【毒親体験談】元・子どもたちの毒親育ちエピソードと“その後”を描いた実録漫画9選

マンガ

更新日:2022/5/31

【母と娘の毒親エピソード】毒親育ちが毒親に? 大人になった子の葛藤を描く実録漫画『母になるのがおそろしい』

 自分と子どもの親子関係は、自分とその親の親子関係ともつながることが多い。毒親に育てられ、親の愛を知らずに育った子どもが親になった時、我が子をきちんと愛することはできるのだろうか。

『母になるのがおそろしい』(ヤマダカナン/KADOKAWA)は、毒親育ちの著者によるノンフィクションコミックエッセイ。ネグレクトを受けて育った著者は、無意識下で自分も母のような母親になるのでは…という恐怖をもって大人になる。

『母になるのがおそろしい』(ヤマダカナン/KADOKAWA)
『母になるのがおそろしい』(ヤマダカナン/KADOKAWA)

 本作は結婚3年目、のどかな日々を送っていた著者(以下、カナン)が、夫からの「そろそろ子ども、欲しくない?」という一言に激しく動揺するところから始まる。「母になるのがおそろしい」。男性依存症だった母と過ごした幼少時の忌まわしい記憶があるため、自分が出産して母親になる決心がつかないでいたのだ。

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男性依存症の母と過ごした忌々しい幼少時代の記憶

 カナンは母親と自分は違う人格であることを確かめるために、これまでの半生を振り返る。母とその浮気相手と3人でラブホテルに行ったこと、母の再婚相手から暴力を振るわれたこと、毎晩、隣の部屋から義父と母のあえぎ声が聞こえること――語られるカナンの幼少期は悲惨である。

 実の母との忌々しい記憶は呪いのように、大人になったカナンを苦しめる。毒親の「毒」は子が物理的に離れ、成長したあとでも影響し続けることが多いのだ。

 残念ながら、実の子を愛せない母親はいる。そもそもすべての女性が子を産んで、母親にならなければいけないわけではない。また、夫や周囲からサポートを得られるかどうかも重要である。

 本作のカナンは夫となら…と「母親になる」ことを決意する。しかし出産後も不安は尽きない。「良い母親になろう」と頑張るほど、巷の母親像にがんじがらめになり、精神的に追い詰められてしまったことも本作に描かれている。

 しかし毒親育ちでなくとも、出産してすぐに「いい母親」になることは難しい。母親だって、子どもと一緒に少しずつ成長していくものなのだ。自分の過去を見つめなおし、人としても母としても少しずつ成長して強くなるカナンの姿は、毒親育ちの呪縛に苦しむ人を励ましてくれるだろう。

【祖母と孫の毒親エピソード】毒祖母の内面も描くコミックエッセイ『母親に捨てられて残された子どもの話』

 毒親が父もしくは母であるとは限らない。同居中の祖母が毒になることもある。

『母親に捨てられて残された子どもの話』(菊屋きく子/KADOKAWA)は、支配的な祖母と無関心な父親と3人で暮らし、愛情を知らずに育った子どもの葛藤と成長を描いたコミックエッセイである。

『母親に捨てられて残された子どもの話』(菊屋きく子/KADOKAWA)
『母親に捨てられて残された子どもの話』(菊屋きく子/KADOKAWA)

 物心ついた時には母親がおらず、父親と祖母に育てられた娘のゆき。3人での暮らしに家庭のぬくもりなどはなく、いつもひとりで孤独だったという。

 祖母はいつもピリピリしていて、外では笑顔を向けてくれるものの、ゆきと1度も手を繋いでくれたことはない。祖母はどんな小さなミスでも、ゆきを大声で怒鳴った。父は仕事が忙しく、ゆきとほとんど会話しない。

毒祖母の言いなりで、自分の意見をはっきり言えない

 本作には、こんなエピソードがある。ゆきが中学生になり、父がくることを淡く期待していた三者面談に、祖母が現れた時のことだ。ゆきの人格を否定し、勝手に進路を押し付けてくる祖母に対し、担任教師は「この年で相手のことまで思いやれるというのはなかなかありません」「もっと自分の意見を言っていいんだよ」とゆきを優しく肯定する。しかしそれがおもしろくなかった祖母は、帰り道でゆきを怒鳴りつける。

 さらに中学3年生になり、ゆきが初潮を迎えた時のこと。保健室の養護教諭が「おめでとう」とほほ笑んだのに対して、祖母はあからさまな嫌悪感を示す。この頃から、ゆきは徐々に母親に想いを馳せるようになるが、祖母の勘違いから母に関する衝撃の事実を知らされる――。

 父からは望んだ愛情をもらえず、祖母からは憎しみに近い感情をぶつけられて過ごしたゆき。そんなふたりに「どうして私にはお母さんがいないの?」と聞くこともできず、中学生になってもゆきは自分の意見をはっきりと言えず、祖母の言いなりになっていた。

 ゆきの三者面談をおこなった教師は「確かに家庭環境が性格に与える影響は大きい」という。ゆきの控えめで、自分の意見をはっきり言えない性格は、毒親に支配されて育った子の特徴といえるだろう。

祖母はいかにして「毒」を持ったのか

 毒親に育てられるとはどういうことか。なぜ家庭は歪んでしまうのか。そのひとつの答えが、本作で浮かび上がる。本作はゆきの中学時代、支配的・暴力的な“毒祖母”との関係を中心に描かれているが、後半に「父の回想」「祖母の告白」というエピソードが含まれている。

 ゆきや妻のために必死で働いていたつもりなのに、上手くいかなくなってしまったという父。1度は孫のゆきを愛そうと努力したけど無理だったという祖母。彼らの心のうちを知ったところで、ゆきへの仕打ちが許されるわけではない。しかし彼らの弱さを知ることは、毒親の恐怖から子を解放する側面もあるのではないだろうか。

 得体の知れないものに立ち向かうのは恐ろしい。離れたあとも、その影に怯えて過ごす。必ずしも毒親と和解したり、理解したりする必要はないが、どうしても彼らの呪縛から逃れられないと苦しい時は、毒親を“知る”ことが過去を断ち切る手助けとなるのかもしれない。