「2020年本屋大賞」大賞を受賞した凪良ゆうの小説 おすすめ3作品

文芸・カルチャー

2020/4/7

 もともとBL小説を中心に活躍してきた小説家・凪良ゆうさんが、ジャンルを超えて知られるようになったきっかけは2017年に刊行された『神さまのビオトープ』(講談社)。その後、2019年8月に刊行された『流浪の月』(東京創元社)は文芸書売り上げ1位の書店が続出。見事「2020年本屋大賞」大賞受賞作に輝いた。世の中の“普通”から少しそれた人たちの繊細な感情が、ときに毒をまじえながら丹念に描かれるのが凪良作品の魅力のひとつで、それは最新作『わたしの美しい庭』(ポプラ社)でも変わらない。ここで今おさえたい3作品を紹介しよう。

誰に肯定されなくても、事故死した“幽霊の夫”と生きつづける幸せを選ぶ

『神さまのビオトープ』(凪良ゆう/講談社)

 『神さまのビオトープ』の主人公・うる波には、事故死した夫・鹿野くんの姿が見える。会話もできる。ときには痴話げんかだってする。だから夫が生きていたときと同じように、2人ぶんの食事をつくり続けるし、おなかをすかせた鹿野くんがおいしいと喜ぶのがうれしい。

 でも、彼が食べたはずの食事は手つかずの状態で残っている。だから冷えた食事を、うる波は次の自分の食事にまわす。そんな彼女を周囲は心配したりあわれんだりするけれど、うる波には鹿野くんとともに過ごす幸せを手放す気がないまま、2年も3年もが過ぎていく――。

 自分さえ覗きこむのを躊躇うほど繊細で、すこし揺らされただけで泣いてしまうような部分に、凪良さんは踏み込んでくる。

“世間”に傷つけられた人たちが、縁切り神社に託す願いとは?

『わたしの美しい庭』(凪良ゆう/ポプラ社)

 自分がされて嫌なことは、人にもしないようにしましょう。それはとてもまっとうな標語で、みんながその思いやりを心がけていれば世界は平和、のような気がしてしまうが、「私がされて嫌なこと」と「あの人がされて嫌なこと」、「私がされて嬉しいこと」と「あの人がされて嬉しいこと」は必ずしも一致しない。

 だけど「その思いやり、全然嬉しくない。むしろ迷惑」なんて言おうものなら、拒絶した側が悪者になってしまう。小説『わたしの美しい庭』(凪良ゆう/ポプラ社)の語り手となる人たちはみんな、そんな善意のテロに少しずつ傷ついている人たちだ。

 たとえば10歳の百音は、両親が事故で亡くなったため、母の元夫・統理にひきとられ2人暮らしをしている。当然、“なさぬ仲”の親子に周囲はあれこれ気をまわし、心配という仮面をつけてよけいな口を挟んでくる。39歳で独身の桃子もまた、心配だからという理由で勝手に見合いをセッティングされ、断れば贅沢といわれ、あげく向こうから断られ、むだに傷つくはめになる。うつ病で会社をやめた30歳の基も、「はやく元気になって働くのがいいこと」という世間の価値観や、それを当然と思っている周囲の労りによって、じわじわ追い詰められていく。

ふたりは再会してはいけなかった…? 世間が反対しても、そばにいたい。新たな“つながり”と”断絶”を描く

『流浪の月』(凪良ゆう/東京創元社)

『流浪の月』の主人公は、家内更紗というひとりの少女だ。彼女は小学生の頃に、大学生の青年によって、“誘拐され、約2カ月彼の家に「監禁」された事件”によって、世間で一躍有名人になってしまう。この作品は、そんな彼女の半生を描いた物語である。

 本書は、はじめに、アイスクリームを夜ご飯にする、という無邪気な提案をしてくれた。いつも栄養面からレシピを考えてしまう生真面目な私には甘美な響きだった。しかし、私は読み終わった日の翌日(正確には、読み終わったのは明け方の4時だったから、当日)の夜、アイスを食べる気には到底なれなかった。その物語が全体で訴えかけるものはあまりに激しく、すっかり心をかき乱されてしまった私は、しばらく何も考えられないまま数日を過ごした。これは余韻ではない。衝撃だ。

 再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める――。

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