朝ドラ『マッサン』の外国人ヒロイン、その人物像とは?【完璧な日本食を作り、日本人になるために黒髪に染めた】

テレビ

更新日:2014/10/3

 いよいよ、朝の連続テレビ小説『マッサン』が始まった。今回の主役は男性?ヒロインは朝ドラ史上初の外国人? などと、どのような内容になるのか、多くの注目を集めているこの作品は、『あまちゃん』『ごちそうさん』『花子とアン』と続いている朝ドラブームの波に乗れるのだろうか。玉山鉄二演じる日本のウイスキーの父「マッサン」こと竹鶴政孝(朝ドラ内では、亀山政春)、そして、シャーロット・ケイト・フォックス演じるその妻のスコットランド女性・リタ(朝ドラ内ではエリー)とは、一体どのような人物なのだろうか。

『マッサン流「大人の酒の目利き」』(野田浩史/講談社)では、2013年竹鶴アンバサダー・オブ・ザ・イヤー、オーセントホテル小樽チーフバーテンダーである著者が、 朝ドラの主役「マッサン」に関するエピソードに触れながら、ウイスキーの楽しみ方に触れた一冊である。元々、ウイスキーは江戸末期にペリー提督がもたらしたと言われているが、長らく国産品はエチルアルコールをカラメルで着色し、エッセンスフレーバーで香りをつけた粗悪な模造品だけだった。このような状況の中で、竹鶴政孝は「日本で初めての国産ウイスキーをつくる」ことを決意。その夢を実現できたのは、留学先で恋に落ち、結婚した、スコットランド人女性・リタの支えがあったからだという。

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 リタは、日本に来る船の中で船員に箸を借りて練習していたほど、日本について知ろうと努力した人物だった。「日本人になるなら、日本語の読み書きよりも、日本食を覚えたらいい」。リタは政孝のこの教えを守って、日本食を完璧に作ったのだそうだ。たとえば、政孝はたくあん好きだったので、秋になると、1年分の大根365本を樽につけ込んで、すぐ食べる冬用のものと後で食べる夏用のものは、微妙に塩加減を調整してつくり分け、とても評判が良かったという。このほか、塩辛も手作りし、十割そばも手打ちで振る舞ったらしい。昼間は蒸溜所にいる政孝のために作り立ての温かい弁当とみそ汁を届けていた。夕飯ももちろん最高の状態で食べさせるように帰宅時間から逆算して料理を作っていたので、政孝が約束の時間に家に帰らないと、ひどく機嫌が悪かったという。

 スコットランドから帰国後、政孝は、摂津酒造で蒸留所づくりに着手した。しかし、当時は第一次世界大戦後の大恐慌時代。ただでさえ会社の操業が苦しいというのに、製品ができるまで何年も樽で寝かせないといけないウイスキーは厄介者であり、すぐに政孝は、摂津酒造でのウイスキーづくりを断念せざるを得なくなる。その間、家計を支えていたのは、リタであり、それは、信仰するキリスト教の教会に通いながら人脈を増やし、知り合った夫人や子供たちにピアノや英語を教えていた収入だったという。

 その後、政孝は、1923年に寿屋(後のサントリー)の社長・鳥井信治郎(朝ドラは、堤真一演じる鴨居欣次郎)が経営する寿屋へ入社し、1929年には日本初のウイスキー「サントリー白札」を完成させる。しかし、さらなる本物のウイスキーを求めて政孝は1934年3月に寿屋を退社し、今度は、小樽の西、積丹半島のつけ根にある山々で囲まれた町、余市で大日本果汁株式会社(後のニッカウヰスキー)を設立。スコットランドの気候に似ている空気の清々しさ、ウイスキーの香り付けに必要なピートや清冽な水があったことなど、ウイスキーづくりの好条件が揃った場で政孝はリタとともに新生活を始めた。リタは「ミナサン、オオキニアリガトサマ。ドウゾヨロシュウ。」と流暢な関西弁で挨拶し、蒸留所で働く人々のために就業時間に合わせて、大量のドーナッツをこしらえて50人の社員に2つずつ100個も配った。初めて見る洋菓子をみんな子供のように喜んで食べたという。

 太平洋戦争が始まり、スコットランドの両親から手紙で帰国を迫られても、リタは決して帰国しなかった。差別にあって辛い思いをしても、政孝の足手まといにならぬように、徹底して日本人になりきろうとし、黒髪に染めて日本髪をゆったり、着物を着たりした。リタは政孝の妻となってからは一度も故郷に帰ることなく、極東の日本で夫を支え続けたのだ。

 一体、朝ドラではこの道のりをどう描くのだろうか。泉ピン子演じるマッサンの母親・亀山早苗、婚約者のはずだった相武紗季演じる田中優子にリタをモデルとしたエリーがいびられる場面も必見。いつも優しく、そして強かに日本での日々を過ごすエリーの姿に励まされること間違いない。

文=アサトーミナミ