元ネタは格闘マンガ! 「世界最強の探偵決定戦」が幕を開ける!? 名探偵だらけの超贅沢ミステリ『推理大戦』《似鳥鶏さんインタビュー》

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/8

推理大戦

著:
出版社:
講談社
発売日:
似鳥鶏氏

 人気ミステリ作家8名(五十嵐律人、三津田信三、潮谷験、似鳥鶏、周木律、麻耶雄嵩、東川篤哉、真下みこと)の新作を連続刊行する講談社の「さあ、どんでん返しだ。」キャンペーン。第4弾として刊行されたのは、似鳥鶏さんの『推理大戦』(講談社)です。世界各国から集った超人的な名探偵4人が「聖遺物」を手に入れるため推理ゲームに参加する、という本格ミステリファン大興奮の一作。作者の似鳥さんにインタビューしました。

(取材・文=朝宮運河 写真=興村憲彦)


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推理大戦
『推理大戦』(似鳥鶏/講談社)

――似鳥さんの新作『推理大戦』は、世界の名探偵4人が貴重な聖遺物をめぐって頭脳戦を繰り広げるという設定の長編です。この胸躍るようなアイデアは一体どこから?

似鳥鶏さん(以下、似鳥):木多康昭先生の『喧嘩稼業』というマンガをご存じですか? 最強の格闘家16人がトーナメントで戦って誰が最強かを決めるという格闘マンガです。私は作家の青崎有吾さんに教えてもらって、これはすごい、とはまったんです。作家というのはすぐに影響を受ける生き物なので、「これをミステリでできないか」と考えたんですよ。どんな事件も一瞬で解決できる超人的名探偵が複数出てきて、頭脳戦を繰り広げたら面白いんじゃないかと。

――なるほど、格闘マンガが元ネタでしたか。しかし思いついても実現するのは大変ですよね。

似鳥:元ネタの『喧嘩稼業』は全員日本人なんですけど、世界中から集まった方がより“最強感”が出るので、そこは妥協せずにがんばりました。単体でメインを張れる名探偵が4人も出てくる。単純計算でいつもの4倍はコストがかかっています。担当さんにも「口で言うのは簡単ですけど、本当にできるんですか?」と心配されてしまって。ただ私がミステリ作家として誇れるものがあるとすれば「物量」だろうなと。大量のトリック、大量の推理を考えるのは得意な方なので、なんとかなるだろうという目算もありました。まあ、めちゃくちゃ大変だったので、しばらくこの手のものは書きたくないですけど……(苦笑)。

――前半で名探偵4人のキャラクターを紹介し、後半で決勝戦にあたる「聖遺物争奪ゲーム」が描かれるという構成ですが、前半4章がいずれも短編ミステリとして充実していますね。

似鳥:ほどほどの探偵が集まっても盛り上がらないわけで、前半から出し惜しみせずにネタを注ぎ込んでいます。トリックにしてもそうですが、探偵の能力にしても読者が想定している名探偵よりもふたまわりくらいすごい。映像的記憶くらいはたしなみとして全員身につけている、というレベルで書いています。「僕の考えた最強の探偵」が何パターンも書けて楽しかったです。

――第1章の舞台はアメリカ、ロサンゼルス郊外。FBIの捜査にも協力している少女シャーロット・パウラ・ティンバーレイクの特異な能力が、不可能犯罪の解決とともに描かれます。

似鳥:4人の名探偵が並んだ時にできるだけ凸凹に見えてほしいので、キャラクターの属性が重ならないように意識しています。シャーロットは絵的にも面白いですよね。女の子がタブレットやパソコン、ロボットに囲まれてFBIの捜査に協力しているというのが。前半の4章では探偵のすごさを印象づけつつ、各探偵がなぜ聖遺物争奪ゲームに参戦するかも説明しないといけないんです。我ながらややこしいことをよくやっています。

――第2章に登場するのはウクライナの「クロックアップ探偵」ボグダン・ユーリエヴィチ・コルニエンコ。第1章とは文体もトーンもがらっと変えていらっしゃいますね。

似鳥:そうですね。前半では各探偵の出身国の文学作品を模写することで、章ごとのトーンを変えているんです。1章のアメリカや3章の日本はまあ楽でしたけど、ウクライナと4章のブラジルが大変だった……! ついロシア文学っぽく書いてしまいがちですが、ロシアとの国際関係を考慮するとウクライナをロシア文学っぽく書くのは避けるべきことなんですね。資料を取り寄せてなんとかウクライナ文学風の文体を作り上げました。

――3章の舞台は日本。警察犬の訓練士・高崎満里愛。「完全無欠の情報収集能力と犯行状況の再現能力」を備えた彼女は、関西弁でボケ続ける愉快な人物です。

似鳥:満里愛に限らず、名探偵って基本的にはボケ担当だと思うんですよ。名探偵が突拍子もないことを言って、周囲がツッコミを入れる。ミステリは基本的にはその繰り返しです。後半の決勝戦ではボケ担当が4人も出てくるのでもう大変ですよ(笑)。書いていて意識したのは、あまり暗いトーンにはしないこと。並外れた能力のせいで不幸な人生を送っている、という名探偵を出しても、私の読者は喜ばないだろうと思うんです。

