ちょっと贅沢に“おうち時間”を過ごすなら「赤兎馬」を。きっかけはネーミング。小説家・道尾秀介さんインタビュー

文芸・カルチャー

PR更新日:2021/10/28

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 コロナで増えた「家飲み」も、豊かな実りがあふれる秋はお酒もグンと美味しく感じられ、ますます楽しくなってくる。さらに秋といえば「読書の秋」。家だからこそ「お気に入りの本」をお供に、お酒を静かに楽しむのも悪くない。さてそんな秋の夜長、お酒にはどんな本が似合うのだろう。日頃から鹿児島の芋焼酎「薩州 赤兎馬」(薩州濵田屋)を愛飲しているという直木賞作家の道尾秀介さんに、お酒に合う本について教えていただいた。

(取材・文=荒井理恵 撮影=花村謙太朗)

好きなおつまみを作りながら、気分で楽しむ至福の家飲みタイム

――道尾さんはお酒をよく飲まれるようですが、家飲みは結構されますか?

道尾秀介(以下、道尾):お酒は好きでよく飲みにいっていましたが、やはりコロナでこの2年は家飲みが増えましたね。僕は会社勤めしていた頃と同じように朝から夕方まで仕事をしていて、お酒が夕飯みたいな感じなんです。筆が乱れてくるので1日に原稿用紙10枚書いたら終わりと決めていて、早く終わってしまったら暗くなるまで別の仕事をした後に、おつまみを作るのが好きなんで、まず糠漬けを切って一杯やりながら次のおつまみを作って食べてまた作って…みたいな感じです。

――その日に飲む酒はどういう気分で決めているんですか?

道尾:やっぱり食べ物ですね。何を食べたいかから考えてそれに合うお酒を決めることが多い。近所で美味しいお刺身を買ってきたり、干物を買ってきたり、和食のときはよく焼酎をよく飲みます。何を飲みたいかで食べ物を決めるときもありますけど。

――鹿児島の芋焼酎「赤兎馬」を日頃から愛飲されているそうですね。

道尾:好きなんですよ。お店で見かけると必ず飲んでいますね。出会いも飲み屋さんで、ネーミングがすごくかっこいいのにひかれました。僕はスコッチウィスキーが好きなんですけど、「赤兎馬」ってどこかスコッチに通じるものがあるんですよね。アタックが割としっかりしているのに、飲み口がまろやかで。料理にも合いますし。糠漬けはもちろん、豆苗とホルモンの炒め物なんかと合わせるのもオススメです。意外にサッパリしているので、ホルモンの脂が洗い流されるんです。

――焼酎にもいろいろありますが、特に「赤兎馬」のどんなところが魅力なんでしょう?

道尾:特に家で飲むときは、絶対にボトルのかっこいいものがいいんですよね。その点、「赤兎馬」はとにかくかっこいいし、飲みながらボトルを見ると「いかにも日本のお酒を飲んでます!」って感じになるのがいい。僕は部屋だとグラス3つにボトル3本を並べて飲み比べをすることもあります。お店ではなかなかできませんけど、焼酎の他にもワインとかウィスキーとか種類の違うお酒をいれて「このおつまみにはこれ、このおつまみにはこれ」って。この自由が家飲みの一番の楽しみですね。

――グラスもこだわるんですか?

道尾:割といただきものが多いんですが、お酒によってコレって決めています。まあ、どんなもので飲んでも味自体は変わらないんでしょうけど、ただ味わいって香りや味だけじゃないですからね。基本的に部屋ではひとりで飲みますから、そういうこだわりもいろいろ楽しめます。

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お酒に合わせて読みたいおすすめの2冊

――道尾さんが日頃お酒のお供にされている本のご紹介をお願いします。

道尾:はい。まず1冊目は爆笑問題の太田光さんの『芸人人語』(朝日新聞出版)。この本は太田さんらしい一風変わった視点で世の中を斬っていくというエッセイ集です。爆笑問題が好きで、ラジオもずっと聴いて、ネタもラジオネームで投稿し続けていますが、なかなか採用されません(笑)。ラジオの太田さんはテレビより言いたいことを言っているイメージですが、この本はラジオに近い感じですね。飲みながらABEMAの討論番組なんかもよく見ますが、それと似通ったところもある。仕事柄、日中はひたすらフィクションの世界にいるので、仕事が終わったらリアルな世の中のことを知りたいという気持ちがあるんです。それも、ただニュースをインプットするんじゃなく、人によって違う切り口を味わいたいっていう。

――「リアルな世界に戻ってくるための本」みたいな感じでしょうか?

