【ダ・ヴィンチ2014年12月号】「僕達には西加奈子がいる。」特集番外編
更新日:2014/11/6
編集I
今年作家生活10周年を迎えられた西加奈子さん。
その記念作品となる『サラバ!』がすごい傑作と聞き、仮綴本の段階で拝読。すぐに特集を決めました。
これまでの最長というボリューム、衝撃的なストーリー、多彩なキャラクター、そして何より、西さんがこれまでの著書に込めたであろう、さまざまな思いが凝縮されて詰まっているような多重感、それが『サラバ!』にはありました。
今回の特集にゲストとして登場してくださったのは、ブックデサイナーの鈴木成一さん(『サラバ!』の装丁も手がける)、お笑い芸人の若林正恭さん(オードリー)、又吉直樹さん(ピース)の3名。西さんご自身から、みなさんそれぞれと対談したいという強いご希望をいただき、豪華三連発対談となりました。
いずれの対談も内容、雰囲気はまったく違うものの大白熱、西作品を今後読み解くにあたってキーワードになるような素敵な言葉もたくさんうかがうことができました。
以下、3対談から少しずつ抜粋して掲載しますので、ぜひ、本誌でまるごとお楽しみください。
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西 作家が絵を描いてくるのって、やりにくいことはないですか? それ、いつも危惧していて。
鈴木 西さんは絵と小説が僕の中で分かれていないので。表現は文と絵ですけど、そのへんの境界なしに〝西さん〞なので。
西 嬉しい! でも、文章もつくるし、絵も描くから、〝わたし、わたし感〞があふれてますよね。
鈴木 西さんの絵は抜けがすごくいいと思う。
西 ほんまですか? 『ふくわらい』は、鈴木さんからご提案をいただいたんですよね。
鈴木 そうです、そうです。タトゥー。
西 定ちゃんが身体にしているタトゥーを全部描いてきてくださいと言われて。「わ、なるほど!」と思って。『ふる』も、このもやもやしたの、描いてくださいとおっしゃられて。
鈴木 そうですね。
西 『舞台』の頃にはもう鈴木さん、あきらめてらした。「絵、描くんでしょ? 何描くんですか?」みたいな感じでしたよね(笑)。『舞台』は、画材の段ボール自体を活かしてくださって、すごく感動しました。
(装丁対談 鈴木成一×西 加奈子)
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若林 西さんの小説のベスト3を挙げてくださいってことで考えたんだけど、あえて言うと『さくら』と『地下の鳩』と『舞台』かな。
西 ありがとうございます!
若林 『舞台』の主人公の男がさ、お父さんを尊敬してたってことを認めたくなくて、でも認める瞬間みたいなのがあるでしょう。なんか俺、春日に対しての気持ちを思い出して。
西 そうなの?
若林 春日ってほんとにへこまないし、人の悪口言わないし、劣等感も持ってなくて。ずっと「正」のスパイラルにいるような男なんですよ。俺はその逆で、劣等感の塊みたいな男で。M-1で2位になった時に、「正」のスパイラルに逆転した瞬間はあったんだけど、「負」の部分を今でも持ってる。春日のことを褒める時も、自分を保てるような褒め方をしてた。でもね、最近変わってきて。もう認めようと思ってる。俺、嫉妬してるんですよね、春日に。
西 そうか……
(プロレス対談 若林正恭×西 加奈子)
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又吉 西さんとは、おもろいと思うこととか、目に留まるとこ、自分と近いなぁと思います。
西 それ、嬉しい。で、顔が好きだよね。うちら(笑)。
又吉 顔で笑っちゃう(笑)。
西 駅で「バイバイ」って言ったあとに、真顔に戻る時の顔とか。尾崎放哉が、顔のこと書いているよね。
又吉 子どもたちが……
西 卒業したような顔でいる。
又吉 何かとったような顔でいる、とか。
西 何かをとってきたということに感動しているわけじゃなくて、なんかとってきたみたいな顔をしている人がおもろい。それを文章で表すおもしろさ。伝えにくいけど、それ、絶対おもろいってことを私も書きたい。
(文学対談 又吉直樹×西 加奈子)