TBSラジオ『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』展覧会は“大人の学園祭”。パーソナリティのふたりが見どころを自由に語る!

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/9

OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

 大人の学園祭だ、と一歩足を踏み入れたときに思った。現在、東京・渋谷PARCOで開催中の展覧会『OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~』の印象である。

 コラムニストで作詞家、ラジオパーソナリティのジェーン・スーさんとフリーアナウンサー・ナレーターの堀井美香さんがパーソナリティをつとめるTBSラジオのPodcast番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』から生まれたイベントなのだが、「ご本人たち不在でどうやってラジオ番組を展覧会にするんだろう?」と首をかしげた人も少なからずいるだろう。それでもきっとあの2人なら、来場者が――「互助会員」と呼ばれるリスナーがめいっぱい楽しめる企画を用意しているに違いない、という信頼感を抱かせてくれるのが、この番組の魅力である。

OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

 内覧会当日、黄色い花で彩られたアーチをくぐると、まず2人の笑う声が天から流れ出しているのが聞こえる。そして目に入るのは番組の歴史をあらわすフォトパネルに年表。過去のイベント衣装に、スーさんが模造紙に手書きした「ガンバレ☆プロレス」の魅力を発表するコーナー。奥に行けば番組の名言がいくつも吊り下げられ、おみくじコーナーに堀井美香さんの妄想から生まれた「喫茶ホリイ」の再現まで。

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OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

 番組の世界観を忠実に表現した互助会員には夢のような場所がつくりあげられていて、遊び心満載のその空間を歩きながら「これは大人の学園祭だ!」と胸が高鳴った。学生時代、友達同士とどうすればお客さんを楽しませられるか話し合い、自分たちの「好き」や「これやりたい」をめいっぱい教室につめこんだ、あの日のことが懐かしく思い出されると同時に、大人になってもこういう遊びをしてもいいんだ!と背中を押されるような気持ちにもなった。

 内覧会当日はジェーン・スーさんと堀井美香さんがPARCOとのコラボロゴがデザインされた 「OVER THE SUN」Tシャツ(会場で購入可能)を身にまとい登場。ラジオと同じように自由なトークで見どころを語ってくれた。その一部をここにレポートする。

OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

――展覧会をやりたいです、とパルコからオファーが来たときはどんなお気持ちでしたか。

堀井:即答でしたよね。ぜひやりましょう、と。何回か「え? パルコ?」って聞き直しましたけど。

スー:正直、何を展覧するのかまったくわからなかった。我々に展示するものはとくになかったはずなのに、パルコ大丈夫かなって。でも渋谷に私たちの場所をつくってもらうなんて、この機会を逃したら二度とないですからね。

堀井:渋谷はやはり若い頃から憧れの町でしたので。おしゃれすぎてなかなか近づけなかった場所に、五十を過ぎて初めて来られたという気持ちです。大学時代には、歩いていたら声をかけられ、入ったビルでラッセンの絵を売りつけられそうになったことが。

スー:ありました、ありました!

堀井:若い頃はいろいろ衝撃的なこともあったけれど、この年になってようやく渋谷に来られることがとてもうれしい。

スー:何事も遅すぎるということはない。Never too lateと言いたいですね。

OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

堀井:展覧会も、こんなにすごい場所をつくっていただいて。プロってすごいですね。

スー:無から有をつくりあげたって感じですよね。喫茶ホリイなんて、妄想ですからね。田沢湖カレーをご覧になって、みなさん。きりたんぽをカレーにつけて食すという新しいタイプ。

堀井:数多くのアイディアを出させていただいたなかで選抜されたメニューということで、他がどんなにひどかったかわかると思うんですけど、これは2024年にバズると思います。本当においしいですから。ヤンヤンつけボーみたいにディップして食べるんです。これは今まで誰も思いつかなかったんですよ。ひらめいたとき「私って天才!」と思い、FAXを流しました。

スー:手書きのFAXがきたとき、本当にみんなぞっとしましたよね。

堀井:あと、あんかけパスタもあります。これは以前、豊橋でスーさんが講演を行うと聞きつけて、私がこっそり参加したことがあって。

スー:ストーカー行為ですよね。

堀井:そう、バレないように気配を消して行った豊橋で、講演前に食べたのがチャオというお店の熱々あんかけパスタだったんです。それと、互助会のみなさんが喜んでくださる、私たちの「アツアツあんかけ回」というエピソードがありまして。これもひらめいたときは「私って天才!」と思いました。

スー:後今回はZINEを出していますね。番組で「私がこれを好きな理由」というメールを募集して、みなさんがふだん人に話す機会のない好きなもの……この映画とかこの本とかじゃなく「食べ物を分解して食べるのが好きなんです」みたいな細かい「好き」を教えていただいたんですね。それを集めたものになります。それにちなんで「私の好きなもの」ということで、ずっと一人でゴリ押ししている「ガンバレ☆プロレス」について熱く語らせていただきました。模造紙に手書きで。