道尾:うーん、僕はもう作家になって17年で、むしろフィクションのほうが「戻っていく場所」のイメージです。「現実の世界」は冒険するような感じで味わって、朝になったらホームであるフィクションの世界に戻っていく。もちろんフィクションは現実と地続きでなければいけないから、一番大事なのは生身の人間と深く付き合うことですけど、こういう本を読むこともフィクションの世界をリアルにするのに役立ちます。

――もう一冊は鬼海弘雄さんの『世間のひと』(筑摩書房)ですね。

道尾:写真家の鬼海さんが浅草寺の前で40年間人を撮り続けたという写真集なんですが、鬼海さんは名文家でもあるのでエッセイもはさまれています。「存在感に溢れた人々を、よりいっそう恰好良く、まるで舞台に立つ主人公のように撮りたい」とエッセイに書かれていますが、写真を見るとほんとにそうなんです。タイトルも面白くて、「夏はパジャマが楽だという老人」とか「サロンパスのにおいのする男」とか。ものすごく想像力を刺激されます。もう何回も読んでいるので、気に入ったタイトルや写真のページをたくさん折ってありますけど、その日の気分によって同じ写真でも見え方が違ったりする。表紙も素敵だから、テーブルに置いておくだけというときもあります。

 実は鬼海さんとは個人的にも親しくさせていただいていて、ご一緒にお酒を飲んだりもしていました。ご病気になってからも、よく電話をいただいていきましたが、残念ながら昨年お亡くなりになって。僕の小説を気に入ってくれて、「あなたは根っこが生えているから大丈夫」なんてよく言ってくれました。

――そういう思い出も噛みしめながらいい時間になるんですね。お気に入りは繰り返し読まれるんですか?

道尾:気分で手に取ります。『世間の人』をよく開くのは、そういう気分のときが多いってことかもしれません。ひとりで飲んでいるときは人がいないほうがいいけど、それでも人を探索したいとか人のことを知りたいっていう気持ちはあるからかな。白黒写真は目に優しいし、一瞬だけ浮き出た本質を捉える力がある。カラー写真は現実のコピーに近いし、だったら実際に会ったほうがいろんな顔を見られるじゃないですか。

――ほかにもいろいろ本をお持ちいただいたんですね。

道尾:小説を読むと仕事の延長になっちゃうから、写真集なんかをよく開いています。中でもここにある本は一番よく開く本ですがどれも絶版で…。

――ちょっと和風でノスタルジックな世界が多いんですね。

道尾:最近のモノのデザインはどんどん人間くささをなくしてますけど、僕は昔からこういう人間くさいものが好きで。仕事場が浅草なのも、いい飲み屋さんが多いのもあるけど、なにより人間くさいからです。居酒屋ではじめて会ったおばちゃんに「小銭足りないから貸して」とか言われますから(笑)。洋書も好きでよく読みますが、お酒がはいると英語を読むのがものすごく遅くなっちゃうし、読むより眺めたい気分のときが多いですね。

――今回、新刊『N』(集英社)を出されましたね。お酒を飲みながら小説の構想が浮かぶというのはあるんですか?

道尾:いっぱいありますよ。でも何ひとつ後で役に立たない(笑)。メモもとりますが、翌日ほとんど消しちゃいます。アイデアって、炭酸のあぶくが下からあがってくるみたいにいくらでもあるもんです。それをよーく見ていると、中にひとつあぶくじゃないものが混じっていて、それにぱっと手を伸ばして取るようなイメージ。シラフだと割と間違いなく取れるんですけど、お酒を飲んでいるとそれがうまくいかないんですよ。ただのあぶくばっかりを掴まえてメモして…になっちゃうんです。

――てっきりお酒がアイデアの源泉になるのかも…と思ってました。

道尾:もちろん人と飲むときはものすごく役に立ちますよ。いろんな話をしますし、いろんなことを教えてもらえるので。以前書いた『雷神』(新潮社)では主人公が和食居酒屋を経営しているんですが、そのときは行きつけの店で料理のこととか経営のこととか教えてもらったりしました。

――新刊『N』はかなり実験的な作品とのことですね。

道尾:「リアル脱出ゲーム」とか体験型のものに興味があって、コロナでいろんなことができない中で、読書に「体験」を持ち込みたいと思って書いた本です。6章仕立てなんですけど、章を読む順番は読者が好きに決めていいようになっています。組み合わせは720通りなので、つまり720パターンの読み方があるんですが、読み方によって物語の色合いががらっと変わるんですね。ある順番によって読むことによって発動する仕掛けなんかもいろいろ仕込んであります。

――すごい仕掛けですね。

道尾:1章ごとに天地が逆に印刷されているんですが、実際に作っていく中で、そんなことが可能なのかどうか関係各所や印刷所に確認しながらすすめるのが大変でした。最初から「こういう本を作りたい」って話しても、「いや、それは難しいですよ」なんて出鼻をくじかれて面白くないと思ったから、自分の中で細かいところまでアイデアを詰めて、1、2章書いてから編集さんに話しました。

――そのアイデアはやはりシラフのときにキャッチしたアイデアなんですか?

道尾:もちろん。やっぱりシラフでじっくり考えて生まれた一冊です。ただ、そのアイデアを思いついた日は、ほんとにお酒が美味しかった! 何かうまくいったときって、なぜか味が変わりますよね(笑)。

道尾秀介(みちお・しゅうすけ)●1975年東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。07年『シャドウ』で本格ミステリ大賞を、09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を、10年『龍神の雨』で大藪春彦賞を、同年『光媒の花』で山本周五郎賞を、11年『月と蟹』で直木賞を受賞。その他の著書に『向日葵の咲かない夏』『鏡の花』『いけない』『雷神』など多数。最新刊『N』が好評発売中。