ハーレム×監獄。壁をぶち壊していく快感と、“女性の強さ”を描きたい

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公開日:2014/3/6

たとえ間違った方向でも
全力で努力する人間の姿を描きたい

監獄学園コマ2

3巻第19話より。ただでさえ大変な監獄生活を送る非モテ男子たちに、セクシーでドSな副会長のお仕置きが容赦なく襲いかかる

 看守を務めるのが、マンガ史に残るセクシー女王様キャラの副会長・白木芽衣子だ。自由を奪われツライ状況のはずなのだが、なんだか妙にうらやましい……。毎回サービスシーンが満載なことが、『監獄学園』最大の魅力となっているわけだが、お色気を通り越して、フェティッシュな美意識すら感じさせる。

「作画の7割くらいは女体に時間を使ってます。セクシーな画は描いていて楽しいんですけど、大変です。だけど、やっぱり楽しいので描くのに時間をかけてしまいますよね。やっぱり自分が良いと思える女体を描けたとき、いちばんのカタルシスを感じます」

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 気弱男子にとって、セクシーダイナマイトボディは、もはや凶器ですらある。平本さんが描くセクシー画は、すべてをさらけ出した女性の強さとかっこよさを感じさせ、圧巻だ。その一方、直接的にエロを描かず、〝隠す〟描き方にも喜びを感じるそうだ。作者としては、露出が少ない裏生徒会書記の緑川花に思い入れがあるという。空手の達人で気丈に見えるが、実はとてもウブな女の子だ。

「精神的、肉体的にすべてをさらけ出すより、色々隠した方がエロいと思うんです。花は胸やお尻をたくさん出さなくても、エロく描けたと自分では思う。だから思い入れが強いんです」

『監獄学園』を読んでいて、ふと思う。結局、男とは女性の性的魅力の下僕であって、色気に惑わされないぶん、女性の方が凛として強いのではないかと。男性目線のサービスシーンが満載の『監獄学園』だが、女性の“強さ”をより強く感じるのだ。

「男性に比べて力が弱いところにむしろ女性の強さを感じます。映像作品で言うと、『おしん』や『テルマ&ルイーズ』、『フライド・グリーン・トマト』といった、ある意味、フェミ映画が好きなんです。根性でなんとか生き抜こうとする女性を描いた作品が大好きです」

 男性が囚人、女性が看守という設定で、現代的な女性の強さを描いてきた『監獄学園』だが、10巻からの新展開では、驚くことにこの関係が逆転する。裏生徒会の美女3人が権力抗争によって収監されることになり、これまで虐げられてきた男子が、一転して管理する側にまわるのだ。ただし、女子を虐げることで、よりハードな復讐を受けようとする真正マゾのアンドレの思惑など、その一途な倒錯っぷりが妙に憎めない。

「傍から見ればバカバカしいですけど、本人からすれば大問題なわけです。それは、一歩間違えれば変態に見えることもある。でも僕は、たとえ間違った方向であっても、全力で努力している人間の姿を描きたい。だから、コントやコメディのような設定であったとしても、キャラに演技はさせないです。彼らは大マジメなんです。それは、男子であっても女子であっても同じです。生きるのが下手で、でも、全力で努力している」

 随所で笑わせてくれる『監獄学園』だが、それは、切実さに対する共感を伴った笑いだ。たとえば三国志マニアのガクトは、同じ趣味の女子を好きになるが、彼女はBLとして三国志を好んでいる。そこで岳人は、BL好き女子の気持ちを理解すべく、自らBLの関係を体験しようとするのだ。何かが根本的に間違っている……。だけど、その健気さが憎めない。誰しも思春期の頃、そうした過ちを犯したことがあるのではないだろうか。平本ワールドの笑いは、そんな人間くささから生まれている。

 非モテ男子のコンプレックスからの脱獄。これが『監獄学園』の裏テーマだと思う。男性読者に向けてアドバイスを伺った。

「頑張って女子としゃべる。モテる努力をした方がいいと思いますね。僕はいまだにどっちもできていませんが……」

 そんな他愛のないことが、思春期の男子にとっては、まさしく監獄の壁のように高々と立ち塞がる。『監獄学園』は、このもどかしさを、カリカチュアして描いた世界だ。そこから脱獄するのではなく、男性と女性の壁をベルリンの壁崩壊のように、壊していくべきかもしれない。かように大マジメに深読みすればするほど、『監獄学園』は面白みを増していく。

「とはいえ、マンガを読んで何も考えずに笑っていただけたら、何よりも嬉しいです。老若男女が読んで面白いと思ってもらえるような王道のマンガをいつか描けるようになればいいな、と思ってます」

 そう謙遜する平本さんだが、それはもうできているんじゃないか。モテようと必死にあがく男子の心情に、男性が共感するのはもちろん、女性が読んだときこれほど男子の気持ちがわかるマンガもないと思うのだ。

「僕が描きたいのは、エロスとバイオレンスと、人間賛歌と女性の強さです。努力は必ずしも報われないけど、何かに向かって努力している人は美しいですよね」

 一見パラレルワールドのように異質に見える『監獄学園』の世界観だが、描こうとしていることはある意味、王道なのだ。

取材・文=大寺 明

紙『監獄学園(プリズンスクール)』(1〜12巻)

平本アキラ 講談社ヤンマガKC 各552円(税別)

女子高が共学となり、期待して入学した非モテ系の男子たち。しかし、女子1016人に対し男子5人という男女比率の前で男子は完全に萎縮……。しかも不純異性交遊を取り締まる裏生徒会が目を光らせ、入学早々、男子5人は女風呂を覗いた罪で懲罰棟に収監されてしまう。裏生徒会の支配から、彼らは脱することができるか!?