堀井:あっさり言っておりますけど、できあがったのは今日の朝(内覧会当日)。そもそも、準備のために私たちは24時間じゃ足りないってくらい動いていたんですけど、この人は本当に寝ていなくて、きのうも徹夜で作業していて。夜中の一時に「今、がんばってる」というLINEが入り、明け方の5時に「完成した」と。

スー:ものすごい達成感がありましたね。ここぞとばかりに、一番高いユンケルを飲みました。あと、豊橋のおかえしに、私が堀井さんの函館での朗読会にばれないように行ったときの衣装ね。長谷川さんという架空の人物像を設定して、新宿のミロード地下街あたりを歩いて探した服を着て行った、それをそのまま持ってきて展示しております。「あなたは絶対に存在感を消せない」と堀井さんに言われて、ふざけんな、やってやると完全に気配を消しきったときのもの。

堀井:本当にそこらへんのスーパーにいそうな……。すごいですよ。長谷川さん。

スー:ようするに、大人の悪ふざけです。全部、そう。大人だって限界までふざけていいんです。今年も年明けからいろんなことがあって、なかなか公にはふざけることができない時勢ですけど、明日に命を繋いでいくために、たまにはちょっと悪ふざけをして、みんなで大笑いをしよう。なんてことを放送でずっとやっていたら、なんと展覧会まで開催できるようになっちゃった。

堀井:パルコさんにお声がけいただいたおかげですね。

OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

スー:今回、おみくじもつくっていただいて。勝手にパワースポットをつくりましたから、それもぜひ。おみくじの結果は大吉とか中吉とかでなく、私たちの手書きメッセージが入っているだけなんで。グッズもいろいろつくりました。お気に入りは守護バーム、もいいけど、ペンですね。とにかく我々は物忘れが多いので、四本入っています。それだけあれば、なくしてもどれかが手元に残るでしょう。それを、忘れる前に書け、というメッセージをこめまして。実用性もかねた一品です。

堀井:私はやっぱり喫茶ホリイ推しで。看板だけでなく商品もいろいろつくっていただきまして、物件さえ見つければこのグッズを全部スライドさせてお店を開けるんじゃないかと。

スー:オリジナルのトートバッグもかわいいですよね。こういうの、ビビッドな色があんまりなくて。いろんな掛け方もできるし、その日によって変えてみたい。あとZINEはね、やっぱり一人一人の「好き」が詰まっているから、パルコさんと一緒にやれたおかげで、紙もしっかりしたものが使えて、丁寧に形にできたのがうれしいです。番組を知っている方にはすごく楽しんでいただける設計になっていますけど、知らない人は近寄らないほうがいい(笑)。内輪の話しかしていないから。

OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

堀井:暇でね、ふらっと入っちゃったみたいな人がいるかもしれないですけどね。

スー:そんな、ここから入って放送も……なんてがめついことは言いませんよ、私は。でも、いい時代になりましたね。私たちが言われていちばん予想外で嬉しかったことは「年をとるのが楽しみでした」っていう若い方からの声。そんなに怯えてるのか、ってびっくりしつつも、確かに自分たちが20~30代だったころは、50歳って果てしなく遠い先の未来だと思っていました。自分、ちゃんとやれているんだろうか、という恐怖もありましたしね。でも、まったく違うタイプの私と堀井さんが仲良く50歳になっても悪ふざけしていることが、誰かの息抜きになるんだとしたら、本当にありがたいことだと思います。

OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~

 若い頃よりも時間と体力が制限されるぶん、経験の蓄積や人脈を使って、よりおもしろいことができる可能性もある。大人なんだから、と一歩引くのではなく、大人だからこそ、自分とまわりの人たちを楽しませるために全力を尽くせることがある。「“太陽の向こう側へOVER!”することを目指していく」をコンセプトにしたこの番組が、なぜこれほどまでに愛され、人々の心を励まし続けるのか、肌身で感じられる展覧会になっている。

 一部を除いて撮影は自由。スーさんと堀井さんのパネルや、喫茶ホリイの調度品と一緒に撮影するのもよし。オリジナルのキーホルダーが入ったガチャガチャや、喫茶ホリイブレンドのドリップコーヒーなどを購入し、OVER THE SUNの世界観を自宅に持ち帰るもよし。隅々まで楽しめる仕掛けが満載なので、お時間のある方はぜひ。

(取材・文=立花もも)

「OVER THE SUN PARK~私たちの花が咲いたよ~」
渋谷会場
会期:1月19日(金)~2月12日(月・祝)
会場:渋谷PARCO B1F GALLERY X BY PARCO
入場料:¥800 ※入場特典付き
営業時間:11:00~21:00
チケット事前購入:https://t.livepocket.jp/t/ssg1u

名古屋PARCOでの巡回展も決定!
会期:2月23日(金・祝)~3月10日(日)
会場:名古屋PARCO 南館7F・EVENT SPACE
入場料:¥800 ※入場特典付き
営業時間:10:00~21:00
チケット事前購入:https://t.livepocket.jp/t/ykw-o

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