琵琶湖周辺の介護施設で100歳の老人が殺された事件の謎…。ちょっぴり怖い2023年映像化作品まとめ3選

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/4

 肝試しというのは、一般的に夏の風物詩として知られています。おそらく怖くて「ヒヤッとする」からではないでしょうか。実際、「怖」という漢字の左側は「心」、右側は恐怖を感じたときの音を表現しているそうです。しかし、冬のアイスがおいしく感じる人もいるように、年末年始に怖い本や映画を鑑賞されたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、本記事では2023年に映像化が決まった作品を3作、音の表現も加えてご紹介できればと思います。

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●ヒヤッとするけど、ホッともする『スイート・マイホーム』

スイート・マイホーム
スイート・マイホーム』(神津凛子/講談社)

 2018年に小説現代長編新人賞を受賞した作品。映画は齊藤工が監督、窪田正孝が主演。

 舞台は冬の長野。スポーツインストラクターの賢二は、妻と2人の小さな娘のサチ・ユキとアパートで一緒に暮らしてきた。ある日賢二は、一念発起して、一台のエアコンで家中を暖められるという「まほうの家」を購入する。そして、賢二自身が忘れたままにしておきたかったこと、隠しておきたかったことに呼応するように、家族や周囲の人々の過去や負の感情までもが明るみに出てくる。

 ともすれば崩れてしまう家庭の「脆さ」と、それを守ろうとする「熱さ」のせめぎあいが見どころの作品です。怖かったり血が流れたりする場面もありますが、人生をスイートな(心地よい)ものにしたいという読後感になる方もいらっしゃるはずです。

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●ゾッとさせられ続けるけど、ジーンともする『湖の女たち』

湖の女たち
湖の女たち』(吉田修一/新潮文庫)

 これまでも作品が多く映画化されている吉田修一氏の2020年の作品。映画は福士蒼汰・松本まりか主演で2024年初夏に公開。

 舞台は琵琶湖周辺。ある介護療養施設で、100歳の男が殺される。子どもがうまれたばかりの刑事・濱中は、捜査を進める中で介護士・佳代と出会い、急速に仲を深めていく。その事件を取材する記者・池田は、事件で死亡した男の人生をひもとくためにハルビン(旧満州の中心都市)を訪ねる。

 静かな湖面にジャボンと石を投げ入れるように、ある出来事の波及効果や、人と人の「境界線」を描いた作品です。エグいシーンも多いですが、人の心に湖面のようなものがあるとして、どうすれば自分・自分たちの湖面に変化をもたらすことができるかという探求がなされているマジメさもある作品です。

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●ドロドロしている、かつ、容赦なくグイグイ来る『禁じられた遊び』

禁じられた遊び
禁じられた遊び』(清水カルマ/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 監督は映画『リング』シリーズの中田秀夫、主演は橋本環奈と重岡大毅。

 会社員の伊原は、郊外に念願のマイホームを購入。妻・息子と共に幸せな生活を送っている。しかし、妻が交通事故で命を落とす。息子は母の指をマイホームの庭に埋めて、まじないをかけるようになる。同じ頃、映像ディレクター・比呂子の周囲でホラー映画のような怪奇現象が立て続けで起こる。

禁じられた遊び』というと1950年代のフランスの名画を思い浮かべる方も多いのではないかと思います。そちらは第二次世界大戦中に親を亡くした子どもが主人公で、劇中で容赦なく執拗に爆撃され、いとも簡単に人が亡くなる悲しいシーンがあります。Jホラーの本作も、多少フランス映画へのオマージュがあるのかわかりませんが(あまりにも有名な作品なので著者が全く意識していないということはないはずです)、そうした「容赦ない感じ」と畳み掛けるような「しつこさ」のリズムが、読者に怖さの中でもページをめくらせてくれます。

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 ヒンヤリとした年末年始の空気の中での読書肝試し、ぜひ楽しんでみてください。

文=神保慶政

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