この秋もヒット必至!? 貴男の中の何かが崩れる…メンズブラ禁断の魅力とは

暮らし

更新日:2014/9/4

 男性用ブラジャー「メンズブラ」が、ジワリジワリと売れ続けている。

 検索してみると、ブラ男(ブラジャーをつける男性)やブラリーマン(勤務中にブラを着用するサラリーマン)なるワードが次々ヒットし、この春注目を集めた「WishRoom」の「リボンいっぱいプチドット☆フリフリブラ」が“フリル×プチドット×リボンの胸キュンデザインがあまりにもかわいすぎる!”と話題になっていたりする。

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試しに、楽天市場のメンズインナー部門1位にも輝いた人気店である「WishRoom」の通販サイトをのぞいてみると、「いつもこのお店でメンズブラを購入していますがどれもお気に入りで、特に今回のブラは可愛すぎて大満足です」という50代男性のコメントがあり、おおっ! とひとりどよめいた。肌触りのよい素材やほどよいフィット感にこだわりつつ、レディース用とは違ったリラックス効果を重視。つけ心地はふんわりと優しく、肩ひもを取り外せたり、ストラップを交換できるタイプもあるようだ。

メンズブラ
メンズブラ

「WishRoom」で人気No.1のブラがこちら。夢みるオーガンジーリボンがかわいすぎると評判! お揃いのショーツ(別売り)もラブリー

 スタッフの土屋さんによれば、メンズブラは2008年11月にお客様の要望を受けて販売をスタート。もともと「WishRoom」ではフリルやレースをあしらったメンズ用トランクスやブリーフを扱っており、そこへ「男性用のブラジャーをつくってほしい」というオーダーを受けたかたちになるそうだ。気になるその売り上げは月間500本近く、購入するのは主に30代から50代の“ごく普通の男性たち”だという。意外にも年配の男性客が多く、ときには70代ぐらいの方に注文をいただくこともあるとのこと。

メンズブラ

ストレッチサテン生地を使用した新作。サイズはA80からA100まで対応

 さらに土屋さんにメンブラ人気の背景をたずねてみると、
「特に分析はしていませんが、メンズブラをつけることによって、気持ちをリセットできたり、仕事をやる気になったという声をお聞きします。女性は日中ブラジャーをつけて家では外す方が多いですが、男性の場合は夜、自宅で密かにメンズブラを楽しまれているようです。帰宅されてからご自身のためにつけることで、昼間の仕事疲れがふき飛んだり、違う自分になれるのでストレス発散できるという声もいただいております。日頃ストレスの多い職場で、頑張っていらっしゃる方に愛用していただいているのではないでしょうか」とのこと。

 なるほど。ちなみに筆者も夜は外す派で、昼間つけているぶん、外したほうがリラックスできるのだが…。メンブラブームの背景にあるのは、いったいどのような心理状態なのだろうか。何冊かの本から探ってみよう。

 『「女装と男装」の文化史』(佐伯順子/講談社)から、古今東西の演劇や文学、映画やアニメなどの事例における「異性装論」をみてみると、〈異性の服を着るというモチーフが、女性であること、男性であること、そもそも“性別”とは何なのか、を考える上での重要な手がかりになる〉とある。さらに異性装の背景には、“違う性になりたいから”という理由をつけることができる、とも。もはや“男らしさ”という枠組みが変貌、変容しつつある現代のニッポンにおいて、〈そもそも“性別”とは何なのか〉という問いの中に何か大きな答えが潜んでいそうだ。ちなみに本書では、香取慎吾の「慎吾ママ」をユーモアや癒し効果を発揮するタイプの女装と称し、アメリカ映画『ミセス・ダウト』の主人公ダニエルが家政婦に女装するシーンなどはBGMも軽快で、変身の楽しさや男性が新しい“役”を演じる喜びを演出していると分析している。

 次に、性転換はせずに化粧や異性装を楽しむ井上魅夜氏の『化粧男子 男と女、人生を2倍楽しむ方法』(井上魅夜/太田出版)から、ジェンダーレスなライフ観をのぞいてみよう。本書は25歳で“化粧”に目覚めた男子の半世記だが、魅夜氏は、人は「男らしい自分」と「女らしい自分」、「そのどちらでもない自分」が常に心の中でせめぎあい、“それこそが人間本来の姿ではないか”という持論を展開している。そんな魅夜氏の望みは“男性と女性の中間にたたずみ、性を自由に行き来して人生を楽しむこと”。いわば、男性と女性のイイトコ取りである。それは果たして、本来の性がどちらであるほうが、より幸せなのか。独自の哲学をもち、男と女のはざまに立つ性別越境者、井上魅夜氏のけもの道を切り開くような生きざまは本書にゆずるとして、今どきの男性をとりまく環境を公的データから見てみても、やはり、今日日女性よりも男性のほうが、生きる負荷は重そうである。だからこそ異性装で“いつもとは違う自分”になり、密かに開放感を味わっているのではないかと結論づけるのは、あまりにも短絡的すぎるだろうか。

 最後にたどりついた1冊は、『ブラジャーをする男たちとしない女』(青山まり/新水社)。本書に登場するのは、恋愛対象は女性であり、彼女や妻子がいて、ふだんは背広姿で通勤する、ごくごく普通のサラリーマンたち。ただひとつ異なるのは、日常的にブラジャーを装着しているメンブラ男性であることだ。たとえば過労死寸前、のしかかる仕事の重圧と闘う50代企業戦士の心は、「ブラを堂々とつけられる今がいちばん楽しい!」とブラによって救われ、精密機器製造会社研究職・38歳の独身男性は「ブラをつけると癒される。つけ心地やレースの美しいものがいい。心が安らぎます」と語っていたりする。本書では、逆にブラをつけなくなった女性たちも取材しているが、それよりなにより、ブラを必要とする男性たちの声の数々には、どこかつまされるものがあった。

 今は、心を解放するためのきっかけやツールが、さまざまに存在する時代である。
「気づけば常に忙しくて、最近、気持ちの余裕が減ってきた。このままではいつか自分が壊れてしまいそうかも…」と、心に小さな危機を覚える男性は、思いきって、メンブラ・ライフを始めてみてはいかがだろうか。これまで後生大事に抱えてきた固定概念が一気に崩れて、新たな自分がブレイクするかも?しれない…。

文=タニハタマユミ