○○のあと、舌先にティッシュが残る40女の姿… ―リアルな不倫恋愛を描く『姉の結婚』完結

マンガ・アニメ

2014/12/3

   

 40歳、地方在住・独身の女。この息苦しさをなんと表現したらいいのだろうか。
 別に法を犯している訳ではないのに、肩身が狭い。そして永遠に半人前扱い…。

 マンガ『姉の結婚』(西炯子/小学館)は、リアル過ぎる、等身大のアラフォー女性を描き、既婚・未婚、若年・熟年を問わず多くの指示を得ている。愛とは甘いだけではない、苦く辛い経験も伴うと、教えてくれるからだ。

 この作品は、ステレオタイプの女性コミックとは違う。仕事も恋愛も出産、選択肢が増えた分、複雑になった女の人生。その描き様は、いわば21世紀版の恋愛の教科書のようである。このリアルさは、男が読んでも心に響く作品であろう。

 同著者による原作の映画『娚の一生』(2015年2月公開予定)は公開前から話題を呼んでいるが、この作品がメディア化されるのも時間の問題だ。

■ 白馬の王子様は……

 物語は、39歳を迎えた主人公ヨリにイケメンが現れるところから始まる。ヨリは、失恋を機に、長年暮らした東京を離れ、故郷へ戻り図書館司書として働く。そこで静かに平穏に枯れていくことが夢であった。しかし、ある日、王子様が現れたのだ。自分を熱烈に愛してくれる中学の同窓生・真木は、医者でイケメン。すべてが完璧な男、と思いきや、彼は妻帯者であった。もう傷つくのはこりごり。なのに心惹かれる。

 不倫の恋にハッピーエンドはない。いい加減、40歳にもなると、そんなことは目に見えている。それでも恋い焦がれずにいられないのだ。先のない恋愛は、得てして盛り上がるものである。だがこの作品は、その燃え上がるような感情を、冷静で緻密に描いている。

「結婚しているくせに私の愛情が欲しいなんて身勝手すぎるわよ……(中略)……お金でなら少しは売ってあげるわよ」

 この言葉だけを読むなら、傲慢な女だ。だが、「お金」のくだりは、ヨリなりのささやかな抵抗である。

 ヨリは、自分に言いよって来た真木と愛人契約を結ぶ。愛人として一線を引かないと自分が傷付くと経験から学んでいるからだ。この愛人契約の一方、知人から見合いを仕組まれたり、東京で働くことを進められるなど、穏やかではない日々が始まる。

■口に残るティッシュのリアル感

 “ご無沙汰”な体を求められることには、喜びはある。けれど、舞い上がるほど、おぼこでもない。

 ヨリが、彼の膝の間に挟まり“お口”で、サービスを施す姿は、色っぽさがある。が、そこで終わらないのが同作。処理後にティッシュで口を拭う。しかし舌先にティッシュがくっつき離れない、というあられもない描写も。

 なまめかしいシーンのはずなのに、イヤラシサは先立たない。むしろ、数々の恋愛経験を重ねてしまったがために「わかる、わかる」と思わず共感してしまう部分ばかり。この恋愛に対する、客観的で潔い描きっぷりは、少女マンガでは満足しえない読者を引き込む。そしてさらにヨリに自身を重ねてしまう。

「私“およめさん”に憧れたことがじつはない。(中略)“およめさん”という職に就けないと思って育ったふしがある。それなのに私は今“結婚”でこんなに苦しんでいる…」

 世の中の女子全員が少女マンガ脳ではないのだ。“恋愛・結婚”に価値を見いだせなない人もいる。けれど、年頃になるとそんな女子にも、容赦なく“結婚”は降りかかってくる。女でいることとは、なんと難儀なことか。

■人の愚かさとまばゆさを知る

「君とはいつまでも男と女の関係でいたい 僕の“一番”でいてほしいんだ」

 甘言で惑わせていた男達も結局は、手のひらを返す。同じ生物なのに、なぜ男はこうも恋愛の視野が広いのか。全方位を視野に入れ、同時並行で恋ができる。作中でも、ヨリへ言いよってきた男たちの変わり身の早さよ。

 だが女は違う。目の前の人の「一番」になりたい生き物なのだ。女が結婚にこだわるのもの同じ。男にとっても、また社会的にも「彼の一番の女」でありたい。

 さて、アラフォー不倫の行方はどうなったか。

 もっともリアルな結末像は、電車で居合わせたシングルマザーの姿であろう。

 相手の子を身ごもるも、認知もしてくれない。ましてや離婚も。誰かに「頼っ
たら負け」、そんな肩肘張っていた痛々しい姿である。だがその一方で、子どもが生まれると、憑きものが落ちたかのように、「この子のために生きる」と力強さを見せる。

 結婚も出産もしていないヨリには、その自立した力強さはまぶしく写る。けれど人生は思うようには動かない。その流れに身をゆだねるしかないと。今日の、今このときは、果てしなく流れる川の一断面でしかないということを、この作品は教えてくれる。

 不倫は男女両方罪だ。だがなぜか女だけがとがめられ、そして縁談にまで付いて回る。そこまで人生を狂わせるものなら、しなければいい。けれど愛されたい。作中人物の、迷い惑わされ、苦悩し奔走する姿に、いくつになっても人は愚かで、しかし愛に生のきらめきを見いだすことを知らしめる。

 『姉の結婚』は、少女マンガには描かれない、ビターで深みのある恋愛を知ることができる。恋をするとは、痛みも伴い自己責任のともなう大人の行為だと。

 ヨリと真木の選択はいったいなにか。不倫の恋の行方をぜひその目で確認して欲しい。

文=武藤徉子