実在した伝説のホームレス「河原町のジュリー」とは一体何者なのか? 増山実の傑作長編『ジュリーの世界』が待望の文庫化!

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/15

ジュリーの世界
ジュリーの世界』(増山実/ポプラ社)

 小説家・増山実の傑作長編『ジュリーの世界』。実在した伝説のホームレスをモデルに人間の尊厳を問う感動作が、2023年9月5日(火)に文庫版として蘇った。

 同作の生みの親・増山実は、放送作家と小説家の2つの顔を持つ。「ビーバップ!ハイヒール」をはじめとする関西の人気バラエティを数多く手がけた後、「松本清張賞」最終候補作を改題した『勇者たちへの伝言』で2013年に作家デビュー。2022年には『ジュリーの世界』を出版し、第10回「京都本大賞」を受賞している。

 物語の舞台は、70年代の終わり。三条京極交番に勤務する新任巡査の木戸は、あるひったくり事件をきっかけに「河原町のジュリー」と呼ばれる有名なホームレスの存在を耳にする。その男は無数の視線に晒されながらも、いつも目抜き通りの真ん中を悠然と歩く。そしてマンホールの上でも橋の下でもなく、商店街の一等地で眠りにつくという。

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 もちろんそんなところで寝起きしている浮浪者は、後にも先にもジュリーだけ。嘘か真か、彼が商店街を徘徊しているおかげで、新京極界隈では放火事件が一件も起こらないらしい。ゆえに警察からも一目置かれている彼は、京都の一等地で寝起きしていても取り締まりの対象になることはない。ホームレスでありながら、まるで理不尽や不自由などのあらゆる不遇を超越したような男――それが「河原町のジュリー」なのだ。

「京都市長や知事の顔を知らんでも、河原町のジュリーの顔と名前はみんな知ってる」
「あの男は、ほんま捉えどころのない不思議な男や」
「河原町のジュリーは、京都の浮浪者の中でも、ちょっと別格な存在」

 聞けば聞くほど、河原町のジュリーに対する興味は尽きない。伝説のホームレスと謳われた彼は一体何者なのか、なぜこの街にやってきたのか。そして彼はなぜ柵にもたれながら、東の空を見つめていたのか…。やがてその真相は、木戸という新米警官の目を通して少しずつ明らかになっていく。

 先述した通り、「河原町のジュリー」は実在したホームレスがモデルになっている。あの頃の京都にいた人ならば、実際に彼を見かけたことがあるという人も少なくないだろう。ちなみに作者の増山もそのうちの一人。はじめは河原町のジュリーを知っている人にできるだけたくさん取材をして、小説の中に反映させるつもりだったそうだが、途中で考えが変わり、他人が見たジュリーではなく、あくまで自分自身の心の眼を通して見たジュリーを小説の中に落とし込んだそうだ。

 そのため同書のあとがきのなかで「『自分の知っている河原町のジュリーとは違う』と思われる方があるかもしれない」と不安を滲ませていたが、実際は要らぬ心配だった模様。SNS上には「いい本に出会えた嬉しさに溢れながら読了。しばらくジュリーの面影が頭から離れなくなりそう」「本作はフィクションだそうですが、読んでいて、風のように街を彷徨っていたジュリーの姿が目に浮かぶようでした」「ジュリーを偲びながら、あの頃の自分と京の街に再会することができた」などの絶賛の声が相次いでいた。

 はたして「河原町のジュリー」とは何者なのか、なぜ人々を惹きつけて止まないのか。その答えは、ぜひご自身の目で確認してほしい。

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