――4章のマテウス・リベイロはブラジル連邦共和国出身の少年。嘘を100パーセント見抜くという彼の能力はほとんど無敵ですね。

似鳥:分かりやすく最強感がありますよね。マテウスは書くのが面倒なんです。最初から犯人を特定できる能力者なので、あっという間に謎を解いてしまう。できるだけそのタイミングを後ろにずらす理屈を考えないといけないので、自分で考えておきながら後悔しました。サンパウロにも行ったことがないので、書籍とネット資料のお世話になっています。サンパウロ在住の方のブログなどが参考になりました。

――4人が北海道に集結し、いよいよ後半ではゲームが開幕します。決戦の舞台を北海道にされたのはなぜですか。

似鳥:北海道はとてつもなく広いので、とんでもないイベントを起こしても近隣住人の目に触れる心配がないだろう、というのがひとつ。デビュー当時北海道に住んでいたので、いつかは北海道を舞台にしたミステリを書きたいとも思っていました。それも札幌市街地ではなく、田舎を舞台にしたものが面白いかなと。不用意に雪に飛び込むと消火栓に激突するとか、北海道あるあるネタをいくつも書けたのは楽しかったです。

――4人の名探偵はある不可解な殺人事件の謎に挑むことになります。説得力のある推理が次々に披露され、それが意外な角度から否定されていく。よくぞこんなに複数の解決編を思いつくものだと感心しました。

似鳥:ミステリで一番美味しいのは謎解きシーンなわけですが、この小説はほぼ全編謎解きシーンなんですよ。後半の決勝戦なんて常に誰かが謎解きをしています。彼らは全員最強ですから、その推理に説得力がなくてはいけない。いわゆる「捨て推理」であっても、それで作品1本書けるくらいのクオリティが必要なんです。ちょっと他では考えられないくらい、贅沢な作りをしていますね。

――集まった探偵同士がぎすぎすしていないのもいいですね。熾烈な知恵比べは、あくまでユーモラスな雰囲気の中で展開していきます。

似鳥:自分の才能に絶対の自信があるから安心していられるし、他人のすごさも素直に認められる。現実に世界トップクラスの才能が集まったとしても、おそらくこんな感じだろうと思います。

――最強の推理が積み重ねられた先に、あっと驚く真相が待ち受ける。まさに「どんでん返し」キャンペーンにふさわしい一作です。

似鳥:読者がこうじゃないかと予想するさらに上を書くのが作家の仕事ですから。どうぞびっくりしてください、という感じですね。ただ後出しじゃんけんにならないよう、フェアネスには心を砕いています。三人称の叙述だけでなく、一人称の叙述でも嘘を書かない、というところまで徹底していますから。ラストの大ネタにしても、可能性を潰していけば推理できないこともないと思います。挑戦できる人はしてみてください。もちろん細かいロジックを追わなくても、手品のように楽しんでもらえると思います。

――講談社の「さあ、どんでん返しだ。」キャンペーンが好評ですが、似鳥さんはどんでん返しのある作品はお好きですか。

似鳥:好きですね。「ラスト1行の衝撃」が決まった作品は拍手したくなります。よくぞ上手く騙してくれたなと。考えてみると本格ミステリの書き手は意地が悪いですが、読み手は包容力がありますよね。騙されて喜んでいるわけですから(笑)。『推理大戦』でもちゃんとひっくり返しますので、楽しく騙されてほしいですね。

――なるほど、騙される楽しみですか。ではこれから『推理大戦』を手にする読者にメッセージを。

似鳥:ミステリ界広しといえども、日本でこれを書けるのは私くらいでしょう。嘘だと思うならやってみてください。めちゃくちゃ大変ですから。そのくらいの意気込みで書いた作品です。時間も手間も段違いにかかっている勝負作なので、ぜひ読んでいただきたいと思います。

――おすすめのどんでん返し作品をいくつかあげていただけますか。

似鳥:映画では内田けんじ監督の『アフタースクール』です。前半がすべて伏線、後半がすべて解決編という構成の作品で、あらためて見返すと前半の台詞がすべてダブルミーニングになっている。何度観ても驚ける作品ですね。

 小説だと筒井康隆先生の『ロートレック荘事件』。あれこそどんでん返し中のどんでん返し。ネタ自体は思いつくものだと思うんですが、普通は書こうとは思いません。それを尋常じゃない技術力で成し遂げてしまった筒井先生は空恐ろしいなと。この手の作品はとにかく読者をびっくりさせてやろうという作者の稚気が感じられて、読んでいて楽しいですよね。

――ありがとうございます! 最後に次回このインタビューに登場される周木律さんにメッセージをお願いします。

似鳥:小説でも映画でも後半になるほど盛り上がるものなので、後半に登場される作家さんはきっと僕より面白い話をしてくださると思っています。周木さんも面白い話をたくさんしてくださいますよね、と要らぬプレッシャーをかけておきましょうか(笑)。次のインタビューを読ませてもらうのが楽しみです。

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