡くなりましたがずっと心の中で思っていますし、いつもなんかあると「希林さんならなんて言うかな」って必ず思います。こうやって本は書きましたけど、いまだに希林さんからの留守電メッセージは消せないままで、たまに聞いちゃったりもしています。なんてことはない内容だけど絶対に消せない。実はスマホを替えるとこれが消えるんじゃないかとすごく心配で、だから実はいろんなことがそのままなんです。まだ3年だし、この先もずっと持っていくんだろうと思います。

――無理にきれいにしようとしすぎなくていいんですよね。

浅田:しなくていいと思う。私もずっと背負っていくと思う。亡くなった方って思い出してくれると喜ぶっていうし、今は希林さんの話をしているし、きっと希林さんもここにいらっしゃってると思います。

――そんな気持ちの揺れが正直に伝わるからか、本はしみじみよかったです。

浅田:うれしいな、そう言ってもらえて。もっとこう書けたんじゃないかとか、いろいろ後半になるほど出てきてしまって、最後はたくさん加筆したんです。それで大幅に入稿が遅れて「今日、何時までです!」って編集さんに迫られて、「ちょっと待ってて!」ってねばって…。最後はみんな悩むみたいですけど、あんまり悩んでるとオリンピックの開会式みたいになっちゃうよね、ってあきらめました(笑)。ほんとはまだまだ書きたいことがいっぱいある気がするけれど、このくらいでね。

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